第五十九話 誉れ(1/9)
******視点:伊達郁雄******
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2019ペナントレース バニーズvsビリオンズ
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2二 徳田火織[右左]
3左 十握三四郎[右左]
4指 リリィ・オクスプリング[右両]
5三 デーブ・キャロット[右左]
6一 天野千尋[右右]
7右 松村桐生[左左]
8捕 伊達郁雄[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
●大宮桜幕ビリオンズ
監督:八汐元三
[先発]
1中 棟木堅固[右左]
2遊 六車刀磨[右左]
3二 赤藤国光[右右]
4一 関恵実[右右]
5捕 若王子撫子[右左]
6三 若王子姫子[右右]
7指 坊井透[右左]
8右 恋塚万梨阿[右右]
9左 招福金八[右両]
投 三矢麻美[右右]
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試合開始までもう少し。ふとバックスクリーンの方を見て、さっき発表されたスターティングメンバーを再確認。相変わらずビリオンズ戦はオーダーを見てるだけで頭を抱えたくなる。球界を代表する一流の野手が所狭しと並んでるんだからね。これでもFAで1人抜けた分、去年よりは多少マシというのが恐ろしいところ。
「ナイスボール!」
今日の先発の氷室くん。開幕こそ勝ちが付かなかったけど、先週はきっちりHQSで勝ち投手。どんな強力打線でも投手の状態が良ければ大怪我はしないもの……ではあるんだけどね。僕の経験則から言っても。
確かにWARとかあの辺を見てると野手の方がゲームの流れを握ってるように見えるけど、あくまであれはシーズン全体とか長期的な視点で見てのもの。勝ち投手負け投手って記録を投手個人の実力を測るために使うのは色々と懸念が残るところではあるけど、それでも1試合1試合の単位で見てみれば、基本的にゲームの流れは先発投手の出来で大体決まる。その事実に変わりはない。
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「プレイボール!」
「1回の表、バニーズの攻撃。1番センター、赤猫。背番号53」
今日の向こうの先発は三矢麻美くん。嚆矢園優勝投手を経験した将来のエース候補。
「ボール!」
「初球は外れてボール!しかしいきなり150km/h!!」
「はっや……」
身長はプロ野球選手としてはごく普通、つまり投手としては中の下くらい。黒髪をしっかり結んで真剣な面持ち、すごく真面目そうで技巧派投手を思わせる見た目をしてるけど、実際はこの平均で150に達するほどのストレートが彼女の持ち味。リリーフでコンスタントに150を超える投手はそれなりに見かけるけど、先発でこれだけのスピードを維持できる投手はなかなかいない。ウチの投手で言えばおそらく雨田くんが最も近いタイプ。
同年代の妃房くんのインパクトが強すぎるけど、その経歴による経験値を加味すれば、決して見劣りしない逸材と言える。
「ボール!フォアボール!」
「いつもの」
「三矢ー!びびってんじゃねーぞ!!」
「ドンマイドンマイ!球走ってるで!!」
「す、すみません……!」
妹の方の若王子くんが明るく声をかけながら返球し、三矢くんが申し訳なさそうに受け取る。
去年、途中抜けがあったとは言え、高卒2年目にして先発ローテを任されただけあって高い能力を持ってるのは間違いないんだけど、いかんせんまだまだ荒削り。
「セーフ!」
「二塁間に合いません!赤猫、盗塁成功!!」
「ナイスにゃんにゃんや!」
「おばちゃんになってもLOVEやで、閑たそ!」
(誰がおばちゃんよ……!)
(フン……まぁええわ。どうせホーム返さんかったらチャラやチャラ)
流石は赤猫くん。若王子くんは肩こそあれどキャッチャーとしてのディフェンス面はまだまだ経験不足。だから付け入る隙はある。バッテリーにはね……
「サード若王子、落下点に入って……」
「アウト!」
「捕りました!サードファールフライでワンナウト!!」
「おいィ!?パンダの登板日やろ!!?」
「進塁打くらいは頼むで……」
「まぁええやろ。閑たその場合、シングル以上なら変わらんわ」
「それに次アイツやしな」
引っ張り屋の徳田くんが力負け……それだけ三矢くんのまっすぐが走ってるってのもあるんだろうけど、どうも徳田くん自体も去年の今頃と比べてあまり調子が良くない。何というか、去年ほどのしつこさが無いというか……
「3番レフト、十握。背番号34」
「ゴールデンルーキー様のお出ましじゃあああ!!!」
「三四郎!三四郎!」
「今日もフルスイング頼むでー!」
すっかりファンに気に入られてるね、十握くん。まぁ無理もない。純粋に結果を出してる上に、バッティングも華やかだからねぇ。ウチでも豪快なスイングと言えば金剛くんとか天野くんがいるけど……
「ファール!」
「ええでええで!タイミング合ってるで!!」
(私のストレートをいきなり……!?)
(やるなぁコイツ。噂通りええ振りしてるわ。うちと似たようなタイプかな?)
十握くんの場合はあのスイングでさらに当てられれるんだからね。今現在チーム内首位打者。ちょっと打球が上がらないのが心配されてたけど、昨日きっちりプロ初ホームランを打ったからね。これから先も頼りにさせてもらえそうだ。
「打ちました!センター方向……」
「アウト!」
「セカンドランナー、スタートを……」
……無理だろうね。
「切りません!セカンドへ戻ります!」
「良い返球ですねぇ。流石の赤猫でもあの位置からじゃ三塁は無理でしょうね」
強烈なサードへのダイレクト送球はセンターの棟木くんによるもの。流石は球界きってのオールラウンダー。打撃も素晴らしいけどこの守備もあるからねぇ。
「4番指名打者、オクスプリング。背番号54」
「リリィ!せめて先制点だけでも頼むで!」
「ホームランでもええんやでー!」
十握くんと並ぶウチの打撃屋。今年はちょっと打率がまだ上がってないけど、それでもホームランの数でチームトップ。金剛くんと天野くんがあまり打ててないし、まぁ今はこの打順が妥当だろうね。
「ライトの前、痛烈!」
「よっしゃ!これで先制……!」
十握くんのような見た目の華やかさはないけど、それでも合理的かつ力強いスイング。三矢くんのまっすぐを堂々と打ち返し、ライトの前に……
(アピールチャンス!)
「!!?バックホームは……」
「アウトオオオオオオオオオオ!!!!!」
「「「「「うおおおおおおおッ!!!」」」」」
「良いぞ良いぞ恋塚!」
「あれ誰や?」
「知らんのか?プロスペクト候補の恋塚やで」
「データ屋にやたら推されてるんやで」
恋塚万梨阿くん……去年ももしかしてほんのちょっと出てたっけ?正直あまり知らないけど、赤猫くんを刺すとはね……ビリオンズは内野と比べれば外野はやや薄く感じるけど、それでもこれだけの子がポンポン出てくるんだから、本当にビリオンズの野手力は侮れない。
「スリーアウト!バニーズ、先制のチャンスを掴みましたが一歩及ばず!0-0、同点のまま1回の裏の攻撃へ移ります!」
「まぁしゃーない。閑たそが刺されたんならもう誰でもアウトやろ」
「一応打ててはいるんやしな。まだまだチャンスはあるやろ」
「今日パンダやし、いけるいける」
……だったら良いんだけどね。




