第六十七話 精一杯の結末(1/7)
2019ペナントレース バニーズvsエペタムズ
バニーズ 3-3 エペタムズ
9回表 先頭打者:赤猫
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2二 徳田火織[右左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4左 金剛丁一[左左]
5一 天野千尋[右右]
6右 十握三四郎[右左]
7三 デーブ・キャロット[右左]
8捕 伊達郁雄[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
●函館菊盃エペタムズ
監督:鈴鹿智子
[先発]
1三 ■■■■[右左]
2中 騒速明煌[右左]
3指 草薙敢[右左]
4一 黒毛屋要[右右]
5左 ■■■■[右左]
6右 ■■■■[右右]
7二 ■■■■[右左]
8捕 ■■■■[右右]
9遊 黄金丸魅零[右左]
投 ■■■■[左左]
******視点:早乙女千代里******
さっきモニターに映ってた投手コーチが、わざわざマウンドからブルペンまでお出ましに。
「早乙女。この回0点なら裏任せたぞ」
「うっす」
さっきの回の途中で出されると思ってたケド、まぁ温め損にならずに済んだね。
「早乙女」
「!?牛山さん……」
さっきまで隣り合って肩を温めてた牛山さん。立場的に今までもそういう状況はいくらでもあったケド、話しかけられたのは久しぶり。
「もうすっかり勝ちパターンとして信頼されるようになったな」
「……花城さんのことがなけりゃ、もうちょっと素直に喜べるんスケドね……」
「実力をふるいにかけられた結果だ、気に病むことはない……財前のこともな」
「そうっスね……」
実は牛山さんはあーし等とドラフト同期。2位指名の社会人出身。もちろんその立場上、即戦力を求められたわけだケド、見事に期待に応えて一軍投手陣の一角になった。ダラけてたあーし等と違って、最初から真面目に……だからある意味一軍の面子の中で一番、接するのが気まずいっていうか……
「桜井は結局何があったんだ?」
「……あーしも詳しいことはわかんないんスよ。謹慎明けてからは普通に二軍戦出てるんスケドね」
結局何をやらかしたのかわかんねーままだケド……あの様子だと多分良くてトレードの弾か二軍戦回すために飼い殺し、悪けりゃ折を見てクビって感じかねぇ?ま、月出里との約束もあるし、この辺の憶測も言うつもりはないケド。
「おっ、徳田が出たな」
「まぁ氷室の勝ち負けかかってますからね……」
開幕戦で同点の9回。この状況で出てくるのは当然、格のあるリリーフ。それも1番からの打順で左が続くから、実際に出てきたのは向こうの左のリリーフエース。なのに今日3本目のシングル。相変わらずこういう時は張り切るよなぁ……
「上手く勢いに乗って欲しいが、そうなってくると投げるのはカリウスになるだろうな」
「それならそれで良いっスよ。勝てるンですから」
「……変わったな、早乙女」
「変わらなきゃどうしようもなかったンスよ」
ケドまぁ、『野球は筋書きのないドラマ』なんて言うから、いつも綺麗なストーリーがあるわけでもなく、それどころかオチすらもグダグダになることも珍しくない。
「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
……ほらね。ま、氷室は気の毒だケド、こればっかりはしょうがない。
「早乙女、結果は残念だったが稼ぎ時だ。気合い入れてけよ」
「サオトメ、オレまで回せよ?」
「あざっす」
この回点が入ったら登板する予定だった守護神のカリウスからも激励。あーしもすっかりここが馴染んだね。
……財前さんと鞠も同じようになれば、もうちょっと気分良くなれてたんだケド。
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「ストライク!バッターアウト!」
「「「「「おおおおおッッッ!」」」」」
「三振!153km/h速球!2つ目の三振を奪ってスリーアウト!■■さん、今年も早乙女のまっすぐ走ってますねぇ!」
「まっすぐも良いですが、スライダーが去年と少し違ってましたね。むしろカーブっぽい大きな変化をしてたのが今年は真っスラっぽい感じで……」
頭でいきなり三振奪って調子に乗っちゃったねぇ。2人目グダって歩かせ。ま、ちゃんと0で抑えたんだからご愛嬌ってね。
「ほんまええリリーフになってくれたわギャル子……」
「たまに思い出したかのようにノーコンになるけど、左じゃ今一番信頼できるわ」
「お姉様があの調子やからなぁ」
「9回の裏終了、3-3!2019年開幕戦、両者譲らず延長戦に突入です!」
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******視点:月出里逢******
「10回の表、バニーズの攻撃。5番ファースト、天野。背番号32」
「チッヒ!こういう時こそ一発や!」
「遠慮せずにドカンと決めたれ!」
「さぁ延長10回、マウンドには■■に代わって右の■■!」
「裏は今日調子の良い黄金丸からですからね。バニーズにとってはこの回どうにか点を取りたいところですし、エペタムズにとってはここさえ乗り切れば、って場面ですね」
「打席には天野。今日は4打数ノーヒットですが、先ほどの打席はライトへの大きな当たりがありました」
5番からの攻撃。9番のあたしに回ってくるかは微妙なとこ。回ってきたとしてもそれならそれでランナー溜まってる状況になってそうだから代打出されないか不安だけど……まぁ一応今日ヒット打ってるし、今のショートの事情考えたらって思うしかないよね。
「!!?」
「「「「「おおおおおおおッッッ!!!」」」」」
「これは……レフトバック、レフトバック……フェンスに当たりました!!!」
惜しい、あと何十センチか……でも、これなら……!
「セーフ!」
「天野、悠々と二塁へと到達!先頭打者出塁!!」
「っしゃあ!ナイスやチッヒ!」
「ノーアウト二塁、勝ったな(確信)」
……喜ぶべきなんだろうけど、正直ちょっと複雑な気分……
「6番ライト、十握。背番号34」
「良い場面で回ってきたでゴールデンルーキー!」
「勝ち越しも頼むで三四郎!」
「さぁノーアウト二塁、一打勝ち越しの大チャンスで打席には十握!今日は先制タイムリーとツーベースで大いに当たってます!」
「ここ勝負しますかねぇ……?」
多分今日に限って言えばウチの最強打者。良いバッターだと思うけど、やっぱりあんまりあたしより目立たれたくない……




