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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
446/1163

第七十一話 主役なんてない(2/9)

******視点:卯花優輝(うのはなゆうき)******


「すみちゃん、もう大丈夫?」

「平気よ、このくらい……」

「こんな時くらいゆっくりしないとね」

「こんな時にゆっくりなんてしてられないってのに……」


 7月18日、オフの日。都内の大きな病院の、貸切の病室。

 謝罪行脚中に倒れたって聞いて、心配で今日の朝イチで駆けつけたけど、流石に3日ほどゆっくりしたおかげで話に聞いてたよりは体調は良さそう。こうやって話しながら、小さい頃からと同じようにボールを回して指先を鍛えてるのがその証拠。


「ちょっと付き添ってくれる?」

「どこ行くの?」

「喉乾いたから」

「おれ、買ってくるよ?」

「リハビリも兼ねてよ」

「そっか、それじゃあ……」


 ベッドから起き上がるすみちゃん。スリッパのとこに足を下ろそうとしてるけど……


「……!きゃっ……!!」


 やっぱり……!




******視点:月出里逢(すだちあい)******


 7月18日、オフの日。都内の大きな病院の病室前。扉の前には黒服で背の高い女の人が1人。


「おはようございます、月出里(すだち)選手」

三条(さんじょう)オーナーの病室ってここですよね?入って良いですか?」

「ええ、話は伺っております。どうぞ」


 サングラス越しだけど、硬い表情を緩めて扉の前から退いてくれた。

 正直、昨日一昨日はプレーに集中し切れなくて散々だったけど、今はそんなことは良い。昨日試合が終わってすぐに新幹線に飛び乗ったのも、今日の朝イチから行動できるようにするため。この際余計にかかる宿泊費もどうでも良い。遠征先の埼玉じゃなく帝都のビジホなのも。


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 893 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 【悲報】菫子たそ、緊急入院

 ttp://www.news-posteight.com/archives/20190715_9315.html



 894 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 >>893

 ええ……(困惑)



 895 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 >>893

 上級国民様特有の責任逃れ



 896 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 80超えた爺さんが倒れるのなんて想定の範囲内やけど

 不祥事続きの中でこれって……



 897 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 そもそも編成の時点で色々おかしい

 じいさん監督に問題児抱えまくり

 正常な選手も左打者だらけで内野もスカスカ



 898 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 >>897

 層が薄いから財前とかの不良債権抱えてたんだよなぁ



 899 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 ええかげん桜井鞠のことはっきりさせーや



 890 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/07/15 (月)

 やっぱ話題性だけの若いオーナーなんてこんなもんやろ

 肝心な時に役に立たん


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 すみちゃんの苦労も、これまでに犠牲にしてきたものも、何も知らないボンクラどもがネットでピーチクパーチク騒いでるけど、そんなのだって関係ない。ちょっと無理をしすぎただけ。確かにチームは苦しい状況だけど、すみちゃんが回復すればきっと事態は好転する。

 まぁそれでも、しばらくはゆっくりしてほしいけどね。これ以上あたしが発端のことですみちゃんに負担をかけたくないし、この機会にしっかり身体を休めてほしい。そしてできれば、今の不甲斐ないあたしをまた励ましてくれたら嬉しい。


 道すがらで買った大きな花束を抱えて扉を開けると……




「「「あ……」」」


 ベッドから身を乗り出したすみちゃんの身体を、卯花(うのはな)さんが抱きかかえてた。


「……失礼します」


 すぐに扉を閉めた。


「!!!ちょっと!病院内で……!」


 看護師さんや、点滴を持って歩いてるおじいさんとかを避けながら、ひたすら廊下を走る。とにかくあの空間から少しでも離れたかったから。そんなことをしても、目の前にあった事実が変わるわけがないのに。


「バカみたい……バカみたい」


 トイレに駆け込んで、ズボンを履いたまま便座に座り、俯いて繰り返す。


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『何飲んでるんですか?』

『白湯です』

『朝も飲んでましたよね?』

『美容のためです』

『月出里さん、可愛いですからね』

『……当然です』


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『すみちゃんって、その……カレシとかいたりするのかな……って……』

『は?……いや、いないけど……』

『じゃ、じゃあ許嫁(フィアンセ)……とか……?すみちゃん、お嬢様だし……』

『……まぁ、それなら一応……』

『や、やっぱりいるんだね……そういう人……』


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 あたしのこと『可愛い』って言ったくせに。散々期待させたくせに。

 ……関係ない。あたしには関係ない。想定してたじゃん、こんなこと。前にもすみちゃんも言ってたじゃん。あたしはすみちゃんの駒なんだから、こんなこと、あたしには関係ない。

 今の腑抜けたあたしをどうにかしてほしいなんて、何甘ったれてたんだろ?そんなのってすみちゃんの望むあたしがすることじゃない。あたしはただひたすらすみちゃんの思い通りに動いてたら良い。それがあたしの義務。あたしの贖罪。あんなの、あたしには関係ない。


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