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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
424/1152

第六十八話 蝶と猪(3/7)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


 6月8日土曜日。昨日とは打って変わって快晴。それも今日はデーゲーム。プロはナイターが基本だけど、野球という競技自体はやっぱりこういう時に外でやるに限る。


「ナイバッチ!」


「おおっ!あれが噂の十握(とつか)か」

「バニーズには珍しいタイプだよなぁ」

「まぁウチには猪戸(ししど)がいるけどな!」


 ビジター側の打撃練習の時間帯にすでに球場入りしてるファンにもなると、別リーグの選手のこともよく知ってる人が多いね。


 今日の相手は西東京雁芒(にしとうきょうかりのぎ)ペンギンズ。リーグ・コンサバーに属する6球団の内の1つ。経営元は健康食品などを主に取り扱ってる雁芒(かりのぎ)グループ。

 『西東京』と名乗ってるけど、これは同じ東京の球団でより東の方にあるジェネラルズとの差別化のための呼称で、西東京市は無関係。本拠地はここ、新宿にある"大学野球の聖地"として覚えめでたき青山帝稜(あおやまていりょう)球場。

 初の優勝と日本一までに創設からおよそ30年ほどかかったくらい、大昔は弱小球団の代名詞みたいなところだったけど、70年代に今の経営元に移ってから少しずつ地力を付け、90年代に勝ちまくったおかげで今では優勝と日本一の回数だけ見ればむしろ強豪寄り。特に野手の育成のノウハウがしっかり蓄積されてて、球界を代表するレベルの野手を定期的に輩出し続けてるのが強みと言える。投手陣も粒揃い。

 ただ、良い選手は揃ってても怪我人が出やすいことでも有名な球団だからか、順位の浮き沈みが激しいのも特徴の一つ。よく開幕前にやる順位予想でも、ペンギンズほど予想が難しい球団はないだろうね。去年は2位で、今年の春先もかなり勝ってたけど、5月に入ってからは負けが混んでて、今は最下位のシャークスとゲーム差がほぼない状態。まさにリコのダークホース的存在と言える。


「さぁ交流戦は早くも2カード目!今日と明日はここ帝稜球場でバニーズとの対戦となります!主力選手の脱落が多い中ではありますが、期待の若手の台頭など明るいニュースも多く、手強い相手になりそうですね!その中でも注目の1人が、今フリーバッティングで快音を重ねてるドラフト1位ルーキー・十握三四郎(とつかさんしろう)!」


 向こうではテレビ関係者。単純な観客動員数ではリコの中じゃ少ない方のペンギンズだけど、それでもリプの球団の中で観客動員数でリコの球団のどれか1つにでも勝ってるのは現状ヴァルチャーズだけ。交流戦は戦績だけで言えばリプの球団の方が勝ってる傾向があるけど、客商売で言えば胸を貸してる立場なんてとても言えない。こうやってウチの選手の名前を売れる機会があるのはありがたい話。


「そして、もう1人が……あ、あれ?」


 ……え?


月出里(すだち)選手……ですよね?」

「はい」

「君なんか写真と違わない?(素)」

「可愛いじゃないですか」

「いや、まぁそうなんですが……その、方向性が……」


 大きな蝶のようなリボン、それにあの塩対応とナルシストぶり。間違いなく月出里くんだと思うけど、何かいつもよりこう……モチモチしてるというか……


「え?あれが噂の月出里逢(すだちあい)?」

「顔だけは上等なバニーズの中でもとびっきりの美女って聞いてたんだけど……」

「あんな丸顔じゃなかっただろ」

「あんな身体でショートのUZR2位なのか……?」

「むしろエッチだ(怒)」


「今日はもう勘弁してください」

「は、はぁ……」


 観客も騒然とする中、雑に取材を切り上げて練習に戻る月出里くん。


「月出里くん、一体どうしたんだい?」

「昨日ちょっと食べすぎちゃって……」

「だ、大丈夫なのかい?試合……」

「どうにかします。明日には多少マシになってると思うんで」


 まぁこれから暑くなる時期にたくさん食べれるのはプロとしては美点ではあるんだけどね……これでちゃんと試合もできるんなら良いか。


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