第六十六話 キミだけはそうであってほしくなかった(5/5)
******視点:伊達郁雄******
「ストレート打ち上げて……セカンド後ろ向きで……追いつきました!これでスリーアウト!」
「やっぱすげぇよワン子は……(テノヒラクルー」
「あと1イニング!あと1イニングなんだ!(*^○^*)」
「まだ完封があるんだ!(*^○^*)」
「うーむ……思った以上に向こうが粘るのう……」
「ですね……」
思った以上にスコアが動かない。この8回裏の攻撃も、結局三者凡退。月出里くんの次に妃房くんと合ってるっぽい相沢くんも、またしても向こうの堅守に阻まれて出塁できず。
(やっぱり良い打者だね、この人も。多分病み上がりで下位なのが残念)
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、夏樹に代わりまして、埴谷。ピッチャー、埴谷。背番号21」
「ハニィィィィィィ!!!」
最近のシャークス打線は速球派投手に強く出られるところがあるけど、埴谷くんならまぁ心配いらないだろう。
「9回の表、シャークスの攻撃。2番センター、戸狩。背番号1」
確かに今日はいつもの唐須くんが不調だったけど……
「ストライク!バッターアウト!!」
「ええでええで!」
戸狩くんは戸狩くんで去年からバットが湿りっぱなし。
(あんまりバッテリー組めんかったけど、ハニーさんは元々先発ローテ候補。他のクローザーと比べると球威よりも手札の多さが武器になるタイプ。こういう時にスライダーカーブで躱せると楽でええわ)
「3番指名打者、ハンマー。背番号99」
問題は一発が怖いここからだけど……
「打ち上げた!ピッチャーそのまま天を仰いで……」
「アウト!」
「3939」
右サイドの変則投手、左キラーと続いた後の右の本格派。投手陣全体で緩急が効いてる。不意のソロムランの危険はあれど、そうそう繋いで繋いでの大量失点は喰らわないだろう。
「4番レフト、天竺。背番号25」
今日唯一得点を挙げてる天竺くんは流石に怖いけど……
「まっすぐ打って……ライト大きい!」
(このくらいは……!)
「アウトオオオオオ!!!」
「ライト松村、追いつきました!これでスリーアウト!」
「おっしゃあああああ!!!」
「9回もどうにか抑えたで!」
「逆転!次の回こそ逆転や!!」
天竺くんがあまり得意ではない速球がどうにか勝った。スコアが思ったより動かないのはこっちも同じだったけど、守備ならこっちの方が上。
「さぁ9回のマウンドですが……妃房がそのままマウンドに向かいます!今シーズン初の完封勝利を目指します!」
あとは終盤まで積み重ねてきた布石が最後の最後に利いてくるか……
「9回の裏、バニーズの攻撃。8番ライト、松村。背番号4」
「バニーズの9回の先頭打者は、先ほど好プレーの松村。今日は三振とキャッチャーファールフライ。同学年対決、最後に一矢報いることができるか!?」
(月出里さんばかりに良いところを持っていかせませんよ……!)
今は外野は左打者だらけだけど、妃房蜜溜が相手なら左右はあまり関係ない。ある程度打席慣れした打者の方がまだ期待値は大きい。
「ッ……!」
「スライダー引っ掛けて……」
(よーし!最後にキッチリ決めて、交流戦後もレギュラー……)
「ああっと!セカンドグラブ弾いた!!」
「「「「「ファッ!!?」」」」」
「セーフ!!!」
「何やってんだワン子ァ!!!」
……まぁ、今日のシャークス野手陣はやけに守備が固かったからね。
(最後の最後で未香め……!)
(まぁ良いよ。どのみち月出里逢と勝負するのは確定なんだから)
「9番キャッチャー、冬島。背番号8」
どうにか得点圏で月出里くんと勝負させたいところだけど……
「ああっ!」
「くそッ……!」
「冬島、スリーバント失敗!これでワンナウト!」
「164km/h……」
「もう100球超えてるのに元気満々やな」
(バントが決まろうが別に構わなかったけどね。こっちにはミラー監督への手札があるし)
疲れが一周回ったのか、妃房くんの制球がまた整い始めた。
「1番サード、月出里。背番号52」
やれる手は尽くしてきた。後は妃房くんの最後の底力が上回るか、月出里くんの特長が上回るか。




