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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
47/1129

第九話 あたし達が目指すべきは(7/9)

○白組


[先発]

1二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

2中 有川理世(ありかわりせ)[右左]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

5三 リリィ・オクスプリング[右両]

6捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

7指 伊達郁雄(だていくお)[右右]

8左 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9遊 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 氷室篤斗(ひむろあつと)[右右]


[控え]

雨田司記(あまたしき)[右右]

山口恵人(やまぐちけいと)[左左]

夏樹神楽(なつきかぐら)[左左]



●紅組

[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5一 グレッグ[右右]

6指 イースター[右左]

7三 ■■■■[右右]

8二 ■■■■[右左]

9捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


 それからはリリーフのプランやら細かい作戦やらを練って、今日に至る、と。


「プレイボール!」

「1回の表、紅組の攻撃。1番センター赤猫(あかねこ)。背番号5」


 さて、例によっていきなり強敵やな。特に今日の試合は1点すら重い。この人には絶対に仕事をさせたらアカンな。


「頑張ってー!氷室(ひむろ)くーん!」

「今年こそエースになってね!」

「やるわよほら、おとくいのロジンで利き手をポンポンポン!」


 うーん、相変わらず篤斗(あつと)は人気者やなぁ。黄色い声が絶えん。火織(かおり)もなぜかむくれてるし。


 ……ちょっと黙っててくれへんかな?アイツと違って、篤斗のことはあんまり嫌いになりたくないんやし。


「ボール!」

「ファール!」

「ストライーク!」


 今日は5回までと決まってるから少し飛ばし気味とは言え、赤猫さんをスムーズに追い込めた。できればこの球でいけるとこまでいきたい。外れてもええから、外いっぱい狙いで頼む。


(ああ。俺もできるだけあの球は隠しておきたい)


 篤斗と意見が一致して投じた決め球は、先週の試合で主軸としていたツーシーム。


「く……!?」


 しかし、赤猫さんは狙い澄ましたように弾き返す。コースに逆らわず打ち返した打球を、レフトの秋崎ちゃんが追いかける。ライン際、どうなる……!?


「ファール!」

「ああっ、惜しい!」


 助かった。……けど、ちょっとめんどくさいな。


(思った通りね。このツーシーム、左打者の外角、もしくは右打者の内角にしか投げられないみたいね。百合花ちゃんのシュートみたいに内外使い分けられるようになれば大きな武器になるけど、外だけなら打ちようはある。ツーシームってのは基本的に打たせるための球なんだからね)


 コース的にも決して甘くはなかったし、1週間の期間もあった。このツーシームは既にあばかれてると考えた方が良さそうやな。


(お察しの通り、俺のツーシームはまだ決まったコースにしか投げられない。現状、左打者の内角に投げても、大部分は動かなくて甘い棒球になるか、そのまま身体にぶつかるか程度の代物。当初の目的はその辺を改善することだったんだけどな)




 ******視点:柳道風(やなぎみちかぜ)******


 ほぉ……今の打球でもバッテリーもバックも動揺なしか。まだとっておきの隠し玉がありそうじゃな。


(初っ端からってのは不本意やけど、まぁ、コイツを披露するなら相手にとって不足なしやな)

(ああ……見せてやるぜ!)


 オーソドックスな右のオーバースローから投じられる、決して傑出してるとは言えない球速のストレート。


(内寄りストレート……もらった!)


 しかし、赤猫のバットは空を切った。


「え……!!?」

「ストライーク!バッターアウト!!」

「出たわよ!氷室くんの決め球のフォーク!!」

「やっぱり篤斗くんサイコー!」


 確かに手元で落ちた。しかし、球速は139km/h。ストレート自体が速くなったことを加味しても、明らかに以前の氷室のフォークの速度ではない。

 それに、赤猫のあの表情と、珍しく浮かれ気味な旋頭(せどう)の姿。尋常な球じゃなかろう。


相沢(あいざわ)くん、気を付けて。あの球、消えるわよ」

「え……?」

「2番ショート相沢。背番号3」


 すれ違い様に声をかける赤猫。確かに凡退はしたが、いきなりとっておきを引き出した。1番打者としての最低限の働きはしたと言って良いじゃろう。


(あの赤猫さんにあそこまで言わしめる以上、並大抵の球じゃないのは間違い無いだろうな)

「ストライーク!」

(だが、決め球を打たなきゃいけないなんてルールはない。2番打者として、1番が出塁できなかった以上は代わりにその務めを果たすべき)


 1球目カーブの後に投じられたのは、高めボールコース真っ直ぐ。


(……!しまった!)

「ストライーク!」

(『追い込まれる前に叩く』、やんな?)


 冬島(ふゆしま)はフォーク系の決め球の存在意義をようわかっとるのう。ツーストライクであれば相沢ももう少し見てたじゃろうが、追い込まれる前であれば『思いっきり』が働く。そこで比較的安全なボール球によってカウントを稼ぐのもまた配球の醍醐味。

 氷室は制球もそれなりにあるし、少なくとも先週の雷小僧よりは受けてて楽しかろうよ。


(追い込まれた以上、せめて情報は引き出してやる……!)

「ボール!」

(外角際どめのスライダー。さすがは相沢さん、過去の高めのIsoDが示すように目がええな。なら、これでどうや!?)


 外スラの後に、内角に入り込んでくる1球。

(際どい!見逃すか!?……いや、カット!)


 内角ツーシームを引っ掛け、打球はショート月出里(すだち)の方へ。


「ファースト!」

「アウト!」

(うーん、やっぱり(あい)ちゃんの送球は怖いなぁ……下手とかじゃなく、何というか急にビュンッと来るんだよね)

(クソッ、最後の最後で迷っちまった……!)


 危なげのない平凡なショートゴロ。だが……




 ******視点:樹神樹(こだまいつき)******


 へぇ、やるなぁあの子。今のショートゴロの処理、一見すると何でもないプレーだけど、だからこそポテンシャルがよく出てるね。全身どころか上体の捻転すら生かさないスローイングなのに、あのスピードでファーストミットまで一直線。あれだけ強いリストの持ち主が、日本どころかメジャーにだってどれくらいいるものか。


「アウト!スリーアウトチェンジ!」


 あのレフトの子はちょっと打球の追い方が危ないね。多分外野の経験が希薄なんだろう。


「良いリードだったぜ、幸貴(こうき)

「篤斗もええ感じやで。ツーシームは狙い打たれたけど、逆に言えば想定通りに制球できてる証拠や。5回までその調子で頼むで」


 それにしてもあのバッテリー、良いねぇ。俺も対戦してみたくなった。あの妙な落ちる球だけじゃなく、巧妙にアウトを積み重ねられる(さか)しさもある。さっきの3番打者も落ちる球を使うことなく料理してみせた。

 3点のハンデもあるし、これは想像以上に面白い展開になりそうだね。

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