第六十二話 人間を超えたい獣(3/7)
「……ピッチャー、長尾。シャークスのピッチャーは長尾。背番号21」
「長尾!いつも通り試合作ってくれよ!」
「長尾先生!今日もいっちょ頼んます!」
いくら良い感じに先制できたとしても、まだ最序盤で地方球場。3点のリードなんていくらでも覆りうる……七果さんじゃなかったらな。
「ファール!」
スピードは平均140中盤くらいで伊賀瀬さんほどじゃないけど、スリークォーターで肩甲骨の旋回を活かしててスピンもきいた、バックから見てても気持ち良いくらい綺麗なまっすぐ。
向こうの加山監督は左右病の気があって今日も1・2番で右を連続させてるけど、七果さんは左右の違いを苦にしないタイプ。よくある対右用のチェンジアップも当然投げられるし、あんな感じで内角に迫りながら浮かんでくるような軌道のまっすぐはカウントを稼ぐのにも空振りを狙うのにも有効だからな。
蜜溜とは同じ左投手で球種も似てるから一見すると同じような投手に見えるかもしれないけど、まずこのまっすぐの軌道が全然違うってことでタイプが全く異なる投手だとはっきりわかる。
(せっかく野手陣が勝てる形を早速作ってくれたのだ。このリードは絶対に守る。点に余裕があるから程良くペース配分してこの機会に完投……そんなことなど許されるわけがない。ウチには頼りになるリリーフ陣もいる。今日はとにかく連敗脱出が至上命題。初回からやれるだけのことはやる……!)
「ストライク!バッターアウト!」
「アウト!」
「ストライク!バッターアウト!」
「スライダー当たりません!空振り三振!三者凡退でスリーアウト!」
そしてまっすぐに並ぶ持ち味である、140km/hに届くほどの高速スライダー。最近では『スラッター』とも呼ばれてる球。
「さっさと追いついてほしいとこだけど、まぁ長尾が相手なら仕方ない。序盤は我慢よ」
「やっぱ長尾だけはガチのプロだわ」
「シャークスでやってるのマジでもったいねーわ……」
「FAはまだかな?(桐凰軍並感)」
「メジャー行くやろ(予言者)」
神結さん、菱事さんと、贔屓球団自慢の億超えスター達をキリキリマイにされても、ジェネラルズファンは半ば納得してる様子。
七果さんは去年絶不調だっただけで、ルーキーイヤーから先発ローテの一角として2年連続で防御率3点を切った実績持ち。そして今年は以前よりもまっすぐに磨きをかけて、開幕から好調。"球界屈指の左のスターター"であることは他球団のファンからも広く認められてるところ。蜜溜よりもエース扱いされてるのも、単に真面目だからとか、ましてや判官贔屓みたいなものじゃ決してない。
「2回の表、シャークスの攻撃。8番キャッチャー、与儀。背番号8」
「遠慮なく打ってけ与儀!」
「3点なんてものの数じゃねーぞ!」
(……ま、妾もどちらかと言えばあの"変態女王蜂"寄りの考えだが、打線は線になってこそ。有益な結果に結びつくなら乗ってやろうではないか!)
「三遊間……抜けましたレフト前!」
(くそッ、また……!?)
やっぱ今年の神結さん、例年より長打力が飛び抜けてるけど例年より範囲が狭い気がする。元々ショートとしては今時らしい確実性よりも範囲なタイプで、そのせいでOB・OGやらに日頃からアレコレ言われてるのにな。
「9番ピッチャー、長尾。背番号21」
「よっしゃ!頼むで主砲!」
(や、やはりそれか……)
「おっとここは……無難にバントのようですね」
「あっ……(察し)」
3点リードで、ノーアウト一塁で打席にピッチャー。そりゃ日本だろうがメジャーだろうが送りバントをさせるのが当たり前の場面。けどなぁ……
「転がした!しかしピッチャー振り返って二塁送球!」
「アウト!」
「一塁は……」
「セーフ!」
「一塁はセーフ!しかし、送りバントは失敗!」
「やっぱりな(レ)」
「これだけはどうしてもなぁ……」
「まぁランナーの脚は速くなったし(震え声)」
七果さんは単純にピッチングが良いだけじゃなく、ピッチャーにしては高い打力で球数を稼ぐこともできて、俊足で全力疾走も怠らない。おまけに練習熱心で模範生の一面もある。
そんな、ピッチャーとしてプロ野球選手として文句なしに一流の七果さんだけど、唯一バントだけはあまり得意じゃないんだよなぁ……当然、七果さんもそのことを自覚してきちんと練習もしてるんだけど……
(不甲斐ないな……こればっかりはどうしても他の投手ほど上手くできん)
ヘルメットを抑えて申し訳なさげな顔を隠す七果さん。可愛いとこあるよなぁ。
まぁ良いさ。普段頼りっぱなしなんだからな。たまにはおれらも頼られなきゃな。
「1番ショート、数橋。背番号5」
「繋いでけ艶姫!」
「何かようわからんけど流れ来てるんや!」
「追加点頼むで!」
(これ以上はやらせねぇぞ……!)
どっちのファンも相手チームも、今の状況は予想外だっただろうな。当然だ。
今日の先発が伊賀瀬さんなのは、19連敗がかかったこの試合では絶望的な要素だと大体の奴は考えたはず。だが、"ちょっと制球が良くない日の伊賀瀬さん"なら逆にこの上なく好都合。
左右の違いはあっても、それは結局"ちょっと球威で劣る蜜溜"くらいのもんなんだからな……!
「「!!?」」
「え……?」
「マジかよ……!?」
インコースを攻めきれなかったスライダー。おれが可愛いからだったら申し訳ないけど、引っ張り抜いて狭い地方球場のライトスタンドまで一直線。
「は……入ったァァァ!!!数橋、ツーランホームラン!5-0!連敗脱出に向けて、大きな大きな追加点!!」
「ほわあああああああああ!!!(*^○^*)」
「あかん優勝してまう(*^○^*)」
「やっぱり艶姫は最高なんだ!(*^○^*)」
「すまないな、数橋君。無理をさせて」
「いえいえ、おれだってたまにはこういうでっかいの打ちたいんですよ」
「よーし!よくやった艶!」
「まだまだ終わらせねぇぞ!」
「あの"クソデカギャルもどき"に思い知らせてやるぞ!」
先にホームインしてすぐに出迎えてくれた七果さんとタッチを交わし、ベンチからも祝福。
おれの役割はどっちかと言えばチャンスメイクだけど、やっぱりホームランは良いもんだな。大昔のホームランが滅多になかった頃の野球はむしろ『打った瞬間に完結するホームランより、走る野球の方が出塁した後の楽しみが残っててエキサイティング』なんていう考え方が強かったみたいだけど、少なくとも今の勝ちたくてしょうがなくてヤキモキしてる状況なら、ホームランが一番わかりやすくて良いよな。『おれ達は勝てるんだ』ってのをわかってもらいやすくて。
「2番センター、唐須。背番号4」
「続け続けイケメン!」
「まだワンナウトや!」
「今までの分、しこたまやり返したれ!」
おかげで盛り上がりまくる観客席。『この回10点とれ!』みたいなプラカードも出てるけど、まぁ取れるだけは取るさ。
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【天変地異】18連敗中の雑魚鮫さん、大正義桐凰軍の最強エースを粉砕する
1 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
伊賀瀬、2回8失点でもう降板の模様
2 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
>>1
ファーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
3 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
シャークス19連敗確定とか言ってた正■民wwwwwwwww
申し訳ございませんでした
4 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
>>3
うんj民らしからぬ潔さ
5 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
あのダボハゼ揃いのシャークス打線が
伊賀瀬相手に普通に粘って歩くとか何事?
6 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
>>5
異世界転生者でもやってきて
「もう少し粘れば良いのでは?」
とか言われたんちゃう?(適当)
7 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
伊賀瀬マジでどうしたんや?
シャークス戦やからって油断して
またスマホゲーしまくって指がイカれたんか?
8 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
艶姫ツーランで大草原
もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな(AA略)
9 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
各駅停車でも打ちまくってホームランも打てば良い
はっきりわかんだね
10 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/08 (水)
もう始まりだ横の球団
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