第六十一話 スター・オア・ピエロ(8/9)
「5回の裏、シャークスの攻撃。8番キャッチャー、与儀。背番号8」
(……妃房があんな投球をするのがどんな理由であれ、妾にも今日の試合の責任の一端があるのに変わりない)
「ボール!フォアボール!」
「選びましたフォアボール!」
「ナイセンナイセン!」
「ちょっと粘っただけで涙が出てきそうなんだ……」
「ポジサメくんの鑑」
逆に与儀さん辺りが気合いを入れ直したって、今更。
「9番ピッチャー、妃房。背番号11」
(……本当にいいんDANA?)
良いも悪いもない。単純にアタシが打たれて失った点もあるんだから。
「さぁここでピッチャーの妃房ですが……バントではないようですね」
「みたいですねぇ。確かに妃房はバントはあまり得意ではないのですが、かといってバッティングも……」
「打つんかクイーン?」
「まぁ点差が点差やし……」
「でもクイーンのバッティングはなぁ……」
アタシはあくまで投手。打者と勝負するのが一番の仕事。日暮さんに憧れてこういう考え方になって以来、バッティングなんて自分でやる分には好きでも嫌いでもなく、そもそも関心がまるで湧かない。一応、『投球に集中するため』っていう理由もあるけどね。
「!!?センターバック!!!」
「ファッ!!?」
「フェンス直撃!センター菱事捕って……」
(ピッチャーの脚なら、これも壁ドンシングルに……ッ!?)
「セーフ!」
「二塁セーフ!ファーストランナーも三塁へ!ツーベース!!」
「はっや……余裕のセーフやん」
「そういやクイーンって50m5秒5か6とかやったっけ?」
「っていうかスイングもクッソ速かったで……?」
(全くとんでもねぇ奴DAZE……ミツルのグレートなフィジカルは当然知ってたGA、本気で野手やらせたら30-30どころか40-40も平気でやるんじゃねぇKA……?)
だけど今日だけは、どうしてもケチをつけられたくない。元々野球始めた頃からバッティングは得意だったし、良い打者のバッティングには関心がアリアリだから、ちゃんとした打ち方は知ってるつもり。
「1番ショート、数橋。背番号5」
(不甲斐ねぇな……七果さんだけじゃなく、蜜溜にまでおんぶに抱っこなんて……!)
「引っ張って痛烈!」
「アウト!」
「ッッッ〜〜〜!!!」
「セーフ!」
「セカンドライナー!ランナーはそれぞれ戻ります!」
「せっかく捉えたのに……」
「今日何やねんマジで……」
「しかしクイーンもよく戻ったな」
「アウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「これでスリーアウトチェンジ!二者残塁!5回の裏シャークス、この回も得点を挙げられませんでした!」
「ノーアウト二三塁で何で……」
「クイーン疲れさせただけやん……」
「クイーンがおるだけ暗黒時代よりはマシや(調教済)」
「暗黒時代でも17連敗なんてしなかったんだよなぁ……」
たまの打席での奮起が身を結ばなくたって良い。
「ストライク!バッターアウト!」
「ストライク!バッターアウト!」
「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
「三振ッ!これで五者連続ッッッ!!」
「ずっと塁におったのにこれかよ……」
「ほんまバケモンやな……」
「つくづく5点取った後で良かったわ」
アタシはアタシがやるべきことをやり尽くす。
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「ゲームセット!」
「試合終了!2-10!シャークス、ゴールデンウィーク10連戦全敗!日本記録の18連敗に並んでしまいました!」
「「「「「…………」」」」」
とっくに空席が目立ってた観客席だけど、今や沈黙の音さえ聞こえてきそうなくらいの消沈ぶり。
アタシは途中で降りたけど、後続の投手陣も同じく計5失点。こっちも一応2点を返したけど、ソロムラン2本じゃ付け焼き刃も同然。
「ぐっ……ううっ……!」
「ちくしょう……ちくしょう……!」
「何で、こんな……」
「……出るZO」
「「「はい……」」」
去年も今ほどじゃないけど負けが重なった時期があって、その頃からホームの試合では勝っても負けてもベンチ一同で一度グラウンドに出てファンに一礼をするのがチームの決まりになった。もちろん、この連敗中もそうし続けてる。
「礼!」
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」
嗚咽を漏らすメンバーも少なからずいる中、どうにかしてその一言を全員で捻り出す。
「みんなよく頑張ったんだ!」
「小森!■■!ナイスホームランだったんだ!」
「その調子なんだ!いけるいける!」
「まだ5月頭なんだ!ここから巻き返していくんだ!」
「綾瀬の引退前にもう一度テッペンを獲るんだ!」
「今日はこんなのでも明日があるんだ!」
「明後日もまた来るんだ!」
沈黙を破り、どうにか今を変えようと、精一杯の励ましを捻り出す熱心なファンもいる。けど、皮肉にもそれもまた今に繋がってるんだろうね。
「……何が『頑張った』よ。バッカみたい」
「ユミ!言いすぎだろ!?」
「サイッテー。こんな試合観せるためにわざわざ呼んだの?」
「マキちゃん!?待ってよ!」
「ハッ……何が"優勝候補"だよ。笑わせンなよ」
「は?さっきからアンタさぁ、ファンなのにそんなことばっかり言ってんじゃないわよ」
「あ?ンだテメェ?こっちは金払って観てんだぞ?」
「選手も監督もコーチも、みんな一生懸命やってたじゃない」
「じゃあファンはこんなん観せられても文句一つ言う権利もねぇってのかよ?ああ?」
「そんなに負けて文句が出るならヴァルチャーズなりジェネラルズなり応援して好きなだけ勝ち組気分味わってれば?」
「ハッ、ならシャークスはチームもファンも負け犬根性の奴の集まりだって言うのかよ?」
「……ッ!」
「ちょ、ちょっとタカくん……!」
「ミヨもやめなって……!」
「今度ここで流しそうめんでもやらね?」
「良いじゃん良いじゃん!絶対バズるって!」
激励の中でも確かに聞こえてくる悲嘆、諍い、嘲笑。プロを名乗る以上、今日に限らず、勝ちも負けもチームだけのものじゃないってのがはっきりとわかる。
「嘘つき……」
「……!」
ベンチに戻る間際、直上からの高い声。見上げると、あのおにぎり坊や。
「嘘つきッッッ!!!」
「おい克己!やめないか!!」
「嘘つき!嘘つき!!うっ……うああああああああああん!!!!!」
フェンス越しにアタシと顔を見合わせて、何度も繰り返す。お父さんらしき人に止められても、ただでさえ涙でくしゃくしゃの顔をさらにしかめて。
全くもってその通り。反論の余地なんてこれっぽっちもない。気休めでも約束をした以上、そう言われて当然。アタシ個人がどれだけ頑張ったかなんて関係ない。最低でもあの子だけは、アタシにそう言える資格が確実にある。
「……ごめん」
だからもう、アタシにはこう返す以外ない。
……いつものアタシだったら、こんな謂れすらも『知ったこっちゃない』の一言で片付けられるんだけどね……
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