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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
408/1156

第六十五話 世紀末生まれのフリーク(5/7)

******視点:妃房蜜溜(きぼうみつる)******


 お互いにスコアがほとんど動かないまま5回表に突入。


「レフト十握(とつか)、落下点に入って……」

「アウト!」

「これでツーアウト!」

「先制はされましたが、今日の三波(みなみ)は安定してますね。今年はちょっとコーナーを狙いすぎて四球が嵩む場面が何度か見られましたが、今日はしっかりとゾーン内で勝負できてる気がします」


 今日の試合、去年のオープン戦で良かったセカンドの人がいないのは残念だけど、あのレフトの人と勝負できるのは嬉しい。

 俊足好守揃いのバニーズでは逆に目立つくらいフライの追い方がちょっと危ういけど、バッティングに関してはものすごく良い。映像でチェックはしてたけど、実際に勝負してみると想像以上。荒々しいスイングに見せかけて隙がない。月出里逢(すだちあい)とはまた違った魅力がある。あの上げすぎてるズボンもパフォーマンスに影響を与えてるのかな?


「右中間……落ちました!打った与儀(よぎ)はセカンドへ!」

「セーフ!」

「ツーベース!シャークス、ツーアウトからチャンスを作りました!」


「アンチ乙。シャークスにとって二塁は得点圏じゃないぞ」

「ウチの各駅停車打線舐めるなよ」

「1・2番以外でまともに走れるの天竺(てんじく)くらいやからなぁ」


「9番セカンド、犬飼(いぬかい)。背番号31」

「さぁツーアウト二塁で打席には犬飼。開幕から一軍でチームに貢献していますが、スタメン出場は今シーズン初。第一打席では9球粘って四球と結果を出しています」


「ここでも結果を出すんだワン子!」

「ウチでは数少ない守備ができて選球眼も良い選手なんだ!」

「WARを稼げるタイプでレギュラーを固めたいんだ!」


 (ひかり)さんが入団するまではショートでレギュラー争いしてた未香(みか)さん。身長は170cmにも満たないくらいちっちゃくて、小型犬みたいな可愛らしい人。早打ちで長打力が自慢のスラッガーが多いウチでは珍しいタイプ……に見えるだろうね。一見すると。


(わふふふ……今年こそミカのレジェンドが始まるんだもん!)




(わふっ!?)

「ああっ、打ち上げた!」

「アウト!」

「ピッチャーそのまま捕ってスリーアウト!」


「おいィィィ!!?何やってんだよ!?」

「初球打ちでこれとかほんま……」

「上位に繋いだらええやんけ……」

「ミスショットするにしてもタイミングがなぁ」

「(レギュラー獲れないのは)そういうとこだぞ」


(だってミカ、長打で与儀さん返したかったんだもん……)


 未香さんは入団1年目から毎年開幕一軍に選ばれてるだけあって、周りから期待されるだけのポテンシャルはある。評判通り選球眼が良いし、守備も上手い。そしてあの見た目で意外とスイングも力強い。でもイメージと違って脚が遅いから実は打者としてはむしろウチによくいる重戦車タイプ。

 こういうやらかしだって特別多いわけじゃない。でもやらかすタイミングがいつも絶妙なとこばっかりで、悪い意味で記憶に残るタイプ。


「5回の裏、バニーズの攻撃。4番ファースト、天野(あまの)。背番号32」

「そろそろ一発頼むでチッヒ!」

「この際ソロムランでも(かま)へん!とりあえず追いつけ!」

「甘いとこ入っとるやろ!?絞ってけ絞ってけ!」

(そんなこと言ったって……)

「ストライク!バッターアウト!」


 この人もスイングは良いんだけど、当たらなければどうと言うことはない。


「5番セカンド、キャロット。背番号59」


 個人的にはむしろこっちの方が厄介。左対左であっても。


「……ボール!」

「見送ってボール!」


「ええでええでキャロット!」

「ここ最近のキャロットほんまよう見えとるわ」

「最近は十握とそう変わらんくらい打ってるしな」

「守備も無難にやってくれるし、久々に野手の当たり外人やわ」


 日本球界は今年からだからあんまりデータがないんだけど、思った以上に球が見えてる。


「ファール!」

「158km/h速球!しかし粘ります!」


 そしてスイングが妙に鋭い。映像と実際が異なるなんてよくある話だけど、ちょっと違和感を覚えるくらい。


(イケル……!)

「!!!二遊間……セカンド捕った!」

「「「「「おおッッッ!!!!!」」」」」

「ワンスト!」

「アウトォォォォォ!!!!!」

「セカンド犬飼(いぬかい)、ファインプレー!」


「よっしゃあああああ!!!(*^○^*)」

「こういうので良いんだこういうので(*^○^*)」

「パーフェクト継続なんだ!(*^○^*)」

「ハンマーなら絶対間に合ってなかったな……」

「やっぱりワン子は必要戦力やな(確信)」


 地味にロレンツィーニもファインプレー。送球が怪しかったけど、ロレンツィーニはほんとに送球を捕るのが上手い。メジャーのショート経験者だからなのかほんとに堅実。


「ストライク!バッターアウト!」

「カーブ!空振り三振ッ!これで今日11個目!!」

「スリーアウトチェンジ!」


「もしかしてこれ、ほんとにパーフェクトある……?(*^○^*)」

「何か知らんけど今日の守備、シャークスのくせに生意気だぞ……」

「自分のお庭じゃないからやろ」


「未香さん、ロレンツィーニ、サンキューでした!」


 一応礼儀として、ベンチへ向かう間に一声お礼。


「……当然ノコトヲシタマデダ」

「うん……」

(ミカが守ってる以上、もうこの子に野手陣を"ピエロ"呼ばわりなんてさせないもん……!)


 ……予想通りの反応。視線もロクに合わせず、当たり障りのない最低限の答えだけ。

 例の18連敗の時以来、与儀(よぎ)さんとか(ひかり)さんとか一部の人を除いて野手陣からの風当たりはこんな感じ。ここ最近打線が上向いてるのも今日の守備が冴えてるのもアタシへの意識からなんだろうけど、決してアタシの投球を支えるとかじゃなく、対抗心とかそういうものなんだと思う。


 ま、それならそれで良いよ。こちとら"年季の入った腫れ物"だからね。慣れっこ慣れっこ。

 真剣に試合をやってくれるのなら、どんな理由だって構わない。向こうの良い打者達との勝負に水を差すような真似をしなければね。


(…………)


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