第六十一話 スター・オア・ピエロ(6/9)
******視点:月出里逢******
「シャークス、どえらいことになってるね」
「雨田達が言うには、最近の佳子、抜け殻みたいだってさ。試合だけは何故か張り切ってやってるみたいだけど」
「今日の試合、まだ途中だけどこれ、佳子ちゃんには相当堪えそうだよね……」
「お前の方が今まさに堪えてるだろ?」
「わかる?」
「そら一目同然よ」
大嫌いな飛行機移動。いつも通り神楽ちゃんが隣にいるけど、やっぱり落ち着かない。三角座りで座席について毛布にくるまって身体を震わせてしまう。
リコと違ってリプはいつもより少しずれた日程になっただけで休みが1日挟まったから10連戦にはならなかったけど、それでも移動距離はいかんともしがたい。明日休みを挟むとは言え、次のエペタムズ戦のために九州から北海道まで大移動。今日までのヴァルチャーズとのカードで3タテ喰らったけど、今はそんなこと全くどうでもいい。あたし個人はまぁまぁ活躍したし。こんなに移動移動で睡眠時間が狂ったら肌に悪い。
「飛行機そんなに嫌なのか?」
「ちょっとネジが外れたら死ぬじゃん?墜ちて仮に無事でも山の中で遭難するかもしれないじゃん?何よりもあたしのクッソ可愛い顔に傷か付くかもしれないじゃん?人類の損失だよ?」
「お前ほんと前向きなのか後ろ向きなのかよくわからんな……いっそ新幹線にしときゃ良いのに」
「新幹線の方が時間かかるし高くつくからね。すみちゃ……オーナーに迷惑がかかるよ」
「好きだねぇ」
昨日すみちゃんの誕生日だったのにロクに祝えなかった。どのみちもう東京に戻ったから直接は無理だけど……
「それに、将来的に嫌でも乗りまくることになりそうだからね」
「……メジャーか?」
「よくわかったね」
「あっしも願望はあるからな。ちゃんと英語とかも話せるのか?」
「……あたしの可愛さは世界共通言語みたいなもんだよ」
「ちょっとは勉強しような?」
別にメジャー自体に特別な憧れはないけど、すみちゃんの願望通り"世界一"とか"史上最強"とかを目指すならいつかはそういう時も来ると思う。日本国内だけでそれが叶うなら、すみちゃんが経営してる球団にずっといたいんだけど、どのみち国際試合にもなれば避けては通れないだろうし。だからちょっとでも慣らしておかないとね。
それでもやっぱり、怖いものは怖い。とにかく気を紛らわせるために、機内モードに切り替えたスマホで情報収集。
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【横須賀新喜劇】シャークスさん、初回からヒット5本と相手のバッテリーエラー1回←何点取れたと思う?
1 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
答え:0点
2 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>1
うせやろ?
3 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>2
偶然じゃないぞ
ttps://sportsbn.co.jp/jpb/game/20190506334/top
4 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>3
ファーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
5 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>3
すごいなシャークス、どうやったんだ?
6 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>5
単打
盗塁失敗、単打 (フェン直)
単打
単打、本塁憤死
単打
暴投 (ランナーが生還したとは言ってない)
捕邪飛
ちなみに1回に稼いだ球数は13球や
7 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>6
自分草いいっすか?
8 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>6
海老名より向こうの人を帰れるようにする早打ち打線の鑑
9 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>6
改めて文字にするとおぞましいな……
10 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
シャークス総合スレの方では
サードコーチャーにスパイ容疑がかかってる模様
11 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>10
草
12 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>10
シャークスにジェネラルズのスパイなんて
とっくの昔から入ってるやろ
13 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
鈍足アヘ単打線も悪いけど大体ベンチのせいやな
そもそも初回いつもよりはマシなクイーンなんやから
今日は無難にいけば十分勝ち目あるやろ
何でそんな焦ったやり方してるん?
14 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
>>13
18連敗かかってたらそら焦りもするやろ
15 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/05/06 (月)
一応打ててるのは事実やしまだ勝てると思いたい
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******視点:妃房蜜溜******
「ストライク!バッターアウト!」
「ここは当てられません、■■三振でツーアウト!」
「今日の妃房は立ち上がりから安定してますね。スピードはまだ出てませんが、余計な四球がないのは大きいですね」
「1番セカンド、■■。背番号■■」
「さぁ3回の表、ツーアウトランナーなし。ここで打者一巡して打席には1番の■■」
ここまで打たれたのは神結さんのソロムランのみ。アタシも驚くくらい、今日はストライクに入れる分には困らない。アタシは身体の構造から言っても、打ちにくいとこに投げるよりは打ちにくい球を投げるのが持ち味だと思ってるけど、それでも四球も投手の負けなんだから、出さないで済むならその方が当然嬉しい。
「スライダー引っ張って、三遊間!」
このコースでこの勢いのゴロはまずいかな……?
「ショート数橋追いついた!」
「キャーッ!艶くーん!」
さすが艶さん、難しいバウンドでも……!?
「ああっと!弾いた!」
「セーフ!」
「投げられません!記録はショートのエラー!」
「艶王子にしちゃ珍しい……」
「早打ちに続いて守乱まで伝染したのか……(呆れ)」
(わ、悪ィ……!)
艶さんが申し訳なさげに右手を立てる。今のはしょうがない。弘法も筆の誤りってね。
「2番ショート、神結。背番号6」
「ツーアウトからランナーが出て、打席には先ほど先制ホームランの神結!」
「杏那!もう一発かましたれ!」
「責任追及の時間じゃ!」
ゲームの流れ的にはさっきのところで切って余裕を持って神結さんと勝負したかった……というべきなんだろうけど、どのみちやることは変わらない。
「!?」
「ストライーク!」
「初球まっすぐ151km/h!」
「おおっ!ついにエンジンかかったのか!!」
「クイーンの本領発揮なんだ!」
この人にやり返すのは決定事項なんだからね。
(相変わらず突然目が覚めたようにエグい球を投げてくる……しかもあんなにニヤニヤと笑いながら)
(この球ならさっきみたいな一発はまず心配ない……が、神結さんはいざとなれば最低限でも右方向に持っていくくらいのことはする。この場面で警戒すべきは……)
与儀さんのサインは……ま、しょうがないか。別に勝負を避けろって話でもないし。
「!!一塁ランナースタート!」
(……!読まれた!!)
「ストライーク!」
(よし、刺せる……!)
狙い通りに高め速球を投げて、与儀さんはすかさず二塁へ送球……
「!!ああっと!」
「は……?」
「セーフ!」
「セーフ!盗塁成功!ベースカバーのセカンド、こぼしてしまって空タッチ!」
「タイミング的には十分刺せたんですけどねぇ……確かに手前でワンバンしてしまいましたけど、あれは捕って欲しいですねぇ」
「(アカン)」
「入るの遅いわセカンド……」
「ちゃんと全体の動き見とけよ」
「連携どうなっとんねん」
(こんなことでも妾の盗塁阻止率に影響を与えるのは歯がゆいところだが……打点や投手の勝敗もそんなものか。切り替えていくしかない)
……アタシは良い打者と勝負したいだけ。味方が早打ちで愉快な攻撃をしたり、グダグダな守備をしようがアタシには関係ない。味方がやらかすなら、むしろ勝負の機会が増えるだけ。
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『く、"クイーン"!』
『今日は勝てるよね!?』
『約束だかんね!?』
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誰が期待しようが、誰も期待しなかろうが、アタシには関係ない。関係ない。関係ない。
「!!?」
「スイング!」
「ハーフスイングは……」
「ボール!」
「回ってません、ボール!し、しかし……」
「「「「「おおおおおおおッッッ!!!!!」」」」」
「ついに出たんだ!」
「クイーンの160km/hなんだ!!!」
「ええでクイーン!」
「そのまま抑えてくれ!」
「気迫を感じますね。この状況で頼もしいですよ」
(助かった……全く、本当に化け物じみてるな)
アタシは神結さんにリベンジしたいだけ。他のことは何にも関係ない。興味ない。どうでもいい。
「ファール!」
「今度は当てました!161km/h!」
(単純なスピードだけじゃなく、近づくたびに加速し、浮き上がるようなこの感覚。ストレートには強い方だと自負してるが、完全に初見だったら間違いなく無理だったな)
さすが神結さん。簡単にはやらせてくれないね。
(なら、コイツで決めようではないか)
特に対右のとっておき。上等だよ。
(『あの球』の線もあるが、だからと言ってあのまっすぐはついでで対処できるようなものじゃない。基本はまっすぐを狙っておく他ない)
高速チェンジアップ、これで決め……ッ!?
(!?まずい……浮いた!)
(いける!)
「打ち上げた!」
「「「おおっ!!!」」」
「いや、これは……」
左中間方向のフライ……これは捕れるか、落ちるか……
「ああっ!」
「危ない!危ない!」
「「……ッ!」」
「落ちました!」
「ファッ!?」
レフトの天竺さんとセンターの唐須さんが両方追ってたけど、交錯しそうになってお互い減速して、その間に落球。
「回れ回れ!」
「セーフ!」
「二塁ランナーホームイン!2-0!そして打った神結はセカンド蹴って……」
「外野!返球急げ!」
「おわッ!?」
「し、しまった!」
「くそッ……!」
どうにか追いついた唐須さんが中継めがけて投げたけど、焦って投げたせいでボールを叩きつけてコロコロと転がる。中継に入ってた艶さんが急いで前進して捕りにいくけど……
「セーフ!」
「神結ホームイン!まさかの形でジェネラルズ3点目!」
「うひょおおおおおおお!!!」
「ランニングほーむらんじゃあああああ!!!」
「ヒットとエラーだぞ(■松)」
「「「「「…………」」」」」
盛り上がるジェネラルズベンチとビジター側観客席。それに対して、こっち側はまるでお通夜……
「おい野手陣!何やっとんじゃ!!」
「プロならまともに連携せいよ連携!」
「勝つ気あるんか!?」
「そんなに"噛ませ"のままでいたいんか!?」
「ジェネラルズのスパイ決め込んでんじゃねーぞ!」
特大ホームランを打った時のように、静寂がいきなり覆る。だけどそれは歓声や祝福とかじゃなく、ほとんどが怒号。
まぁこういう批判も出てくるよね。シャークスのEEGg体制が始まった頃、チームの再建でジェネラルズのOB・OGに頼りまくったって聞くし、ウチのミラー監督だって元はジェネラルズ関係者。選手にもジェネラルズ出身者は結構いる。
そもそも2リーグ制の制定の頃のいざこざとかで大体のリコの球団はジェネラルズに頭が上がらない立場で、それが今でも響いてるともよく言われる。唯一そういうのがあんまりないサラマンダーズもここ10年近く資金不足で低迷しちゃってるし、ますますもってリコはやっぱりジェネラルズが中心なんだなぁと思い知らされる。
……そんな風に、いつも通りに他人事で片付けたい。片付けたいのに。
「妃房、大丈夫か……?」
「……ッ!心配いりません……関係ないですから」
マウンドに来た与儀さんに見られたくなくて、目頭が熱くなるのを、薄暮の空を見上げて誤魔化す。
チームが同じでも、所詮は他人。チームの順位がどれくらいであろうが、安い人は年数百万、高い人は年数億って、財布を別にして自分達の裁量で勝手にやってる者同士。そんな人達が上手くやって褒め称えられようが、下手こいて恥をかこうがアタシには関係のないこと。そういう名誉や屈辱を全部合わせた結果で勝ち負けのどっちかが生じたとしても、関係のない話。
アタシはずっとそう思って今日までやってきた。なのに今日は、どうしてもそう思い切れない。
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