第七十一話 主役なんてない(8/9)
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号52」
「逢ちゃーん!頑張ってー!」
二軍にいた時と変わらず、佳子ちゃんがベンチから身を乗り出して声援。もはや懐かしさも感じる。
「今日のエペタムズの先発は左の嵐田。今シーズン18試合目の登板、ここ5試合は安定した投球内容を見せています」
くしくも去年、一軍デビューの時の相手だった嵐田さん。去年はイマイチの成績だったけど、今年は登板ごとのイニングを短めにしてるのが効いてるのか、数字が良くなってる。
どのみち制球の良い投手。四球を狙うのはちょっと骨が折れる。甘く入ったら積極的に打っていきたい。
「ボール!」
「初球はカーブから入ってきました!」
向こうもそれがわかってるのか、1球目から難しいところを狙ってきたっぽい。
(入ればそれに越したことはなかったが、振りにいくにはもってこいの場面。作戦通り行くぞ!)
(はいなのです!)
インコース、食い込んでくるスライダー……!
「引っ張った!」
よし、抜ける……!
「ショート追いついた!」
え……!?
「ファースト!」
「アウト!」
「黄金丸、軽快に捌いてワンナウト!」
「よしよし!良いぞ黄金丸!」
「守備も復調気味だな!」
(ほんとに来た……この位置に……)
今のがアウト……?
確かに綺麗に捉えた。ちょっと浮いた内へのスライダー。三遊間を抜けるイメージそのままの打球を放てたはず。今年不調とはいえ、黄金丸さんの守備範囲が広いのは知ってる。それで今まで何度かヒットを損してきた。でも今のは……
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「サードバウンドが高い……一塁どうか!?」
「セーフ!」
「ヘッドスライディング!間に合いました!秋崎、プロ初ヒット!これでチャンス拡大、ワンナウト一三塁!」
「ナイスガッツおっぱい!」
「あれでヘッドスライディングしても大丈夫なんか……?」
「よっしゃ、ワイが触診したるわ(クソノンケ)」
佳子ちゃんが良いところでプロ初ヒット。でも、今はちょっとそれどころじゃない。
「1番サード、月出里。背番号52」
「ここで打席を迎えるのは兎のホープ、月出里!3試合連続マルチヒット中と当たっておりますが、今日は2打数ノーヒット!」
「当たりは悪くないんですけどねぇ。ちゃんと捉えてるんですが、エペタムズナインがすんでのところで阻止してるんですよねぇ。そろそろアンアッキーが途切れると良いんですが……」
「6回の裏、5-0、逆転の口火を切れるか……」
「大丈夫やちょうちょ!」
「もう嵐田は降りたんや!」
「いつものこういう時のスリーベース頼むで!」
(わかってるな?多少緩くなってもかまわん。その代わり、コントロールはきっちりとな?)
(はい!)
一昨日までと同じで、きちんとイメージ通りのバッティングができてる。前に監督に言われた通り、一打席一打席初心を忘れずに取り組んでるし、少なくともあたし自身は一昨日までと変わってないはず。なのに、あと一歩のところで阻まれてしまう。
「ストライーク!」
特別厳しいところじゃなかったけど、様子見のためにあえて見逃し。やっぱり嵐田さんと同じで、そこまで球威がすごかったり、変な癖のある球を投げてるわけでもない。今年に入って散々見てきた、『一軍ではごくありふれてる』くらいの球。なのに……
「一二塁間……いや、ファースト捕った!」
「アウト!」
「二塁フォースアウト!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ダブルプレー!!バニーズ、この回も無得点!!!」
「あああああ……」
「マジかよぉ……」
「今ので抜けんのか……」
外のまっすぐ、流しても強い打球を打てる自信はある。脚にも自信があるけど、ヒットも長打も大体打球の速さで稼いできた自負がある。だから正直、今のも黒毛屋さんなら流石に抜けたと思った。でも阻まれた。
ここまでくると偶然とは思えない。どうしてこんな……




