表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
465/1154

第七十三話 もう期待なんてしたくない(3/8)

******視点:卯花優輝(うのはなゆうき)******


 8月23日、朝方。今日からここ、サンジョーフィールドでエペタムズとの三連戦。

 当然、ヴォーパルくんがチームを応援したりファンの人達と交流するわけだけど、今日からしばらく代役の人と交代。おれはしばらく別の用事。


「いっちにっ、さんし……」


 屋内の練習場でまずはウォーミングアップ。


「お疲れ」

「あ、すみちゃん」


 SPの人を伴って、すみちゃんが練習場に入ってきた。


「早くから熱心ね」

「来週からだからね。すみちゃんもどうしたの?こんな早くから……」


 今日は金曜日。土日はデーゲームだけど、今日は普通にナイトゲーム。試合前から視察するにしても、まだほとんどの選手が来てない時間帯。


「突然で申し訳ないんだけど、頼みたいことがあってね」

「何?」

「とりあえずこれ着てみて」

「へ……?」


 SPの人が大きめの紙袋をおれに差し出す。


「うぇっ!?」


 中にはすみちゃんが普段から割とよく着てるような服一式と……すみちゃんの髪型と同じようなカツラ。


「……何これ?」

「昼から急用が入ってね。もしかしたら今日の試合の視察もできなくなるかもだから、その間私の替え玉をして欲しいのよ。前々から告知してた以上、すっぽかしたらまた現場の信頼を損いそうだし」

「だからってこれは……」

「いけるでしょ。貴方、顔も背丈も私と似たようなものだし。余計なこと喋ったりしなければ1日くらいどうにかなるはずよ。特別席での観戦になるから、観客との接触もないわ。たまにカメラに抜かれるだろうけど、そこさえ凌いでくれれば多分大丈夫よ」

「……急用って?」

(あい)のことよ」

「!」


 ひょっとして、この前の……


「二軍戦は今日からのカード全てデーゲーム。試合を見届けて、その後に話をするってなると今日しかないのよ」

「……話すだけなら明日か明後日の夜にでもできるんじゃないの?」

「その上でも、今のあの子を一度見届けてからにしたいのよ。あの子が私に対して何を思って避けてるのかはわからないけど、少なくとも現状の自分に納得がいってないのはわかる。たとえあの子が自分に自信を持てなくても、私はあの子が現状を打破できると信じてるってのを示したいのよ」

「…………」

「打算的な話だけどね。でもそのくらいしなきゃ、とりつく島もない状況だから……」


 ……まぁ、変な誤解を与えたのはおれもなんだし……


「いいよ。行ってきなよ」

「ありがとう。それじゃあ、いったん試着だけしてもらえるかしら?」

「うん」


 いい歳した男が何やってんだって話だけど、このくらいはね。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ぷっ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwうひっwwwwwwひぃっwwwwwww似合いすぎwwwwww貴方想像以上だわwwwwwwくひぃっwwwwwww」

「だ、大丈夫ですか?お嬢様……」


 いつもの澄ました表情はどこへやら。フル装備したおれを指差して、のたうち回るように爆笑するすみちゃん。こういうすみちゃんを見たのはおれは初めてじゃないけど、それなりに付き合いの長いSPさんはひたすら困惑しつつ引いてる。


「……もしかしてこの企み、半分くらい『面白いもの見たさ』なんじゃ……?」

「よくわかったわね、その通りよ。今日の中継、録画予約もしたから、アリバイ作りのついでにまた楽しませてもらうわ」

「すみちゃん……」


 本当に真面目で効率主義な子なのに、何でこう、たまに関西人らしく笑いを求めるんだか……


「ぷひっwwwwww……このクオリティなら文句なしだわ。11時くらいには出ようと思うから……ぷぷっwwwwwwwそれくらいになったらまた着替えてちょうだい。念の為ちょっとメイクもするから……ぷくくくっwwwwww」

「……ねぇすみちゃん」

「ん?」

「これ、すみちゃんがいつも着てるやつだよね……?」

「まぁクオリティを重視したいからね。念には念をよ」


 やっぱり。袖を通した時からすみちゃんらしい花のような香り。同じ物を新しく買ってきたようには思えない。割と女の人に慣れてる方だと自負してるし、すみちゃんなら尚更だけど、流石にこれは……


「いや、おれ男なんだけど……」

「?知ってるわよ、そんなの。それが何よ?」

「……うん、もう良いや」

「???」


 そしてこの鈍感さ。やっぱり吉備(きび)さんも言ってた通り、月出里(すだち)さんに避けられてる理由に気づいてないんだね……


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ