第七十二話 栄光も浮気者(3/9)
******視点:睦門爽也[博多CODEヴァルチャーズ 内野手]******
「ゲームセット!ヴァルチャーズ、4連勝はならず!」
7月25日木曜日。今週はずっと本拠地のゲームで、今日はアルバトロスとのカード3戦目。
しかしテラス席も考えものだべ。確かに助けられることも多いけど、今日は完全に悪用されたべ。アルバトロスはウチ相手だと妙に厄介だな。高座先輩もいるし。
とはいえ、今日は負けたけんど、先月末からの首位はキープ。ウッドペッカーズがようやく落ちてきたかと思ったら今度はエペタムズが追い上げてきたけど、交流戦が終わった後も勝ち続けたからまだ余裕はあんべ。友枝さんがずっと抜けてても投手陣が変わらず盤石。ビリオンズも今年はおとなしいし、今年こそ優勝だべ。
そのためにも明日からのバニーズ戦は稼がねぇといげねぇ。チームとしてもそうだし、おら自身としても。
月出里逢。まぁず可愛い女子だけど、実力は可愛くねぇ。徳田の馬鹿野郎にもコイツにも負げられねぇ。怪我抜けの分もあるとはいえ盗塁であの高座先輩以上に稼いでようが、他はおらが勝つ……!
「野手陣はこの後ミーティングルームに集合!」
羽雁監督からの呼び出し。何だべや?正直、今日の負けは先発が燃えたのが大半のはずだけど……
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ミーティングの内容は今日の反省ではなく、明日からのバニーズ戦に向けての守備に関する打ち合わせ。だけんど……
「何か質問はあるか?」
「ほ、ほんとにそんなのが効ぐんですか……?」
「……解説班の提案だ。オーナーのお墨付きでもある」
そんなオカルトじみた話……羽雁監督も口ぶりからして内心信じてなさそうだけど、去年優勝逃したせいで監督、梅谷オーナーにまぁず絞られたって言ってたっけ……それでも、オーナーがシーズン中にチームの方針に口を挟むなんて滅多にない話。
……ま、ヴァルチャーズの人間が勝つために世迷うことなんてありえねーべ。スコアラーやスタッフの人達が出した答えなら、選手としては信じるほかねーべ。
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******視点:月出里逢******
7月26日。木曜の移動日を挟んで今日から3日間は福岡でヴァルチャーズとの試合。
「1番サード、月出里。背番号52」
「ちょうちょ!今日こそ頼むで!」
「エペタムズ戦の分、取り返してけ!」
「逢ちゃーん!」
変わらず1番で、この反応。まだあたしは信じられてる。
……エペタムズのあたし対策はもちろんおいおいどうにかするつもりだけど、今はとりあえず結果を出して信頼を取り戻すのみ……!
「ボール!」
「外、外れました!しかし初球からいきなり153km/h!」
「いやぁ、本当に真木は今年伸びましたねぇ……」
元々フォークが良くて、まっすぐもかなり速かった真木さんだけど、今年は先発で160km/hを超えるまっすぐを投げるようになった。まるであの変態や、対戦したことないけど幾重さんクラスの球威。
まぁあたしとしては、制球が良くて的を絞らせないタイプよりは、こういう制球がアバウトで球威で圧すタイプの方がやりやすいんだけどね。
(お菊、監督の指示を忘れたか?コイツに限ってはストライク最優先だ)
(ちぇ〜っ……せっかく徳田さん打ち取るために頑張ってスピード上げたのになぁ〜……)
ツーシーム……甘い!
「ファイヤアアアアア!!!」
「レフト線……いや、サード捕った!」
え……!?
「ファースト!」
「アウトオオオオオ!!!」
「一塁アウト!穂村、いきなり好プレー!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「熱いぜ小町!」
「まだまだやれるぞ小町!」
(いや〜、抜かれたと思ったけどね〜……)
(俺も半信半疑だったが、いきなりこうなってしまうとはな……)
今のって、まさか……?
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