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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第九話 あたし達が目指すべきは(1/9)

******視点:冬島幸貴(ふゆしまこうき)******


 2018年2月11日、建国記念日。

 初代の帝が他勢力を征伐し、ここ日本帝国が建国されたとされるめでたい日に、明日のバニーズを背負いうるオレらが既存主戦力に立ち向かうとは、随分と洒落が利いてる。


「え……?」


 せやけど残念ながら現状、この場の主役はまだオレらやないらしい。紅白戦の会場となる一軍グラウンドは、既に多くのファンが集まっていて、騒然としてた。

 ふと目に入ったのは、我が球団のオーナー三条菫子(さんじょうすみれこ)の姿。もちろん、彼女も高校時代からずっと世間の注目の的やけど、ファンの視線の先に彼女はいない。彼女もまた、ファンと同じ方向を向いて呆れてる。


「嘘やろ……?」


 そこにいたのは、樹神樹(こだまいつき)。日米通算4000本安打、日本プロ野球史上唯一のシーズン打者五冠、メジャー10年連続200本安打、史上最多のシーズン262安打など、数えきれないほどの偉業を成し遂げたスーパースター。プロ野球ファンではないどころか野球のルールも知らない素人ですら一度はその名を耳にしたことがあるはずの超有名人。


「監督、お久しぶりです!」

「おお、樹神(こだま)。契約が決まったようじゃな。おめっとさん」


 今でこそ"球界最弱"と覚えめでたき我らがバニーズやけど、当然強かった時期もある。優勝かてした。その原動力となったのが、他ならぬこの樹神さん。メジャー球団に移籍してもう20年近く経った今でも、当時の監督やった(やなぎ)監督を慕って時々会いにくるってのはプロ野球ファンの多くが知る処やけど、まさかよりによって今日この場所とは……


「おい部外者。何しにきたの?」

「いやぁ、急に監督が心配になったんすよ」

「貴方がいなくても柳監督には私が付いてる。ギリギリまでFAだったんだから、さっさとアメリカに帰ってトレーニングでもしてなさい部外者」

「さっきから"部外者"とは心外っすね。俺は一応この球団出身っすよ?むしろブルズ出身の旋頭(せどう)さんの方が"部外者"じゃないっすか」


 同じく柳監督を慕う旋頭コーチが割って入ってきた。ブルズは15年くらい前にバニーズに吸収されるような形で消滅した球団やから、確かに樹神さんも旋頭さんも一応OB・OGという扱いにはなる。正直張り合うようなことやないと思うけど。


「……あ。ひょっとして旋頭さん、俺のプロ初ホームランの相手が自分になったの、いまだに根に持ってるんすか?www」

「貴方は相変わらず"いけすかないマイペース野郎"だわね……!」

「あ、そういやこの前ダベッターで禁酒ダイエット始めたって書いてましたけど今どんな感じっすか?あの若かりし頃のクールビューティ(笑)に戻れそうっすかね?」

「じゃかあしい!その減らず口にスペアリブありったけ詰め込んだろか!?あぁん!!?」


 珍しく旋頭コーチから関西弁が飛び出す。そういやこの人、元々大阪の人やったな。

 せやけど、すごい絵面やな……


「いやぁ、まさか樹神と旋頭が揃い踏みしてるとこを見れるなんてなぁ」

「こういうのを見れるのが、バニーズの他の球団に自慢できる数少ないセールスポイントやな」


 メジャーの日本人選手の投手・野手のトップが並び立つ絶景に、大部分のファンがスマホを構え、ディープなファンは良さげなカメラを構えて、シャッターを切りまくってた。


「んほおおおおおおおおおお!!!ナマの樹神樹と旋頭真希!!!!最高のツーショットですよおおおおおおおおおお!!!!!」


 もちろん、有川(ありかわ)さんも例外ではない。


「……え?樹神樹が何でここに……?」

「ああ、またか……」


 他の選手達も次々にグラウンド入りしてくるけど、その度に樹神樹の姿を見つけて、プロ歴が短い人は呆然とし、それなりのキャリアの人は慣れたような反応をしてる。


「そんで樹神よ、今日はどうして来たんじゃ?別にどちらかの肩を持つつもりじゃないが、旋頭の言うように今年は特にシーズンへの準備が大変じゃろう?」

「んー、まぁ単なる見学みたいなもんっすよ。柳監督がこれからどんなチームを作るのか、興味がありますからね。突然で申し訳ないですけど、この試合、是非白組側で観戦させて欲しいんですけど良いっすか?」

「ワシは別に構わんが……オーナー殿、よろしいですかな?」

「……もちろん、是非ご覧になってください。前々体制のバニーズで素晴らしい功績を残された樹神さんにお越し頂けて、後身の経営を担う者としては大変光栄です。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」

「寛大な待遇に感謝いたします、三条(さんじょう)オーナー。高校時代から選手としての活躍を拝見しておりましたが、なかなかどうして、経営者としてのお姿も堂に入ってますね」

「きょ、恐縮です……」


 愛想良く振る舞うなぁ。どうも本音では追い返したそうな感じやけど。


(余計な情報を漏らさないためにも影響力が大きい外部の人間なんてすぐにでも摘み出したいけど、仮にもOBで、しかも世界的な大スターなんて、下手に冷遇したら世間に叩かれるに決まってるわ。不本意だけど、ここは気が済むまで放っとくのが賢明ね……)


「わあああ!樹神さんだあああ!!」

「あ、あの!いつもご活躍を拝見してます!」

「サインお願いして良いですか!?」

「お久しぶりです、樹神さん」


 オレもそうやけど、白組メンバーは伊達(だて)さん以外は全員樹神さんとは初対面らしい。まぁガチガチになって今日の試合に臨むよりかは、試合前にこのくらい浮かれてる方がええかもしれんな。

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