第五十四話 幸先(2/4)
「あ、月出里さん!おはようございます!」
「おはよ」
あたしの少し後に食堂に入った風刃くんだけど、球場入りは風刃くんがほんの少し先だったみたい。せっかくだから一緒に身体をほぐす。ちゃんとした方の意味で。
「今日投げるんだよね?」
「はい。おかげさまで先発でチャンスもらえるみたいで」
「そういえば佳子ちゃんとの約束ってどうなったの?」
「あ……うん、まぁ一応約束は守りましたよ……」
「?佳子ちゃんに何命令されたの?」
「いや、何と言うか……月出里さん、女の子ってみんな男同士が絡んでたら喜ぶもんなんですか?」
「え……?いや、別に……」
男女関係なく、好みの男があたし以外になびいてたら腹が立つけど。
「ですよねー……うん、まぁそういう感じのことです」
顔を引きつらせながらそう答える風刃くん。よくわからないけど、まぁ約束守ったんなら良いか。
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「チョリッス」
「あ、お疲れ様です」
全体アップとホーム側の打撃練習が終わった後。一旦寮に戻ろうって時に早乙女さんから。
「今日投げるんですか?」
「ん、まぁ1イニングだけ調整でね」
「あら、ごきげんよう月出里さん」
「お疲れ様です、花城さん」
「ちょ、チョリッス……」
「…………」
そして通りかかった花城さん。あたしには自分から挨拶してきたのに、早乙女さんからのは表情を変えずにスルー。
「本日の試合、頑張りましょうね」
「あ、はい……」
そう言って花城さんは先に寮の方へ。
「……早乙女さん、花城さんと何かあったんですか?」
「いや……身に覚えがないんだケド、前のキャンプの時からずっとあんな感じでね」
「そうなんですか……」
花城さん、早乙女さんと相模さんに慕われてて良い関係だったはずなのに……
「ま、あーしのことは別に良いよ。それよりさ、昨日のことなんだけど……」
周りを見渡して誰もいないのを確認すると、あたしに近づいて、こっそりと尋ねてくる。
「……何の話ですか?」
でも、昨日のことはまだあたしの口からは話せない。
「ああ、黙ってるように言われたのか。なら無理には聞かないケド……やっぱ鞠、それだけのことをやらかしたんだな……」
「……!何でそのことを……?」
「実はあーしと畔さ、お前とオーナーちゃんが鞠と一緒に事務所入ってったの見たんだよ」
「どこまで知ってるんですか……?」
「怖ぇよ、そんなに睨むなって……まぁ聞き耳立ててたケド、あんまり中の話は聞こえてなかったよ。ただ、見たこともないチンピラっぽいのがゾロゾロ出てきたりしてたし、何より今日全然鞠の姿を見ないから、まぁただごとじゃないってのは察した」
つまり早乙女さんはあのバンビちゃん達との繋がりはない、と……
「……まぁ、色々あったのは確かです」
「それだけ教えてくれりゃ十分だよ。ありがとね」
「誰にも言ってませんよね?」
「あーしはね。まぁ畔もその辺空気読める奴だから安心しなよ」
……早乙女さんと相模さん、あの"見下げ果てた先輩"よりは多少マシってのは認めるけど……
「……ま、信じれないのもわかるよ。ちょっと前まで鞠とずっとつるんでたんだし。ケド、一応言っとくよ。あーしと畔はお前らを後ろから撃つようなことはしないってね」
「…………」
「それもまた信じられないことだとは思うケド……多分これから先、一軍で一緒にやってくことになるだろうからね。どうせ言うだけならタダなんだし、それで変に疑ったりしないでちょっとでも試合に集中できるようになったら儲けものってね。そんだけ」
「そう、ですか……」
「引き止めて悪かったね。今日の試合、お互い頑張ろうな」
「はい……」
まぁ気持ちだけ受け取っておくよ。不信感がほんの少しなくなっただけで、まだ疑わせてもらうけど。
「あ、月出里さん!お疲れ様です!」
「卯花さん、迎えにきてくれたんですね」
「はい。一度寮に戻るんですよね?」
「はい」
「それじゃあ帰りも付き添いします」
「ありがとうございます。せっかくだから手でも繋ぎます?」
「うぇっ!!?」
「冗談ですよ」
この人ですら、まだ遊んでるだけだしね。
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