第六十七話 片鱗(4/6)
******視点:妃房蜜溜******
「5番セカンド、キャロット。背番号59」
「9回の裏、1-1、ツーアウト満塁、出塁すればサヨナラの大チャンスで打席にはキャロット!」
「今日はヒットはありませんけど最近好調ですからね。ここで決めたいところですね」
登板を終え、アイシングをしながらベンチに腰掛けて俯く。
……負けた。いつもなら良い勝負さえできればそれでも満足できる。だけど今日は……
月出里逢に文句を言うのは筋違い。アタシが望む勝負に勝った上で走ったんだから、何も言う資格はない。阻止できなかったのはアタシの力量不足。実力で貫けない信念なんて、それは信念じゃなくもはや単なる我儘。
そういう自覚があるから、なおさら辛い。こんな思いをするのは多分お人形さんとして甘ったれてた頃以来。
「……ボール!」
「バット止まりました!これでスリーワン!」
「やべぇよ……やべぇよ……(ヽ*´○`*)」
「何で向こうの打線、恵比寿の球をあんなに見極められるんや……?」
「普通に球走ってるはずやのに……」
他の投手のやり方に興味はないし、チームの勝敗にもこだわらないけど、それでも自分が招いたピンチを後の投手に押し付けるのは流石に忍びない。『投手と打者の勝負』だけにこだわるとしても、状況が違えばやり方も変わってくる。その上で良くない状況を押し付けたわけなんだから。
……特に恵比寿さんみたいな、右の球威で勝負するタイプだと結構苦労すると思う。アタシって左投手ではあるけど、実質右投手みたいなものだし。
「!!!ショート飛びついて……」
「ッ……!」
「抜けた!抜けた!センター前!!三塁ランナー月出里ホームイン!!!」
「「「「「おおおおおおおッッッ!!!!!」」」」」
「サヨナラ!逆転サヨナラ!バニーズ、最終回で巻き返しました!!2-1、バニーズ、交流戦初戦で劇的な逆転勝利ッッッ!!!」
「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」
「キャロットもよう打った!」
「こういうのでいいんだよこういうので(満足)」
「そ、そんな……(ヽ*´○`*)」
「途中までパーフェクトもあったのに……(ヽ*´○`*)」
「もうこんなチーム、明日まで応援しないんだ!(*`◯´*)」
ほんの少し浮いたツーシームを捉えられて肩を落とす恵比寿さん。本当に申し訳ない。アタシが変に意地を張ったばっかりに……
******視点:月出里逢******
「逢ちゃん!」
「逢!マジですげーなお前!」
「……流石です」
ゲームセットの瞬間に二塁から駆けつけてくれた千尋さん、そしてベンチから神楽ちゃん、十握さんと次々に向かってきて祝福。
「ご覧頂きました一戦は、2-1でバニーズの勝利となりました。本日のご観戦、誠にありがとうございました」
場内に流れるアナウンス。改めてうまくやれたことを実感できた。もうこれだけであたしは十分。
「おい、今日のヒーロー」
「あ、あたしはホーム踏んだだけなので」
「馬鹿を言え。どう見ても今日一番の功労者じゃろうが。変なところで若王子に似おって」
ベンチに戻ると監督からの催促。正直めんどくさい。
「……ん?」
ベンチ前にヴォーパルくんの姿。あたしの方を見て手招きしてる。
「ほら、月出里くん」
「……わかりましたよ」
何故かちょっと行く気になった。何でだろ?
「スダチサーン!ナイスバッティングデーシタ!」
「あ、キャロットもですよね?」
「そうじゃな。月出里とキャロットと三波にするか」
「うーん……神楽ちゃんにしませんか?」
「三波さん!?」
「私なんて負け投手一歩手前だったけど、今日一番良いピッチングしてたじゃない。お姉さんに遠慮しなくても良いのよ。同期で一緒に出た方がファンもきっと喜ぶわよ」
「そ、それじゃお言葉に甘えて……」
神楽ちゃんが照れくさそうにあたしとキャロットと一緒にベンチの前の方に。
「トゥディズヒーロー……ナンバー59……デーブ・キャロット!!!」
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