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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第七話 吐いた唾を飲むつもりはありませんから(6/8)

******視点:旋頭真希(せどうまき)******


「上手くいきましたね」

「『思った以上に』、の」


 すっかり他の面々は退出してしまい、広いミーティングルームには私と(やなぎ)監督だけが残ってる。


「ええ。元々は雨田(あまた)夏樹(なつき)が掛かってくれるのを期待してたのですが、まさか月出里(すだち)が主犯格となるのは予想外でした」

「フォッフォッフォ、あの小娘は何から何まで予想のつかんとこがあるのう。じゃからこそ面白い。ワシも引っ掻き回しがいがある。単純に見た目が好みのおなごじゃったが、ますます好きになったわ」


 選手の身分でありながら監督に敵意剥き出しで睨み返した月出里(すだち)を、むしろ讃えてみせる。私や樹神(こだま)が惹かれたのは、柳監督のこういうとこ。


「今のウチにとっては確かに純然たる実力が必要じゃ。じゃがその実力を生み出す才能も、その気にならなければ開花などせん。結果を求められるプロ野球で勝ち組負け組が生じるのはしょうがないことじゃが、綺麗事や事実を並べるだけで問題解決に何ら寄与しない頭でっかちや、周囲の変化を待つだけのイエスマン、環境や目の前の困難を理由に自ら敗者に甘んじてるだけの負け犬など、いくら才能があっても要らんわ」

「必要なのは、かつての私のようなじゃじゃ馬ですか?」

「まさにその通りじゃな。江戸時代の朱子学漬けの官僚武士より、戦国時代の生き汚い野武士の方が手懐けがいもあるというもの。現代プロ野球では70点、80点くらいの選手を多く集めて手足の如く扱うのが一番効率が良いのはわかっておるが、それでもお前や樹神のような100点満点の奴に好き勝手やらせて勝つ方が、ワシとしても楽しめる」


 "野武士"……監督もまた、かつてはそう呼ばれた者達の1人。『選手時代の功績』と『指導者としての手腕』は必ずしも一致しないけど、選手時代に培った経験が指導者としての原型を作り出すのは間違いないと思う。


「とはいえ、ソフトの部分が充実していても、ハードの部分に不足が過ぎれば無意味ではありますけどね」

「じゃからこそのあの人数への厳選じゃ。十分な才能があり、そしてそれを自ら育まんとする強い意思をも兼ね備える者達。伊達(だて)に関しては例外で、保護者みたいなもんじゃがな。財前(ざいぜん)達も、これを機に己を省みてもらいたいもんじゃが……」

「才能はあっても、練習態度に問題有り。自発的な問題解決能力の欠如。三条(さんじょう)オーナー就任からの改革であっても生き残れる程度には良いものを持ってるんですけどね。特に早乙女(さおとめ)は、同じ投手として燻ったままというのが歯痒く思うものです」


 いよいよ退席を始めつつ、ふと思い出す。


「……そういえば、三条オーナーにはどう話を通しますか?」

「おう、それも込みの今回の企みじゃ。まぁ見ておれ」


 そう言って、柳監督はスマホを弄り始めた。なるほど、そういうこと。相変わらずこの人は性格が悪い。そういうところにも惹かれたんだけどね。




 ******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 練習の後のプールは本当に気持ち良い。大きめの浮き輪に身を委ねて揺られてると、思考が整理される。練習の後のクールダウンとマインドフルネスにはもってこい。余計なタスクに囚われず、必要なタスクだけに絞れるから、脳は稼働しながらも回復していく。

 練習も読書も、脳のパフォーマンスが万全でこそ最大限に効果を発揮する。


「オーナー殿、柳監督よりお電話でおじゃる」

「ん?わかったわ。そのままスピーカーモードにして頂戴」


 私のスマホを持ってきたのは、公家のような仰々しい姿の中年男性、私の直属の秘書の吉備公彦(きびきみひこ)。2年前まではむしろ私の上に立つ存在だったけど、私のせいでこうなってしまった。


「はい、お電話代りました。柳監督、いかがなさいました?」

「おお、オーナー殿。お忙しいところ申し訳ない。今回のキャンプのスケジュールについてご相談があるのですが、今少しお時間を頂けますかな?」

「ええ、構いませんわよ。詳しくお聞かせ頂けますか?」


 そのままプールに浮かびながら、詳細を聞き出す。


「……はぁ!?何よそれ!!?そんな事マジでやる気なの!!?」


 ルーキーの造反に伴って、若手選抜とそれ以外の全選手で大喧嘩……!?何を考えてるのよ……!!?

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