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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
336/1152

第五十五話 当たり前の応酬(1/8)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


--------------------------------------

2019ペナントレース バニーズvsエペタムズ


天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズ

監督:柳道風(やなぎみちかぜ)


[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

3指 リリィ・オクスプリング[右両]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

6右 十握三四郎(とつかさんしろう)[右左]

7三 デーブ・キャロット[右左]

8捕 伊達郁雄(だていくお)[右右]

9遊 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 氷室篤斗(ひむろあつと)[右右]



函館菊盃(はこだてきくはい)エペタムズ

監督:鈴鹿智子(すずかさとこ)


[先発]

1三 ■■■■[右左]

2中 騒速明煌(そはやあきら)[右左]

3指 草薙敢(くさなぎいさみ)[右左]

4一 黒毛屋要(くろけやかなめ)[右右]

5左 ■■■■[右左]

6右 ■■■■[右右]

7二 ■■■■[右左]

8捕 ■■■■[右右]

9遊 黄金丸魅零(こがねまるみれい)[右左]


投 戸松有真(とまつゆうま)[右右]

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 開幕戦、試合開始まであと少し。先攻側で9番打者だから、あたし自身の試合開始はまだまだ先。

 一軍で試合をするのは初めてじゃないし、相手もその時と同じ球団。顔ぶれもそんなに違わない。でもやっぱり、バックスクリーンにあたしの名前が並んでるのは感慨深い。あの時と違って、今回はチーム事情も絡んだとは言えちゃんと自分の力で勝ち取った席なんだから。


『がんばれねーちゃん!』

『みんなでテレビの前で応援してるよ』

『次のビリオンズ戦まで一軍にいられたら良いわね』

『お前なら絶対やれる』

『二軍の試合回しはあのサイコ女にやらせるから、安心して一軍に居座ってやりなさい』

『交流戦にオールスター、帝シリも楽しみにしてるぜ』

『向こうではちょっとやることありますけど、試合中も見守ってますからね』


 試合前の祝福のメッセージ。ベンチにはスマホを持ち込めないから、目を瞑って文面を思い出す。

 うん、あたしは恵まれてる。今のところ可愛く生まれて得したことより損したことの方が多い気がするし、あたし自身もそんなに真面目に生きてきたわけじゃないけど、なんだかんだで良い出会いもしてる方だと思う。ついこの前もチンピラどもにモテてしょうがなかったけど、おかげで好みの男を四六時中連れ回せるなんて役得を味わえた。


「……ん?」


 フェンスをなぞるようにグラウンドの中をぐるぐる周って歩いて、観客に手を振ってたヴォーパルくん。こっち側のベンチに近づくと、あたしを見て手を振ってきた。


「ありがと」


 どこでカメラに抜かれるかわからないから、とりあえず作り笑顔で手を振り返す。

 ……そう言えば、卯花(うのはな)さんって今どうしてるんだろ?こっちに来てからは代わりに他の選手と行動したりであんまり一緒にいる必要がないのは確か。でも試合中も見守れるって……ほんとに窓際族とかじゃないんだよね?


「センターフィールダー……ナンバー7、アキラーソハヤ!!!」

明煌(あきら)くーん!」

「今年も盗塁王取れやー!」


 エペタムズの選手達が次々に守備位置へ向かっていく。去年は白雪(しらゆき)くんがいたけど、今年はオープン戦で怪我をしたみたいで二軍スタート。他のあたしと同世代の野手で開幕一軍はペンギンズの猪戸(ししど)くんだけ。しかもどうも、あたしと同じで開幕スタメンっぽい。さすが世代一の注目株。

 でもあたしも、今はその猪戸くんと肩を並べてる立場。別リーグであんまり接点はないけど、同じ内野で向こうはバリバリのスラッガー。九十九(つくも)くんもだけど、負けるわけにはいかない。


 ・

 ・

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 ・

 ・

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******視点:伊達郁雄(だていくお)******


「プレイ!」

「1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

(しずか)たそー!にゃんにゃんにゃん!」

戸松(とまつ)ー!チビおばさんなんぞねじ伏せたれー!」


 向こうの開幕投手は戸松有真(とまつゆうま)。去年のエース格で、おまけにバニーズ戦を得意としてる。今日の試合には最適な人選と言える。


「ファール!」

「赤猫、初球から振っていきました!」


 エペタムズは近年では強豪の位置付けだけど、強い球団にありがちな、いわゆる金満なタイプじゃない。基本的にポテンシャルの高い逸材を育てて勝つタイプ。そして良くも悪くも方針がメジャー的というか独創的というか、そういう方針自体をセールポイントにしてる感じ。

 いち早く最新機器を揃えたり、データ解析に力を入れてたり、選手のメジャー挑戦に寛容とか、手放しに評価できる点も確かにある。"最強投手"流王(りゅうおう)フィオナも、"天才"幾重光忠(いくえみつただ)も、エペタムズだからこそ大成できたという面は確実にある。

 ただ、選手のコストパフォーマンスにもかなり敏感みたいで、実績のある選手でも年齢的な衰えや現状の成績に見合わない年俸の高騰が見えてきたら容赦無く切る傾向がある。その証拠に、例年より低迷したとは言え去年もチーム最多本塁打のグコランを、今年は同リーグのアルバトロスにあっさりと明け渡してる。そしてここ数年グコランの定位置だったサードは期待の若手によって埋められてる。

 そういう方針だから、エペタムズは主力選手の年齢層が常に他球団より若めで、強い時期と弱い時期で波が大きい傾向にある。騒速(そはや)草薙(くさなぎ)黒毛屋(くろけや)黄金丸(こがねまる)の主力野手カルテットは全員高卒でまだまだ20代だし、戸松くんもそういう意味でエペタムズらしい選手。高卒ドラ6でキャリアを始めて、二軍の下積みと故障を乗り越えて、去年初めての二桁勝利。前々から指標自体は優秀だったけど、文句なしのローテの軸に成長した。


「アウト!」

「ファーストそのまま一塁踏んでワンナウト!」

「良いぞ良いぞ!」

「その調子で抑えてけ戸松!」


 最近の右投手の例に漏れず150を超えることもあるまっすぐに多彩な変化球を操り、それでいて近年の先発投手としては珍しく完投能力も十分に備えた、かつての流王フィオナを思わせる本格派右腕。開幕戦が投手戦になりやすいのは半ば必然だけど、どう攻略していくか……

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