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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
36/1128

第八話 あたし、頑張るよ(1/5)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


 紅白戦があった日の夜。あたし達は改めてクソジジィ……(やなぎ)監督にミーティングルームへ呼び出された。


「紅組は一軍キャンプ用のグラウンドと屋内施設を主に使うから、二軍キャンプ用の施設はお前ら白組が自由に使ったらええぞ」

「一軍キャンプ側、人数的に練習は大丈夫なんすか?」

「まぁ少々手狭なのは否定できんが、練習スケジュールを調整すれば一週間くらいはどうとでもなる。ただし、その間二軍コーチは紅組側の二軍選手の指導の為に一軍キャンプの方に異動させるから、基本的に練習メニューとかは自分達だけで考えい」

「と言っても、指導する人数が減る分、空き時間もいくらかできるはずだから、アドバイスが欲しかったら頃合いを見て私達に声をかけてくれれば良い」


 大筋の話し合いはキャプテンの冬島(ふゆしま)さんと、ベテランの伊達(だて)さんが請け負ってる感じ。


月出里(すだち)。ちゃんと毎日時間空けるから、私がいない時は守備練習メインでやっときなさい。アンタ多分ショートやる事になるだろうし」

「あ、はい。わかりました」


 流石に一週間でどうにかなるのなら今まで苦労だってしてないだろうから、振旗(ふりはた)コーチの言う通り、今回の喧嘩は守備でどうにか貢献しようと思う。


旋頭(せどう)コーチ。後でお話良いですか?」

「ん、わかった」

「……あの、ボクも少し良いですか?」


 氷室(ひむろ)さんは全然わかるけど、あの時の勢いはどこにいったのか、雨田(あまた)くんも旋頭コーチに話しかけてる。流石に今日のピッチングで色々思うところがあるのかな?


「さて……お前らの言う通り、喧嘩の舞台も準備する環境もくれてやった。小僧ども、くれぐれもワシにつまらん野球を見せてくれるなよ?」


 言われなくてもわかってる。吠え面かくんじゃねぇぞクソジジィ。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 次の日の朝から、本格的に準備開始。

 昨日の夜は若王子(わかおうじ)さんの今年の様子をチェックしたり、日課のプレー動画の視聴で少し寝る時間が遅くなっちゃったけど、試合に出られる嬉しさで眠気は十分吹き飛んでる。

 ある程度身体を温めてほぐしてグラウンドに入ったら、まずはキャッチボールから。


佳子(よしこ)ちゃん、そろそろ始めよっか」

「うん!……あれ?」


 佳子ちゃんの視線の先には、同じくグラウンドに入りながらグローブをはめる神楽ちゃんと、イキリ眼鏡の雨田(あまた)くん。隣り合ってるけど、どっちも明後日の方向を向いてる。あらら、昨日からのいがみ合いがまだ続いてるみたい。それに続いて他の人達も入ってきた。


「……(あい)ちゃん。せっかく今日から一軍組とも一緒に練習するんだし、今日は別の人と組まない?」

「あ、それもそうだね」

「雨田くん、今日はわたしとキャッチボール組みませんか?」

「……良いけど」

(まぁ夏樹(なつき)と組むよりはマシか)


 さすがは佳子ちゃん。ちょっとお節介なとこはあるけど、こういうフォローが上手い。


「……恵人(けいと)くん、僕は今日はノースローで練習するから、悪いけど別の子と組んでくれないかな?」

「え!?ちょっ……」

山口(やまぐち)さん。あたしと組みませんか?」

「う、うん……良いけど……」


 せっかくの機会だからバリバリの一流選手の伊達さんと一度キャッチボールしてみたかったけど、山口さんは山口さんで興味があった。

 ほとんどあの人のおかげでプロ入りできた程度のあたしと違って、この人は何とあたしより1年早く中卒で指名されて入団した経緯がある。だから2学年分年下だけど、プロとしては先輩ということになる。指名には色々大人の事情も絡んでたって聞くけど、少なくとも中学時代の活躍はテレビでも取り上げられてたくらいだし、実績や才能は間違いなくある。

 ここまでくると、投手と野手の違いもあって嫉妬する気も起きない。


(年寄りぶってみたけど、僕もまだまだ若い子から学ぶ事が多いね。現役を続ける上での、良いモチベーションになりそうだ。そしてそれは君にとっても同じだ、恵人くん。僕からは学べない事、この機会に後輩達からいっぱい学び、いっぱい学ばせてあげると良い)


 ミットをベンチに置いて代わりにバランスボールを用意する伊達さんを、山口さんは名残惜しそうに見てる。前から思ってたけど、山口さんっていつも伊達さんにベッタリだね。年頃の可愛い目の男の子がこんな美少女よりもおじさんに目移りされちゃうと、お姉さん割とショックなんだけど。


氷室(ひむろ)さん、オレと組みません?」

「良いですよ。……あ、でもその前に……」

「?」

冬島(ふゆしま)さん、今後はお互い敬語無しにしませんか?歳の差とかプロのキャリアの差でこんな感じですけど、せっかくの機会ですし、バッテリーを組む上で意思疎通もしやすくなると思うんで」

「お、それもそうやな」


 神楽ちゃんはリリィさんと組んだみたい。こういう雰囲気だからか、大体のペアが一軍メンバーと二軍メンバーの組み合わせに自然となってた。


「なかなか良い球投げるね、ルーキー」

「山口さんもさすがです!」


 綺麗なスピンのかかった球で、距離を取っても難なく良い球を届かせる。いつもチビ扱いされるあたしよりも背が低いけど、相当鍛えてるのが見て取れる。肩には結構自信があるけど、あたしと同じくらいかも?

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