第六十一話 スター・オア・ピエロ(9/9)
【横の球団】シャークスさん、たった1日で日本記録に名を残しまくる
1 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
18連敗 (日本記録タイ)
167km/h (妃房蜜溜、日本新記録)
10連続奪三振 (妃房蜜溜、日本新記録)
2 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>1
ほとんどクイーンの個人記録やんけ!
3 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
ヒット5本で無得点も記録にならんのやろうか?
おそらく理論上最も非効率的な攻撃になるやろ
4 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
記録にならんのも含めるとエラーの数もかなりヤバい
得意不得意あるから単純な守備力の良い悪いは
擁護できても連携のgdgdは言い訳のしようがない
マジでキャンプ中何やってたんやレベル
5 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>4
そもそも二軍に専門の外野守備コーチ
おらんのが意味不明やしな
逆に相手に壁ドン利用されまくりやし
6 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
やっぱアマチュアのサッカーチームのままやんけ
7 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
スティングレイの四連覇食い止めるために
ジェネラルズに買収されたんやろ
いつまで経っても銀行とかクリニック扱いや
8 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>7
暗黒からの立て直しに協力してもらって
見返りとしてFAとかで主力選手を献上して
たまに戦力外の選手を譲ってもらったりで
まさに桐凰の子会社としか言いようがない
9 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
大量ビハインドなのに終盤に申し訳程度に
ソロムラン2本ってアリバイ作りかよ
10 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>9
選球眼1つでポジられまくる球団で何を今更
11 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
ミラー早く辞めてくれマジで
ダボハゼ鈍足守備難とかまんまミラーそのものやんけ
12 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>11
アンチ乙
ミラーは早打ちでもめっちゃ打ったけど
シャークス打線は打たないぞ
13 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>11
ミラーはファーストストライクをしっかり捉えるよう
言ってるだけで初球からボール球でも何でも喰らいつく
ダボハゼ打法を推奨してるわけじゃない定期
14 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
それでも早打ち広めてるの間違いなく首脳陣やろうし
もう野手陣はクイーンと長尾と綾瀬に
バッティング教わった方がええんちゃうか?
15 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
何かクイーンだけはようやったって言われてるけどさ
実際球速とか奪三振はすごいと思うけど
今日のバッティング見てると何で今まで
これやらんかったんやってモヤモヤする
打てたのは偶然だとしてもスイングはガチやん
16 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>14
確かに
リコの球団に入ってもう3年目やのにな
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******視点:綾瀬小次郎[横須賀EEGgシャークス投手兼任コーチ]******
試合終了後。ベンチから揃って球場内の通路に入り、ミーティングルームへ向かう最中。
戦前戦後間もない時代、野球チームとその運営はよく軍隊に喩えられたりその手の用語を流用されたりした。今でも『遊撃手』とか『指揮官』とかそういうところに名残が残ってたりするしな。そして今の選手達は撤退中の敗残兵のような消沈ぶり。コイツらなりに死力を尽くした結果……と信じたいところやな。
「皆さん、お疲れ様でした!」
「……!」
何人かのカメラマンとスタッフを率いて、明るく話しかけてくる男。年頃は若い……いや、正確には役職の割に若いが見た目はそれ以上に若く見えて長身。パリッと髪を固めてブランドもののスーツを着こなし、"高収入・高身長・高学歴"はかくあるべきと主張するかのような風貌。我が球団の経営元であるEEGgの営業部部長、瀬高御門。
「どないしたんですか、部長さん……?」
「いやぁ……皆さんお疲れのところ申し訳ないのですが、取材させて頂こうと思いましてね」
「取材……ですか」
「ええ。今度球団の公式サイトに上げるプロモーションムービーのです」
半分選手・半分コーチの俺やなくても周知の事実やけど、EEGgには2つの派閥がある。高学歴揃いの営業部が中心の、収益重視の保守派。現場叩き上げ揃いの開発部が中心の、成績重視の急進派。つまりこのデキ男くんはその保守派のトップ。
実際、肩書に恥じない有能な男であることは確かや。球団の運営や選手のプロモーションなどを主導し、球団が前体制からの立て直しに必死でなかなか結果が出せない中でも集客に成功し、数年の間に黒字経営化した。この貼り付けたような笑顔と達者な口ぶりで、人という人をたらし込んで上手くやってきたんやろうな。
……ま、経営元にこう言われたんじゃ、逆らえんわな。選手達も空気を読んで、カメラに映っても良いように表情を改めてくれとる。
「……選手達は疲れとるんです。手短に頼んまっせ?」
「ええ、もちろんで「何でそんなことすんの?」
「お、おい……!」
口を挟んできたのは妃房。確かに立場的にもEEGgの偉いさんとも関わる機会が多いけど、こういうことに首を突っ込むなんて珍しいな……
「し、失礼しました部長さん!」
「いえいえ。『立場など問わず疑問をぶつけ合うこと』。今の時代、組織の経営には不可欠なことです。もちろん、説明させて頂きますよ」
……物腰はこんなんやけど、内心では現場の俺らを馬車馬程度にしか思ってないんが見え見えやな。
「何故我々がこういった活動を行うのか?それは貴女がた選手や首脳陣、現場で活動する一同の名誉を守るためです。『皆さんの本業は試合』、それは事実です。『勝利こそ最大のファンサービス』、それも一つの真理です。ですがそれだけですと、皆さんがどれだけ勝利のために尽力しようとも、ファンはどうしてもその試合の結果と個々の成績でしか努力の程を測れないのです。自分達が支払った金額に見合う働きを提供者が実行できているのかを知るのは、購入者が有していて然るべき権利です」
まぁ、間違っちゃいない。
「皆さんも今の時代でしたら、ネットで情報収集をしたり、自分達の評判などを探ることがありますよね?ですからご存知かと思いますが、ネットでも現実の球場内と同じように、見聞きに耐えない罵倒や批判がそこら中に転がってます。それも事実であれば貴重な意見として重く受け止めるべきかもしれませんが、中には誤解から生じたものも少なからず存在します。此度の大型連敗もまた、必要以上の非難を浴びせられるのは容易に想像できることです。認識齟齬によって皆さんに余計な風評が生じぬよう、こうやって試合以外で心中と実態を表明する場は必要なのです」
それも間違っちゃいない。間違っちゃいないけどな……
「選手の年俸交渉の後なんかもそうですし、タレントや企業だって不祥事の際などに記者会見を行ったりするでしょう?結局はそれと同じようなものです。それを我々の手で少しドラマティックにすることで、全ての層のファンの方々に共感して頂けるよう「もう良いよ」
「……え?」
部長さんの大義名分を遮って、睨みつける妃房。部長さんは俺よりも長身やけど、妃房はさらにその上。まさに文字通り、見下すように。
「アタシ、今はそういう気分じゃないから、さっさと帰ってよ」
「…………」
「聞こえなかったの?それとも理解できなかったの?ならもう1回、手短に言うよ。『失せなよ』」
今日の試合の中盤以降と変わらぬ、妃房の威圧感。よっぽどお気に召さんようやな。
「部長さん。申し訳ないですけど、今日は勘弁してもらえませんか?見ての通り、今日の試合で選手達も気が立ってるみたいなんで。取材の件は後日、俺らの方で日程調整しますんで」
「……そうですね、わかりました。私どもも配慮が足りず申し訳ございませんでした。さぁスタッフの皆さん、撤収しましょう」
「は、はい!」
全く、嫌な奴やで。この連敗かてどうせ『撮れ高がある』くらいにしか思ってへんのやろうな。
そしてそれ以上に賢しい奴や。妃房はプロ入り前からのスターで、保守派からしても"金のなる木"。それがわかってるから、目先の楽よりもご機嫌を損ねないのを優先した。妃房がおらんかったら断れんかったのは間違いないやろうな。その点に関しては素直に感謝せんとな。せやけど……
「コジロー、ナイスフォローDAZE」
「いえいえ……それよか妃房。断ってくれたんはありがたいけど、あの態度はアカンで?」
「…………」
普段なら試合以外やと素直に言うこと聞く奴やけど、今日は本当に珍しい。そっぽを向いて、とりあえずでも詫びの一つも入れない。そうこうしてる間に、ミーティングルームに到着。
「さて……まずはミツル、今日はよくやってくれたNA。取材を断ってくれたことにも感謝してるZE。だが、それはあくまでオレ達のためじゃNEEみたいだDANA。それどころかオレ達に色々思うところがあるように見える。何を考えてるのか、オレ達に教えてくれNEEか?」
「……言ってアタシに何かメリットがあるんですか?何かが変わるんですか?」
「腹の中に溜めたもんを出せてスッキリできるくらいしかNEEかもな。だがそれでも、デメリットは作らNEE。これからのミツルの発言の責任はオレが全て背負う。他の選手に恨まれたりしても全てオレのせいにしNA。何なら一筆書いても良い。要望もオレの権限が届く限り全て応えるZE」
「ミラー監督……!?」
「どのみちオレはチームを18連敗に導いたキャリア持ちDA。それはもう絶対に覆らNEE。ただでさえ今年はオーナーから優勝を厳命されてるってのにNA。今日だってオレなりに色々考えたSA。だが結果はこうDA。今の状況をどうにかして責務を果たすためにはもう手段は選んでられNEEよ」
「…………」
「……頼む、ミツル」
神妙な面持ちで頭を下げるミラー監督を見て、一旦深呼吸する妃房。そして、静かに話し始めた。
「……何でみんな、最初から"ピエロ"になろうとしてるの?」
「「「「「???」」」」」
「勝負には絶対に勝ち負けがあるんだから、同じプロ野球選手の中で"スター"と"ピエロ"が生じるのは仕方ないことだよ。ドラフトの順位とか入る球団とかそういうのでその勝負にある程度の有利不利が出てくるのも仕方ないこと。もっと言えば、生まれつきの差だって仕方のないこと。だけどそんなのは、勝負に対して真剣にならなくて良い理由にはならないよ」
「「「「「…………」」」」」
普段は年功序列にも忠実で、当たり障りのない人付き合いをする妃房。せやけど今は違う。試合中に投球が上手くいきすぎててつまらなさげな時みたいに、かまぼこを逆さにしたような目をこっちに向けて淡々と話し続ける。
「入った球団がどこだからって何?ドラフトの順位が何位だからって何?育成とか戦力外経由だからって何?そんなのは何の言い訳にもならないし、逆に育成とか戦力外とかから成功者になれたとしても、そんなのを見てる人に対して売りにするのは結局"ピエロ"の宣伝文句。御涙頂戴の演出でしかない。スタートラインがどこだろうと、黙って結果を出せば、たったそれだけで"スター"になれるでしょ?それ以外に何か必要あるの?」
……せやな。俺も今はそれなりの地位にいるけど、元はドラ6の高卒投手。出だしはコイツほど華やかなもんやないけど、投手としてまだ負けたと思っちゃいない。
「でもプロ野球は客商売でもあるから、たとえ成績が"ピエロ"であろうとも、ファンからは"スター"として敬われる権利もある。100%勝つのなんて無理なんだから、負けた時のために『頑張ったフリ』をして、その敬意を繋ぎ止めるのも間違ったことじゃない。ただそれも、結局は勝負に対して真剣だから許されること。勝負の最中に『自分は戦力外だった』とか、『明日がある』とか、そんな負けの正当化を口にする人がそうだなんて、アタシには思えないよ。さっきの人達みたいな、ユニフォームじゃなくて背広を着てる人達に負けの尻拭いまでさせて、そんなのって恥ずかしいことじゃないの?『頑張ったフリ』くらいは自分達でやるべきじゃないの?」
「でもそれは、お前も……」
「そうだよ。アタシも途中から最低でも結果として『頑張ったフリ』だけでも成立させようとしてたよ。不本意だったけど、今日はどうしてもそうしなきゃいけなくなったから。だけど勝つことを諦めたのなんて一瞬たりともないし、こういう場がなければそういうことを口にさえしなかったよ。ファンの人達もよく励ましの言葉で『明日がある』だの何だのってよく言うけど、それはたとえ勝負が終わった後で言ったとしても、勝負に対して他人事だから言えることだと思ってる。だからアタシは『頑張ったフリ』を言葉になんてしない。全部行動にしかしない。大体、試合中に観てる人みんなに言葉を伝えるのなんて無理なんだから、行動で示すしかないじゃん?」
「…………」
だから数字を残したんやな。球速とかそういう形で。
「さっきの人達のタレント商売に付き合って言い訳の場を作り続けたり、『明日がある』みたいな言葉に縋り続けたって、生まれるのは甘えばかりじゃないの?『良くない今日』に真剣に向き合わないで『明日』に頼り続けても、『良くない今日』を繰り返すばかりじゃないの?だからこうやって18回も負け続けたんじゃないの?」
「「「「「…………」」」」」
それもまた実態のある数字やからな。感情論でしか言い返せん事実や。
「この球団がちょっと前まで最下位常連だったとか、実態としてジェネラルズの下についてるようなものとか、経営元にとっては勝ち負けよりも儲けの方が大事だとしても、そんなの今戦ってるアタシ達には関係のないこと。もしそういうのがどうしても嫌なら、自分達で結果を出して覆せばそれで済むこと。そうすればさっきの人達に『黙ってカネだけ出せ。そうしたら儲けさせてやる』って言えるようにもなる。アタシはそんなのはどっちでも良いけどね。良い打者と勝負できればそれで良いから。だから同じチームで戦ってる人達が結果として"スター"に転ぼうが"ピエロ"に転ぼうがアタシは気にしない。だけど勝負に真剣である以上、アタシは自ら望んで"ピエロ"になろうとしてる人達と一緒に勝負なんてしたくない」
「ッ……!」
「アタシが今までで一番好きになった打者はバニーズにいる高卒のドラ6で、全然実績のない子。今でこそレギュラーになりかかってる段階だけど、それでもまだまだ才能だけはあるってくらいの立場。だけどまずその才能が本当に素晴らしいものだし、その上あの子ほどアタシと真剣に勝負してくれた打者を他には知らない。あの子はアタシがどんな球を投げたって、最後まで臆することなく牙を剥き続けてくれた。"人間"として以前に"生物"としてあれほど美しいものはない。ああいう子こそ"スター"になって然るべき存在。野球はどのみち勝負だし、プロなら尚更生活がかかってるんだから、言うなれば『ルールが整った生存競争』。"人間"として以前に"生物"として避けては通れないもの……だから、ミラー監督」
「……何DA?」
「監督の権限が届く範囲なら何でもしてくれるんですよね?だったら、アタシをトレードなり何なりでどこか別の球団に飛ばして下さい。できればあの子とこれからも勝負し続けたいからバニーズ以外が良いですけど、この際どこでも良いです。"生物"として生きることすら放棄するようなスタンスの人達と肩を並べて勝負し続けるよりはマシです」
「テメェ……!さっきから言わせておけば……!!」
「やめNA。さっきも言った通り、ミツルの発言は全部オレの責任DA。何か言いたいならオレに言いNA。そのことで罰とかそんなのを下す気はNEE。今回の趣旨はあくまで現状の打開DA。言いたいことがある奴はこの場でどんどん言っちまえYO」
「別にアタシは自分の考えが絶対的に正しいなんてこれっぽっちも思ってないよ?他の人達みたいなやり方だって1つの正解なのかもしれないし。だからアタシは監督に頼まれたから本音を話して、その上で無理して一緒に居たくないってだけ。アタシが居なくなったら今まで通りやってれば良いんだよ」
「ッ……!それでもテメェは俺達を"ピエロ"だと思い続けるんだろうが!?」
「うん」
「テメェ……!」
そこからは監督を介して熱く反論する奴、思うところがあるのか黙って省みる奴と三者三様。何を言われようが妃房は冷ややかな表情のまま聞き流すか淡々と言い返すだけ。せやけど少なくとも、18連敗という現実にただ打ちのめされてるだけの奴はきっとこの場におらへん。せやから『チーム全体の気持ちを切り替える』っていう意味ではミラー監督の判断は正しかったと言える。
……最近のシャークスは『暗黒時代から脱した』って言われるけど、結局根っこの部分は前体制の頃から変わってへんのやろうな。
妃房の腹の内ってのは結局、妃房が他人よりも大なり小なり恵まれてるからこそ言える部分も確かにあると思う。それに、アイツ自身が個人の勝負に対しては誰よりも真剣だとしても、全体の勝負に対してはおざなりな部分があるのは間違いない。
せやけどシャークスの再建をする上で本当に必要やったのは、球団に対して理解を示してくれる経営元とか、戦力を整え直すカネとか環境とか、ファンからの信頼回復とか、妃房みたいな奴で戦力補強とかよりも先に、妃房のそういう言葉やったんかもしれんな。




