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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
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第七十話 瓦解(3/9)

「あ、おかえりなさい!」


 埼玉への遠征が終わって、新幹線から降りて新大阪駅。在来線の方へ向かうといつも通り、卯花(うのはな)さんのお迎え。

 変に勘ぐられないように、SPみたいに黒いスーツとサングラス。まぁ背はそれなりにあるし、身体つきも意外としっかりしてるけど、ピンクの髪色とサングラスでも隠しきれない童顔。コスプレ感が否めない。


「今月は大活躍でしたね」

「打率とか盗塁も良いんですけど、そろそろホームランが打ちたいです」

「だ、大丈夫ですよ!出場し続けてたらいつか必ず……どうしました?」

「あ、すみません……」


 駅の中も電車の中も広告だらけ。でも、デザインのプロのなせる技なのか、たまにそんな中でも目につくものがある。ふと目に飛び込んだのは、ウエディングドレス姿の女優さんのアップが目立つもの。


「何か結婚式関係の広告が多いなーって……」

「ああ、ジューンブライドってやつですね」

「???じゅーん?ぶらいど?」

「……『6月の花嫁』です」

「す、すみません……あたし、英語本当にダメで……」


 昔の日本人も3月を『やよい』とかそんな感じで気取った言い方してたらしいけど、何で外国はそのまんまなんだろうね?普通に『わんむーん』『つーむーん』とかでいいじゃん。

 ……っと、それは置いといて……


「……月出里(すだち)さんも、ご結婚とか考えてるんですか?」

「まぁ一応……というか、こういう可能性もあったのかなーって」

「?」


 そもそもあたしはプロ入りを諦めてて、ドラフトの時に届を出せれば満足くらいの気持ちだったからね。それで就職して顔が好みで高収入の男を捕まえて子供2、3人産んで育てるつもりだった。結婚式自体は別にやってもやらなくても良いけど、式費用くらいポンと出せるくらいじゃなきゃ不安だなぁとか。

 この広告を見てたら、そんな当初の人生設計を思い出した。そして、ふと思った。確かにプロになるのは昔からの夢だったし、今の立場には十分満足してる。

 でもそもそも今のあたしはすみちゃんの犠牲の上に存在するようなもの。そしてプロに入って良い思いばっかりしてきたわけじゃない。めんどくさい人付き合いも多いし、テレビに出る仕事だからプライベートでも窮屈な部分はあるし、昔以上に人に妬まれたり、負けて悔しい思いもしてる。今年に入ってからは特にそういうのを実感してる。すみちゃんだけじゃなく、キャロットのことだってある意味あたしの存在そのものが遠因。

 もしあのまま、思い描いてた通りの進路を歩んでたら……


「大丈夫ですか……?」

「あ、すみません……ちょっと考え事を……」


 でも、一つ確かなのは、プロに入ってなかったらきっと卯花さんと出会うことはなかった。


「……あたし、結婚するなら最低限、あたしをお姫様抱っこできるくらいの人がいいんですよね」

「そうなんですか?でも月出里さんくらいなら……」

「お世辞はいいですよ。名鑑とかにもあたしの体重載ってるじゃないですか」

「そ、そうですね……」

「試してみます?」

「うぇっ!?」


 この人のことでは……まぁ今のところプラスしかないかな?


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