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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
406/1161

第六十五話 世紀末生まれのフリーク(3/7)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


「2回の表、シャークスの攻撃。4番レフト、天竺(てんじく)。背番号25」


「よう、大監督」

「ただのベンチウォーマーですよ……」


 (やなぎ)監督が僕の隣に座る。ベンチスタートの日は監督の話し相手なのは去年からのお決まり。

 今年は冬島(ふゆしま)くんの出遅れもあって開幕から出ずっぱりだったけど、この6月頭までは案外無事に乗り切れた。金剛(こんごう)くんやリリィくん、徳田(とくだ)くんが爆弾持ちの僕より先に怪我やらで脱落するなんてきっと誰も思ってなかっただろうね。開幕戦の時みたいな違和感もたまに覚えたりもするけど、長続きすることはない。冬島くんが戻ってきてくれてからはこうやってゆっくりできる機会も増えた。まだまだやってみせるさ。


「今日も余裕がありますね、監督」

「フォッフォッフォッフォッ……そうじゃろそうじゃろ」

「勝算は十分にある……ということですか?」

「まぁそういうことじゃ」


 そんなこんなと話してると……


「これは……レフト十握(とつか)下がって……入りましたホームラン!シャークス、4番の一振りで先制!」

「スクリューが甘く入りましたねぇ……天竺にこれは通りませんね……」


「「「ぎゃあああああ!!!」」」

「ま、マジかよ……」

「どないすんねんこれ、妃房(きぼう)打てる気がせんのに……」


 観客席からの悲鳴、そしてマウンドの上で思わず苦笑いの三波(みなみ)くん。

 三波くんは先発に転向して今年で3年目。元々リリーフエースだったのを、柳監督が就任してすぐに配置転換した形。去年一昨年は百々(どど)くんに次ぐくらいの成績を残せたけど、今年は低調気味。

 確かにあのスクリューは左相手にも有効。右のサイドハンドの三波くんにとって、先発でやる上での生命線。だが結局は緩い球。慣れからは避けられない。


「ま、心配いらん。これも想定内じゃ。ワシとしちゃ今日の試合は勝てると思っとるよ」

「……僕もです」

「ほう……!なら少し余興をせんか?」

「余興……?」

「何か書くもん持っとるか?」

「あ、はい。自前のメモとペンが……」

「今日の試合の流れ……妃房の攻略法、誰が活躍するか、ワシとミラーの采配、勝敗や最終スコアなど、予想できる範囲で書き出してみろ。ワシもやる。どちらがより正確にこの試合の顛末を見通せるか、競ってみんか?」

「ぼ、僕が柳監督と……?」

「フォッフォッフォッ、いくら天下の柳道風(やなぎみちかぜ)様でも毎試合毎試合想定通りには動かんよ。まぁそれでもワシが指揮を執る以上、ワシの方が明らかに有利じゃから、その辺は考慮する。負けてもお前には特に要求はせん。お前が勝ったら今日一杯おごってやる。どうじゃ?」


 負けても特にリスクは無し。いや、むしろ……


「やりましょう」

「うむ。大監督殿のお手並み拝見といこうかのう」


 監督も僕も試合の行方を追いながら、淡々と筆を走らせる。


矛崎(ほこさき)、一塁間に合うか……!?」

「アウトォ!!!」

「アウト!ベースカバー間に合いました!」

「スリーアウトチェンジ!」

「これでスリーアウト!しかし2回の表シャークス、天竺のソロホームランで1点を先制しています!1-0、シャークスのリードです!」


「おっそ。左打者やのに」

「サクサクアウト取れるのはええけど、この試合でソロムランはキッツイな……」

「鈍足揃いでもウチと違って一発打てる奴なんていくらでもおるからなぁ……」


「……監督」

「ん?」

「お互い、まだまだやれますよね?」

「……あったり前じゃ」


 三条(さんじょう)オーナーの就任以来、バニーズは変わりつつある。球団全体の方針とかだけじゃなく、月出里(すだち)くんや十握くん、徳田くんと言った楽しみな若手もどんどん出てきてる。

 そして、僕らもきっともうすぐ……


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「3回の裏、バニーズの攻撃。7番ショート、相沢(あいざわ)。背番号3」

「この回の先頭打者は相沢。難病を克服し、二軍での調整を経て先週から一軍復帰しております」

「今5位のバニーズがここから上がっていく上でも必要な戦力ですよ。今年の月出里の活躍も目覚ましいですが、まだまだ元気でいて欲しいものですね」

「ここまでバニーズ打線は打者6人全員三振……妃房はゲーム開始から6連続奪三振を継続中」


 入院するほど苦しんだ相沢くんがこれだけ早く復帰したのも、きっと月出里くんの活躍が彼を刺激したんだろうね。彼はショートというポジションへのこだわりが並外れて強いからね。その点でも、今年のウチにとって月出里くんの影響力は(はなは)だ大きい。


(レギュラーもポジションも……忖度してもらうほど落ちぶれちゃいねぇ!)

「!!ストレート打って……」

(やるねぇ……!)

「……!と、捕った!!」

「アウトォォォ!!!」

「妃房、ファインプレー!」


「さすクイーン」

「リーチも反射神経もパないんだ!」

「でも連続三振途切れちまったなぁ……」


 妃房くんの頭上を越えてセンター前までいけると思ったけど、届いたか……


(『投手と打者の勝負』ってのは投球と打撃だけを競うものじゃない。打者自身の脚もバックの守備もどうしたって勝敗に絡む。投手にとっての武器は投げる球の威力だけじゃなく、守備も立派な武器。アタシが捕れる範囲に打たせたんだから、ケチはつけさせない)


 シャークスは守備力こそ決して高くないけど、DHでセカンドの守備力が普段よりも上がってはいる。単にあの球威を攻略するだけでは勝てない。


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「4回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号52」

「何でもええからそろそろ出てくれ!」

「1点は取らんと負けるんや!」

「ソロムランでも構へん構へん!」


「1-0、なおもシャークスのリード。シャークス先発の妃房が打者一巡を8奪三振パーフェクトで抑えたところで、4回の攻撃は1番の月出里からとなります」

「そろそろ点が取れないまでもどうにか攻撃の形を作っていきたいところですね。相性が良さそうな月出里にはグッと流れを引き寄せて欲しいですね」


 かたやほぼ完璧に抑えられてるウチ。かたやソロムランの1点だけとはいえ、他の出塁も少しはしてるシャークス。一見するとシャークスの方が明らかに有利だろうね。一見すると。

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