第七十話 瓦解(2/9)
******視点:月出里逢******
6月27日。交流戦後の連休最終日。
明日からはまた埼玉でビリオンズ戦。ナイターではあるけど、今日のうちに移動しておく。
「……スダチサーン!」
「あ……」
寮を出ると、そこには大荷物を抱えたキャロットの姿。
「もう帰るんですね……」
「ハイ。長居しても迷惑デースカラ」
薬物検査に引っかかって1年間の出場停止。内野が少ない状況で、違反者のために枠を1つ1年間も残しておけるわけがない。今日のその報道からすぐ、キャロットの退団も正式に発表された。
「本当に……したんですか?」
「……結果が全て、デース」
「そうですか……」
「スダチサーンみたいになりたかったデースカラネ」
「え……?」
「春キャンプで言ったと思いマースガ、ワターシは本当にスダチサーンの強打に憧れてマース。だからワターシ、少しでもスダチサーンに近づきたかったんデース」
「…………」
「『スダチサーンのせい』と言いたいわけじゃアリマセーン。それだけスダチサーンはすごいと思ってるのデース。もう日本でプレーすることはないと思いマースガ、ベースボールは母国でも続けマース。お互い、国の代表になれるように頑張りマショー」
「……はい」
今年はほぼ毎試合一緒に過ごしたのに、突然のあっけない別れ。悲しいわけじゃないけど、これもプロの世界なんだなーって……
薬を使ったり、それですみちゃんに迷惑をかけたことに、もちろん思うところはいくらでもある。でも、キャロットの気持ちもわからなくはないし、それだけ憧れてもらえたことは素直に嬉しく思う。
妬まれたり、それが原因で大事に巻き込まれるのは散々経験してきたつもりだったけど、お金が絡む大人の世界は、学校の中とは一味も二味も違うね……
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