第六十七話 精一杯の結末(5/7)
******視点:鈴鹿智子******
「4番ファースト、黒毛屋。背番号6」
「要さーん!舐められっぱなしじゃいられねーべ!!」
「サヨナラかましたれやー!」
「ツーベース、バント、敬遠、敬遠でワンナウト満塁、一打サヨナラの場面で打席に立つのは主砲・黒毛屋」
「確かに満塁の方が守りやすいのは事実ですが、草薙との勝負を避けられたような形ですからね。ここで一つ、主砲としての意地を見せたいところですね」
向こうの布陣はやはりゲッツー狙い。天野の守備力を考えたらスクイズは狙いにくいし、何よりも要にはプライドを優先させてあげたいしねェ。遠慮なく打ちにいきなさァい。
(あざっすだオラァ、監督!)
それに、勝算も十分ある。
「ストライーク!」
「1球目速球154km/h!」
「ギア入ってますねぇ……」
向こうのクローザー、カリウス。150km/h超えのまっすぐのみならず、最速で150km/hに到達するカットボールやシンカーを駆使する右のパワーピッチャー。ちょっと前までメジャーでは一般的だった、ツーシーム系主体のグラウンドボールピッチャーってやつね。その特徴から、守護神という立場とスピードの割に奪三振率はあまり高くない。それでも日本じゃあまり見かけないタイプのピッチャーだから、移籍1年目には防御率0点台に迫るほどの好成績を残し、今年4年目もおそらくクローザーとして起用される見込み。
これだけのピッチャーがメジャーに戻らないのは、いわゆるフラレボでフォーシーム主体のピッチャーの需要が増して、低め低めのピッチャーの価値が下がったというのが理由の一つとして考えられるけど、まぁ今はそれは良いわァ。
「ボール!」
「ファール!」
「タイミング合ってるよー!」
「決めろ決めろ!」
昨今はリリーフ投手の価値が見直され、先発投手の完投が少なくなった関係で、先発投手の勝利数が昔より稼ぎにくくなり、逆にクローザーはセーブ数を稼ぎやすくなった。セーブ機会もゲーム状況に左右されるところはあるけど、それでも年間ベースで言えば先発投手の勝利数は稀に20勝程度なのに対して、セーブ数は40や50も見受けられる。
そうなってくると、名球会の条件の200勝と250セーブ、一見すると後者の方が圧倒的に容易であるかのように見える。実際、現代では200勝が極めて困難になってきてるのも事実ではある。でも、だからと言って250セーブが容易かと言われればそうとも言い切れない。
「!!!」
「これは……!」
「ファール!」
「切れましたファール!」
「ファールボールにご注意ください」
「あっぶね〜……」
クローザーは先発投手と比べて平均的な球威が上回ってることが多い反面、球種が少ないことが多い。そうなってくると、その分打者の『慣れ』に弱いと言える。イニング数で考えれば先発投手の方が対戦機会が多くなりやすいけど、何年も対戦してくればそのアドバンテージも薄れる。それに加えて打者の平均的なレベルが上がってきたことで、代名詞となるほどの球種1つで何年もプロで飯を喰っていけるような時代ではなくなってきた。
それを示すかのように、カリウスは防御率ベースではともかく、WHIPや奪三振率は年々確実に悪化してきてる。内野の守備が固くてグラウンドボールピッチャーなら気にしなくても良いと考えがちだろうけど……
「「「「「…………」」」」」
「いったあああああああッッッ!!!!!サヨナラ、サヨナラ満塁ホームラン!!!」
「「「「「うおおおおおおおッッッ!!!!!」」」」」
「「「「「要!要!要!要!」」」」」
「2019年開幕戦、いきなりの大どんでん返し!!!」
要はコンタクト率こそ良くないものの、パンチ力は十分。当てるところまではどうにかなるなら、あとは過去の経験でこうもできる。
メジャーでも実績のあるカリウス本人が十全な球を投げ続けられてるからと言って、何年も守護神をやれるほど今の日本球界は甘くないわァ。
「要!よく打ったよ!」
「要さん!」
「今日奢ってくださいね!」
「何でだよオラ!?」
ダイヤモンドを一周してきた要を総出で熱狂的に出迎え。そしてそれを呆然と見つめるバニーズの面々。
去年は随分と引き立て役にされちゃったからねェ。今年はやり返させてもらうわよォ。
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