第七話 吐いた唾を飲むつもりはありませんから(8/8)
******視点:伊達郁雄******
「「「「「「すみませんでした!!!」」」」」」
二軍キャンプ用のグラウンドに帰ってきてすぐ。ルーキーの子達が冬島くんの主導で、今回勝手に喧嘩を売ってしまったことを詫びてきた。月出里くんは思いの外殊勝に、雨田くんもさすがに大勢の人達を巻き込んだことに罪悪感を覚えてるのか、少しばつが悪そうな顔をしながらも素直に頭を下げた。
「まぁまぁ、気にしないで良いよ。ぼく達も正直監督の処分には納得できなかったんだからさ」
「全くだね。何であっくんが……」
「まぁおれにとってもチャンスだけどさ、今後はあんまり勝手なことしないでねルーキー」
僕自身も色々思うところがあったし、それは他の白組メンバーの子達にとってもそうだったようで、謝罪はすんなり受け容れられた。
そしてすぐに今後の準備に取り掛かった。まずはさっき届いた特別ルールの読み込み、それからポジションなどの役割分担と、現有戦力の確認。特に今日試合にほぼ出てないメンバーを中心に。
「それにしても伊達さん、ほんまに自分が正捕手兼キャプテンで良いんすか?」
「今回の件は一応ルーキーの子達が引き起こしたことだからね。そこを責めるつもりはないけど、かと言って出しゃばるつもりもない。僕は今回は脇役働きに専念させてもらうよ」
個人的な事情も言うと、故障明けで調整のペースを崩したくないってのもあるしね。キャンプの頭のこの時期に、無理にマスクを被るのにこだわるつもりはない。
「キャプテンも年長者ってことなら天野さんだって……」
「いやぁ、ぼくはそういうの性に合わないからさ……今日の試合でもルーキーとは思えないくらい堂々と振る舞ってたし、ぼくは幸貴くんの指示に従うよ」
「そ、そうっすか……そんじゃあ恐縮ですが、やらせて頂きます」
……それにしても、柳監督の発言。それに……
「ヤッベェ……大変なことになっちまったな……」
「が、頑張ろう神楽ちゃん!雨田くん達が今年一軍でやれるかどうかもかかってるんだから!」
「私も、紅白戦に全く参加できないのは厳しいのでお互いに頑張りましょう」
「せやな松村さん……ただでさえウチ、打つのでアピールできんかったら相当キッツイし……」
みんなは今回の勝負に負けたら、あの容赦ない処分が本当に下ると認識してる。でも……いや、よそう。ここはあえて黙ってる方が、おそらく僕や監督の目的に適ってると思う。
……さて、このルールで、どれだけ食い下がれるだろうねぇ。
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■春季キャンプ11日目の紅白戦について
当日の紅白戦は、紅組と白組との人数差・戦力差を鑑みて、以下4つの特別ルールを設けて行う事とする。
①白組は試合開始前に3点を得た状態でゲームを開始。ただし、9回終了時に同点なら紅組の勝利とする。
②紅白双方共に投手は原則として1人2投球回までしか投げられないが、先発投手は追加でさらに3投球回投げる事が出来、その余った追加分を次に登板する投手に譲渡する事が出来る(ただし、例えば先発投手が1回1/3で降板しても、次の投手に譲渡されるのは3投球回のみであるが、③のルールを適用すれば、先発投手は残り2/3を投げる事が出来る)。いずれかの組の残り総投球回で9回までの試合続行が不可能となり次第、その組は敗北とする。
③白組は選手交代で降板した選手を投手・野手共に1人1回ずつ再び控えに戻せる。投球回を完全に消化して控えに戻った投手は、投手以外でならば再び出場できる。
④白組は任意での交代時以外であれば、指名打者を自由に守備位置変更出来る(例えば一塁手が負傷した時に、指名打者を一塁に就かせて他の控えを指名打者として出場させられる)。
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