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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
374/1163

第六十話 貴女を超えるあたしになりたい(5/6)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


 やっぱり、まだまだ若王子(わかおうじ)さんには敵わないな……あたしも正直、満塁にしちゃった時点で負けたと思った。前の撫子(なでしこ)さんの打席で送球前にボールをこぼしたのももしかしたら、そういう可能性が頭をよぎってしまったからかもしれない。

 せっかくみんなが来てくれたんだから、勝ちたかったなぁ……


「すみません、埴谷(はにや)さん……」

「気にしないで下さい月出里(すだち)センパイ♪追いついてくれたおかげであの時点で同点にはならなかったんですから♪」


 引き上げる時に埴谷さんに謝っておく。次の坊井(ぼうい)さんも勝負強いから難しいとこだけど、それでもアウトを1つでも取れてたら、若王子さんを歩かせることもできたのに。


「あ、あの……!」

「あ……」


 球場内の通路に入ると、三矢(みつや)さんの姿。


月出里(すだち)さん……今日はぶつけてしまって本当に申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」

「三矢さん……いえ、大丈夫でしたよ。ほんとに肘当てのとこでしたし」

「良かった……でも怪我は後になって症状が出ることもありますので……」

「そうですね。気をつけます」


 ほんと、同じ球団の同じ嚆矢園優勝投手でも、あの宇宙の地上げ屋みたいな目をしたケバい女とはえらい違い。立場が違うのもこういうとこなんだろうね。あたしみたいなぽっと出の選手のこともよく研究してるみたいだし。


「もし傷物になったら、私に責任を取らせていただけませんか!?」

「いえ、お気持ちだけで結構です」


 あたしの1つ年上の人達、何でこんな変態のバリエーションが豊富なんだろ?やたら抱きついてきたりラッキースケベだったり打たれて喜んだり、しかもこんなド直球な人まで……


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******視点:若王子撫子(わかおうじなでしこ)******


「お待たせしました!」

「ひぃふうみぃよぉ……お揃いですわね。では皆様、ごきげんよう」

撫子(なでしこ)さん、明日からも頑張ってください!」

「ええ、ありがとうございます」

(とおる)、今日のところはカレーも飲めましたわね?」

「いや、姫子(ひめこ)。何べんも言ってるけどカレーは飲み物やないからな?」

「んじゃ、そろそろ行きますか」


 三矢が来たところで、メンバーは全員集まった。待ち合わせの間のファン対応を済ませて、これから近所の焼肉屋で祝勝会。それにしてもウチは埼玉の球団なのに関西人率が高い……


 うちもお(ねえ)ももうとっくに本性がバレバレやけど、プロ入り以来、普段はこういうキャラ付け。お姉は若手の頃からファンサとかが塩対応すぎるのを球団が見かねて、高嶺の花っぽい感じにしてその辺を誤魔化(ごまか)そうってなっただけ。うちはお姉とセットってのもあるけど、素を出すと年上にまでタメ語使ってまうからな。同じ球団の気心知れた仲ならええんやけど、よその(もん)にまでやると色々面倒。なんやかんやで体育会系の仕事やし、ファンには嫌われたないし。

 見た目こんなんでも、うちら別にお嬢様とかそんなんちゃうからな。普通におかんがユニフォームを洗ってくれて、三度の飯も大皿にドンとおかずを盛ってみんなで奪い合……つつくような、そんな普通のご家庭出身。姉妹揃って大阪桃源(おおさかとうげん)出てるけど、うちはともかくお姉の頃はまだ"王者"とか言われるほど(つよ)なかったし、お姉が他の強豪校のスカウト蹴ってまで入ったのも単に『家から徒歩5分』ってだけの理由。ただ美人で野球が上手くて食い意地が張ってるだけの、めんどくさがりと元ヤンの姉妹やのに。うちらからしても『どうしてこうなった』って言いたいくらいやで。


「三矢、どこ行ってたんだ?」

「あ、えっと……向こうのチームの月出里さんのとこに……」

「ああ、あのショートの可愛い子ちゃんね」

「オレ、あの子に殺されるかと思ったよ……」

「六車さん、よくあのゴロ捕れましたよね……」

「うん、たまたまグラブの近くに来たからどうにか……」

「うちもアイツには散々な目に()うたわ……ヒット2本も損した」

「捕れる範囲と肩はほんとにすごいよね、あの子。ただちょっとステップが捕球動作と噛み合ってないせいか、送球までにもたつく時があるね。最後のなんかそんな感じだったし。その辺は相沢(あいざわ)さんとか参考になると思うけどね」

「さすが六車さん」

「……ワタクシとしては、打つ方が気になりましたわ」

姫子(ひめこ)さん?」

「あのゴロのインパクトも確かに相当なものでしたが、そんな表面上のものではなく、もっと底知れない何かを感じましたわ」

「お姉様もですか……」


 (ちこ)うで見てたうちもそう(おも)た。六車さんが口でええとこ悪いとこを具体的に説明できる守備と(ちご)て、バッティングはほんまにわけがわからん。徳田(とくだ)は去年の出始めの頃から厄介やったけど、アイツもいずれそれと同じか、それ以上になるかもしれん。

 優勝と、そして今年こそ帝シリを制するためにはヴァルチャーズに勝てるようになるのがベストやけど、それ以前にバニーズ戦で取りこぼしなんてしてられへんわ。そのためにも、次にマークすべきは月出里(アイツ)かもしれんな。


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