第七十四話 どうしても欲しいもの(6/9)
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。すみません、遅くまで付き合ってもらって……」
「いえ、これくらい全然ですよ」
卯花さんとのフリーバッティングを終えて、一緒に一息。
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『んじゃ、あとは若い子同士、ゆっくり楽しみなさいな♪』
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気を利かせたのか、振旗コーチは途中で抜けて今は広い室内練習場で二人っきり。あの若作りおばさん、余計なおせっかいを……練習は捗ったけど。
練習復帰1日目で想像以上の成果。あれだけいろんな投げ方をしてくれたものだから、かなり実践感覚を取り戻せた。
でもこれだけできる人なんだから、逆に気になることもある。
「卯花さんって野球やってたんですね」
「はい。小中で一応ピッチャーを主にやってました。ちょっと色々あって高校からは部活とかではやれなかったんですけど……」
「……もしかして、卯花さんって今までもこうやってひっそりバッティングピッチャーやってきたんですか?」
「え?」
「"球団スタッフ"って言ってましたけど、それっぽいことしてるとこあんまり見たことがないから……」
「……あー、そういうことですか。いえ、今までやってたのはまた別の仕事ですよ。こうやってこの球団でバッティングピッチャーとして正式に働くことになったのは今日からですよ」
「これだけできるのに……?」
「ちゃんとできてるかどうかはわかりませんけど……すみちゃんが月出里さんを球団に入れるって決めた頃くらいから頼まれてたんですよ。『ある程度したら月出里さんのバッティングピッチャーをやってくれ』って。それでずっと準備だけはしてました。時々、すみちゃんとか八縞さんにも付き合ってもらって」
「……いつなんですか?」
「いつって?」
「すみちゃんがあたしを指名するって決めたの」
「……3年前の夏くらい、だったかな?すみちゃんがバニーズのオーナーになるために動き始めたのも……」
やっぱりその辺り。それくらいで……ううん、それくらいかかったんだよね。折り合いをつけるのに。
「前に『すみちゃんと三条財閥にお世話になってるから球団の手伝いをやってる』、みたいなこと言ったと思いますけど……」
「……?言ってましたね……!?」
気がつくと、さっきまでより顔が近い。
「はわっ……!?」
「そういうの抜きでも、おれは月出里さんの力になりたい」
「え……?」
「先週のこと……思うところはありましたけど、それでもおれ、月出里さんのことを本当にすごいって思ったんです。自分じゃない誰かのためにあんなに身体を張って助けに来てくれたり、何をされても全然へし折れなかったり」
「…………」
「……おれも実は実家のことで色々あって……同じ血が流れてる者同士のはずなのに醜く争ったり、おれ自身も巻き込まれたり……でもおれは立場が弱すぎて、すみちゃんが助けてくれなきゃ自分さえも守れなくて」
「……それで高校からは野球もできなかった、ってことですか?」
「別にプロになりたかったわけじゃないんですけどね。見ての通り、すみちゃんみたいなすごいピッチャーだったわけじゃないんですし。それでも、自分がやりたいこと、やりたくないことを、自分で選ぶのさえできないのが悔しくて、情けなくて。だからせめて、月出里さんみたいな人の力になりたいんです。自分のことばかりで欲張りすぎる人とか、そういう人に流されて同じように汚れる人だらけの世の中なのに、自分の意思を貫いて筋を通せる、そういう人のためになりたい。それが、おれみたいな"弱っちい奴"に貫ける精一杯だと思うから」
……この人もあたしと同じ……なのかな?きっと……
「なら一つ、お願いしても良いですか?」
「何ですか?」
「あたし、盗塁王獲りたいんです」
「……そう言えばこの前、ビリオンズの招福さんに抜かれてましたね……」
「別にいつまで経ってもホームランが打てないからそういう方向で妥協するとか、そういう話じゃないんですけどね。でも、今狙えるのはそれしかないですから。柳監督に見せられるのがそれしかないですからね」
「……!」
「この球団のOBも『盗塁の秘訣はまず塁に出ること』みたいなことを言ってましたけど、あたしもなるべく早くそこをどうにかしたいんです。そのためにも、卯花さんにはしばらく投げまくって欲しいんです。できるだけ早く一軍に戻るためにも」
「……もちろん、とことん付き合いますよ。毎日何十球でも、何百球でも」
「でも無茶はしないでくださいね?背負うのはすみちゃん1人で精一杯ですから」
「月出里さんの方こそ。すみちゃんだって、共倒れなんて望んでないですよ」
「『今は』……ですよね?」
「…………」
やっぱりそうなんだよね。やっぱり。
「……すみちゃんの望みは、『月出里さんに"史上最強のスラッガー"になってもらうこと』です」
「もちろん、わかってますよ」
だからこそ、それだけは絶対に叶えてみせるから。
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