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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
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第六十四話 ハンデ・オア・ギフト(6/6)

「第一巡選択希望選手、函館菊盃(はこだてきくはい)エペタムズ。妃房蜜溜(きぼうみつる)。投手。秋星(しゅうせい)学園高校」

「第一巡選択希望選手、博多CODE(はかたコード)ヴァルチャーズ。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、美浜(みはま)ブッフアルバトロス。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、大宮桜幕(おおみやおうまく)ビリオンズ。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、仙台(せんだい)オプティウッドペッカーズ。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、天王寺時藤(てんのうじときふじ)バニーズ。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、横須賀EEGg(よこすかイーエッグ)シャークス。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、関西松鶴(かんさいしょうかく)パンサーズ。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」

「第一巡選択希望選手、西東京雁芒(にしとうきょうかりのぎ)ペンギンズ。妃房蜜溜。投手。秋星学園高校」


「161km/h左腕・妃房蜜溜、リプ全球団を含む帝国史上初の9球団競合指名となりました!」


三条菫子(さんじょうすみれこ)が脱落してなかったら流石にここまでにはなってなかっただろうなぁ……」

「あと高卒の1位候補でめぼしいのは三矢(みつや)松村(まつむら)古垣(ふるがき)辺りか」

「相変わらずリコはこういうのを指名せんよなぁ」

「これだけの逸材だから無難にリプのどこかに拾われた方が良いんじゃね?お遊びのリコが拾ったところでだろ」

「言うても左だから上手く育つかねぇ?」


 嚆矢園(こうしえん)を制覇したとかそういう飛び抜けた活躍をしたわけじゃなかったけど、とりあえずはプロに入れた。随分多くの球団の人に気に入られたけど、別にそんなことはどうだって良い。周りが何と言おうが、自分の本当の価値を決めるのは自分しかいない。


「何と妃房蜜溜(きぼうみつる)の連続奪三振を喰い止め、11球の激戦を制し、163km/h速球を仕留めたのは、天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズの高卒ルーキー!17歳の超新星ッ!!!月出里逢(すだちあい)ッッッ!!!!!」


 今まででも良い打者とは何人も巡り会えたけど、その中でもとびっきり気に入ったのは、アタシの1つ年下で、ドラ6のポッと出の高卒ルーキーだったんだからね。あの子は日暮(ひぐらし)さんにとっての月島(つきしま)さんのような存在。アタシがずっと欲しかった、どこまでも生物として高め合える存在。ありきたりな表現をするなら、"宿敵"とか"好敵手"とか"ライバル"とかそんなやつ。


 ……周りはアタシを頑張らせてくれない。それは間違いのない事実だった。だけどアタシはそれに甘えきってた。そのせいで肝心なところで『死』の恐怖を忘れてた。中途半端な実力に酔いしれてた。

 やっぱりアタシは真剣に野球に取り組んでたようで、どこかで甘えがあった。深いところで自分の才能に自惚れてた。だからいきなり全国制覇とか、そんなふうに思い上がってた。それに気づいてからは、それまでできてなかったことが嫌と言うほど見つかった。たとえ筋トレとか投げ込みのしすぎは厳禁な成長期であろうと、練習のやり方で見直すところはいくらでもあった。


 "女王蜂"扱いとか"偶像(アイドル)"扱いとか、死んだら都合の良い異世界に行けるとか、そんな誰かからの救いなんてアタシは要らない。アタシはアタシを自分で救う。"妃房蜜溜(アタシ)"という種の存在の正当性をアタシ自らが証明してみせる。身体が小さくて周りに何と言われようとも、ずっと命を賭けて投手としての理想像を追い求め続けた日暮(ひぐらし)さんのように。

 生まれ持ったものが『呪縛(ハンデ)』か『祝福(ギフト)』かなんて結局は自分次第。だからアタシは『この身体を祝福と(のたま)って何が悪い』と言い続けてやる。そう言えるアタシで在り続けてやる。人間にとっての『生きる』ということは、『己の存在を肯定し続ける』ということなんだから。


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******視点:月出里逢(すだちあい)******


「これはサードの正面!」

「ファースト!」

「アウト!」

「これでスリーアウト!シャークス、初回は三者凡退です!」

三波(みなみ)は久々に冬島(ふゆしま)とのバッテリーになりますが、特に問題はなさそうですね」


 三波さんが先発だと、内野は程良く忙しい。右のスクリューPだから、サードに移ってからでもよくゴロが転がってくる。

 練習通り綺麗に捌けたこの感触を大事にしたいところだけど、そういうのに浸るのは試合が終わってから。


「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号52」

「さぁ1回の裏の攻撃が始まります。先頭打者は今日1番に入ってる月出里」

「開幕当初は9番がほとんどでしたが、ここ最近は1番2番での起用も目立ちますね。今日は先発が左の妃房(きぼう)だからってとこでしょうか?」


「ちょうちょー!今日もかき回したれー!」

「去年のオープン戦の時みたいに頼むでー!」


 何せ今日は1番での起用。あの変態相手だから、二巡目三巡目でも先頭打者になることもありえる。そうならないためにも、そしてそうなってしまっても、頭を打つ時と走る時、守る時できっちり切り替える必要がある。


「さて、本日は交流戦ということで、普段は対戦しないリコのチームとの対戦となります。ですのでリプTVではリコの選手達の紹介も随所でお届けしたいと思います!まずは先ほども名前が挙がった妃房蜜溜(きぼうみつる)投手。新潟県小千谷市出身で、1998年11月23日生まれ。左投げ左打ち、プロ3年目。2016年ドラフトで帝国史上初の9球団競合1位指名を受け、神奈川の名門・秋星(しゅうせい)学園高校からシャークスに入団。ルーキーイヤーの2017年シーズンから昨年2018年シーズンにかけて戦後唯一の2年連続ノーヒットノーランを達成」

「流石にこの辺りはリプファンでも知ってるでしょうね」

「特長は何と言っても190cmを超える長身と高い身体能力によって繰り出すMAX167km/hの速球と強力無比の変化球。また、生まれつき心臓を含む全ての臓器が左右逆に配置されてる特異体質、『完全内臓逆位』の持ち主です」


 マウンドの上からニヤリと笑いながらあたしを見る。相変わらずの変態ぶり。でもそれはそれでありがたい。


「クイーン!交流戦でも無双なんだ!」

「交流戦で借金を返し切るんだ!」

(今日のあの子はスタメン1番。打順が一番回ってくるとこ。しかもリプのホームゲームだから投げるのだけに専念できる。今日はとことん楽しめそうだね……!)


 あたしも嫌でも打者としての闘争心が掻き立てられるから……!

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