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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
431/1157

第六十九話 その瞬間の正解(3/6)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


「4回の表、バニーズの攻撃。9番ピッチャー、夏樹(なつき)。背番号27」

「4回の表、5-8。ゲームは中盤に入りますが……夏樹がこのまま打席に入りますねぇ」

「今日の投球内容的にいけるところまで……ってことでしょうねぇ。次の回も左が続きますし、良い経験になるでしょうね」


(やば……本チャンで打席に入るの高校以来じゃん……一応交流戦入ってからバント練習とかはしてるけど……)


 9番からの打順で先発はもう降りてる。追い上げるなら代打がセオリーな場面。それでも打席に立つのは……


「ストライク!バッターアウト!!」

「ああ〜、当たりませんでした……夏樹も思わず苦笑い!」

(そらあっし、昔からバッティング苦手だし……)


「ドンマイドンマイ巫女ちゃん!」

「お前初めてだったのか?力抜けよ」

「裏のピッチングも頼むでー!」


 そこまで点差のないビハインドでも、神楽(かぐら)ちゃんを責めるような雰囲気はない。当然。大量失点の責任なんてこれっぽっちもないんだしね。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号52」

「さぁ早くも打順は三巡目に突入します。ワンナウトランナーなし、打席には1番の月出里。今日はセカンドフライと三振でノーヒット」


「そろそろ出てくれやちょうちょー!」


 そうしたいのは山々。だけど……


「ストライーク!」

「ストレート空振り!」

「振り遅れ……てはいないですねぇ今度は」

「ボール!」

「ファール!」


 元々身長の割に筋肉のせいで重い方。でもその筋肉のおかげで、この身体でも単純に走ったりとかそういうのは全然問題なくできる。それでもやっぱり、重さの分だけ勢いも増す。身体がつっかえて振り遅れる分を修正したら、今度は体重移動の勢いに身体を持っていかれる。そのせいでスイングの出だしが思ったよりも早くなっちゃってる。

 良い塩梅、良い塩梅……


「ッ……!」

「ファースト捕って、そのまま……」

「アウト!」

「アウト!ツーアウト!月出里、三打席目も凡退!ファーストゴロ!」


 逆方向にカットして逃げるつもりが、やっぱりスイングが思ったよりも早く出ちゃって、フェアゾーンに……


「ああ〜〜……」

「もう、何やっとんねんでぶでぶ……」

「飛ばせない豚はただの豚だ」

「アンタは牡丹(ぼたん)じゃなくて豚よ豚!」

「それカーチャンの名前やで」


 そう言われるのは仕方ない。すみちゃんが生で観てくれるかもしれなかったこの試合でまたやらかし。あたしだって自分が情けない。


「!!?」

「ヒェッ……」

「こええ……」


 でも可愛いあたしに対して"でぶでぶ"とか"豚"とか"ひと昔前のキャッチャーのイメージ"は許さん。今は観客席を睨むだけで済ませるけど、覚えてやがれ。


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天野(アマノ)サーン!」

「ほいっと!」

「アウト!」

「セカンドゴロ!夏樹、この回も先頭打者をキッチリ締めました!」


 シャークス戦の時みたいに、左相手だとバッチリな投球内容。向こうの打線が良くも悪くも左右ジグザグとかそういうのにこだわってないのが逆に功を奏してる感じ。


「2番センター、西村(にしむら)。背番号23」


 次の西村さんも左。順当に行けば抑えられそうだけど……


「ワンナウトランナーなしで打席には今日2安打のベテラン・西村」

「倍くらいの年齢差の選手の対決も見れるのもプロ野球の醍醐味ですよねぇ」

(またあたし、おばちゃん扱いされてる……!?)


 あの歳になっても脚はまだそこそこある。内野安打に気をつけなきゃ。


「ストライーク!」

「初球フォークから入りました!空振りでワンストライク!」

(ふぅ……久々の複数イニングは思ったよりも身体にくるな……!?)

「ストレート打って……サードの頭上!」

「ッ!!!」


 届かない……!


「フェア!」

「レフト線フェア!打った西村、一塁蹴って二塁へ……」

「セーフ!」

「ツーベース!西村、これで猛打賞です!!」

「ちょーっとストレートが浮きましたねぇ……


「「「ナイスみゆきち!」」」


「おいィ!?いつもやったら捕れてたやろうが!!」

「跳べねぇ豚はただの豚だ」

「いや、今のは……」


 流石にいつも通りでもあれは無理……背が低いなりにジャンプ力には自信があるんだけどね。だけどどうしても色眼鏡がかかるせいか、非難轟々。仕方ない、仕方ない、仕方ない……


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、夏樹に代わりまして、カリウス。ピッチャー、カリウス。背番号47」

「あー、ピッチャー交代ですね……」

「これは仕方ないですよ。ここから鉄炮塚(てっぽうづか)、ホワイトと右が続きますからねぇ」


「ゴメン……」

「気にすんな。あんなん普通は捕れねーよ。失投したあっしが悪い」


 マウンドに集まって、神楽ちゃんに一応の謝罪。でも正直言うと、ちょっとホッとしてる自分がいる。昨日の判断で今日ダメなあたしと、今日よくやった神楽ちゃん。これ以上差を付けられずに済んだからね。

 ……ほんと、あたしって嫌な奴。


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