第六十九話 その瞬間の正解(2/6)
前回、描写に誤りがあったので修正しています
スリーラン→満塁ホームラン
スコア→3-8
******視点:夏樹神楽******
「さぁツーアウトランナーなしですが、注目の対決となりました。15本塁打の猪戸、開幕からリリーフとして要所を抑え続ける夏樹。お互い高卒2年目の若い選手」
「5点差ビハインドでも、序盤でこの荒れた状況なら再逆転も十分あり得ますからね。敗戦処理とかじゃなく大事な場面ですよ。しっかり経験を積んで欲しいですね」
白雪と比べると対戦したことがあんまりないけど、タイプとしてはそれほど大きな違いはない。デカい身体で飛ばす、左のスラッガー。
「ストライーク!」
(むぅ……外いっぱいか)
「初球カーブから入りました!見送ってワンストライク!!」
「カーブ系を安定して入れられるのが良いですよねぇ」
スピードで勝負するのが難しいあっしにとっちゃ、緩い球は入れられなきゃ話にならん。見送られてストレートに絞られたらそれだけでアウトだからな。
(よしよし、次はフォークで……)
伊達さんのサインは普段なら妥当なとこ。でも……
(……え?これ?)
代わりのサインに首を縦に振る。
「ボール!」
「ストライーク!」
「ストレート続けて空振り!今度は振らせました!!」
前のシャークス戦のカード用に対左意識で調整したのもあって、ボールが先行するようなことがない。
そして何より……
「!!!」
「ストライク!バッターアウト!!」
「高め、空振り三振!最後は141km/hストレート!!」
「おいおい、何でそんなの空振るんだよ……」
「いつもの猪戸なら合わせるくらいできたやろ……」
元々ゴツい身体してるからわかりづらいけど、昨日のドカ食いが尾を引いてるのは逢だけじゃない……ってことだな。
伊達さんの提案通り、普段なら変化球中心でいきたいとこだったけど、ストレートでも十分勝負できるのなら、失投リスクもあるフォークに頼ることもない。
(月出里逢には維持ば張れたばってん、盤外戦での勝者は……)
確かにあっしは逢やお前ほど食が太いわけじゃないけど、喰う量を考えてコンディションを維持するのも立派な調整。選手としての格はお前の方が上なのかもしれないけど、結果が全てってね。
「これでスリーアウト!しかし2回の裏、打者一巡の猛攻で……」
「神楽ちゃん、ナイピー!」
「おう!」
……そのための、昨日のドカ食いの静観。逢を犠牲にする形にしたのは申し訳ないけど、あっしも生き残るのに必死なんでね。
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「ストライク!バッターアウト!」
「最後は空振り、スリーアウトチェンジ!夏樹、この回も0で抑えました!」
回跨ぎで不安はあったけど、左続きで下位打線。想定通りのピッチングができた。
「ようやったのう」
「ありがとうございます!」
ベンチに戻ると監督からのねぎらい。
「次の回もいってみるか?」
「!?いいんですか?3点差に迫れたのに……」
表の攻撃で十握さんのツーランで今のスコアは8-5。序盤だからまだ捨てるような内容じゃない。
「次の回も左が2人続くしのう。しばらく休んでもらうことになるが、長いイニングも経験しておいて損はなかろう?」
「……やります!」
そりゃあっしだって先発やれるんならやりたいからね。そのチャンスがあるのなら望むところ。
雨田にはもちろんのこと、逢にだって佳子にだって本音を言えば勝ちたい。今は逢があっしらの中で看板みたいなもんだけど、とって代われるもんなら……ってね。




