第五十五話 当たり前の応酬(6/8)
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「ストライク!バッターアウト!」
「外!見逃し三振!!」
「今日の氷室は左の外を上手く使えてますねぇ」
「スリーアウト!2回の裏、エペタムズ。三者凡退です」
調子が良いね、氷室さん。ほんとに危なげのないピッチング。ファールで怖い当たりとかも今のところない。
「3回の表、バニーズの攻撃。4番レフト、金剛。背番号55」
とは言え、誰が投げてようが2点リードじゃ心許ないものだけど……
「アウト!」
「アウト!」
「ツーアウトツーアウト!」
「良いぞ戸松!」
「それでこそエースや!」
「ナイスボール!」
(立ち上がりはまっすぐとカットに頼るしか無かったが、ナックルカーブも入るようになったおかげでかなりやりやすくなった。コースが多少雑でもタイミングと軌道にメリハリをつけられりゃ、戸松の球はそうそう打たれねぇよ)
2回から本領発揮の戸松さん。去年勝負した嵐田さんとはまるでタイプが違うけど、どっちにせよ力のある投手。
「!?」
「セカンド!」
「セーフ!」
「「「「「おおおおおっ!!!」」」」」
「十握、二塁到達!ツーベース!何と十握、プロ初打席から二打席連続安打です!!」
「さっきは振り抜いて外野まで持っていきましたけど、今度は逆方向技あり……いやぁ、器用ですねぇ」
そんな戸松さんをポンポン打つ十握さん。ほんとこの人はすごい。火織さんとかリリィさんも上手いと思うけど、十握さんはそれ以上かも?
「アウト!」
「スリーアウト!二塁残塁、追加点ならず!」
とは言え、いくら長打が出てもツーアウトからじゃなかなかね。
「3回の裏、エペタムズの攻撃。8番キャッチャー、■■。背番号■■」
(初回から援護もらって、得点に繋がらなくても攻撃の形はちゃんと作ってくれてる。なら俺もこのまま抑え続けるまでだ……!)
「ストライク!バッターアウト!!」
ほんと今日の氷室さんはスイスイ投げるね。
「■■、スイングアウトの三振!氷室、今日これで5つ目の三振です!」
「フォークがいつも通りで、制球もまとまってますね。これはエペタムズも手こずりそうですねぇ」
「9番ショート、黄金丸。背番号9」
「魅零ー!とりあえず出塁してくれー!」
名手・黄金丸さん。火織さんの守備力を上げてショート寄りになったような人だけど、バッティングは9番が基本。あたしの去年の二軍の立ち位置みたいな感じ。正直非力な部類の打者。ボーイッシュな見た目で童顔だけど、意外と背はプロとして普通くらい。日本のショートとして考えればむしろ大きいくらいかも?
(とは言え、目が良くてしつこいバッターだ。氷室くん、無駄球は極力避けて今日冴えてる外の球中心で抑えよう)
(はい!)
(……そうくると思ったよ)
!!!
「!?レフト!」
「ッ……!」
「よっしゃ!落ちた!」
やば……!黄金丸さんの脚だと……
「セーフ!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
(へっへーん、ボクの狙い通り!)
黄金丸さんの好打に、向こうのベンチも観客も湧き、黄金丸さんもイタズラ小僧みたいに笑う。
「ツーベース!黄金丸、初球を捉えました!!」
「外、ほんの少し浮いた球だったんですが逃しませんでしたね。バッテリー的にも追い込んでからが勝負と思ってたんでしょうね」
確かあたしと同じで高卒のドラフト下位指名。そこから這い上がって何年も強豪チームの二遊間のレギュラーをやってるんだから、これくらいのことはやってくるよね……
(これ以上はやらせねぇ……!)
「アウト!」
「セカンドフライでツーアウト!ランナーはそのまま二塁!」
でも、多分勝負はここから……
「2番センター、騒速。背番号7」
「明煌くーん!」
「繋いでけ繋いでけー!」
(ここから4番までが役者揃いなんだよね……)
(次は向こうの事実上の最強打者、草薙さん。何とかこの人をランナーじゃなく打者として仕留めたいところだが……)
「ボール!フォアボール!!」
(くっ……!!!)
「騒速、7球粘ってフォアボール!」
「これは大きいですね。騒速も3割打った実績のある打者ですが、2点差ですからね。目先の1点も欲しいところですが、この出塁は向こうにとっても痛いでしょうね」
「3番指名打者、草薙。背番号8」
「草薙ー!逆転弾でも良いんだぞー!!」
「決めたれ天才打者!」
一昨年に規定には届かなかったけど軽く4割以上打った天才打者、草薙さん。次の黒毛屋さんも実績のある長距離砲だけど、打者としては多分この人の方が厄介。
(やらせるか!)
「ボール!」
(くっ……ストライクから入れなかったか……!)
打率が高いだけじゃなく、この目の良さも厄介。次の黒毛屋さんは打点王の実績持ちの勝負強い打者。この人は長打はあんまりないから、多分氷室さん達としてはボール球から入る気はなかったはず。
「!!ライト!」
やられた……!
「セカンドランナー黄金丸、一気にホームへ……そしてファーストランナー騒速は三塁へ!」
「セーフ!」
「セーフ!草薙、タイムリーヒット!エペタムズ、ここで1点返しました!」
「ナイバッチ草薙!」
なおも一塁三塁、これはちょっとまずいかも。




