第五十一話 ハリボテのヒーロー(4/5)
******視点:月出里逢******
春季キャンプ11日目。紅白戦の2戦目の日。一応それに向けて身体を温めてる最中なんだけど、実際はいつもの練習を軽く流す程度。
昨日の1戦目、スタメン野手は全員フルで出たし、登板予定の投手もほぼほぼ予定通り投げたから、昨日の出場組は出るとしても一部を除いて全員緊急時の備え程度。今日は昨日出れなかった人とか他の先発候補、ルーキーの人達とかがメイン。だからあたしにとっては少し早い休養日みたいなもの。
「逢ちゃん、そろそろ投げてく?」
「そうだね」
昨日の試合は割と満遍なく色んな人が活躍した。戦力で勝る紅組にとってはちょっと悔いの残る形だったけど、はたから観れば普通に良い試合だったと思う。あたしも結構楽しめた。悔しい打席もあったけど相手が上手かったと納得できたし、結果には満足してる。
今日の試合もあるから大きな入れ替わりはなかったけど、佳子ちゃんは一軍キャンプに昇格。猛打賞とファインプレー連発、昨日の白組のMVPと言ってもいいくらいの活躍ぶりだったからね。だから今日は久しぶりにこうやってキャッチボールの相手になってくれてる。
「そう言えば佳子ちゃん、風刃くんとの約束ってどうなったの?」
「ああ、うん。一応何するかは決めてるんだけど、宮崎にいる間は多分できないから、大阪に戻るまで保留にしてもらってるよ。フヒッ、フヒヒヒ……!」
また佳子ちゃんがキモイ笑い方してるけど、何を企んでるんだか……
「風刃くんは二軍のままだったよね?」
「そうだけど、特に気にしてなかったよ。むしろ『こっちでやることが色々見えてきた』って喜んでたくらい」
ドラフトの順位から言っても、ネットでのポジられ具合は十握さん以上だった風刃くん。あたしから見ても、単純な球威と制球といい、あたしの打球を簡単に捌いたのといい、それだけでも只者じゃないと感じた。
でもそれ以上に厄介だったのは、あたしの想定を常に外されてる感じがしたこと。打つ瞬間に視えるイメージがコロコロ変わるから修正が間に合わないし、外スラ狙いがドンピシャだったのに大きく外れたのも多分わざと。何というか、嗅覚みたいなのが半端じゃない。だから当てられはするけど、結局最後まで完全には捉えられなかった。
……もしかしたらあたしみたいに、"あたしの中のあたし"みたいなのがあるのかもしれないね。
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「ふぅ……」
全体ノックが終わって、ベンチで水分補給。あたしはやっぱりサードメイン。ショートの便利屋扱いじゃなく、レギュラー候補として見てもらえてるっぽいのはありがたい。
「……月出里、ちょっと良いか?」
「!?え……?何ですか?」
話しかけてきたのは意外な人、相模。
「さっきのノックで、俺の見てたか?」
「まぁ……一緒にサード入ってましたし……」
「昨日の試合とかも含めて、気になったこと何かあったか?本当に何でも良いから教えてくれ」
要件も意外や意外。
……ま、去年ならノータイムでお断りするとこだけど……
「そうですね、ちょっと正面向いて捕りすぎかなーって……」
「正面向いて……」
「サードって確かに打球が速いことが多いからとにかく捕るの優先にはなりやすいですけど、内野の中で一番ファーストから遠いとこでもありますからね。送球に入りやすい捕り方もできた方が良いかなーって」
「逆シングルってやつか?」
「はい。あくまであたしの場合ですけど、左足で捕りにいくようなイメージです」
「こんな感じか?」
「そうですね。あと、肘を伸ばして球際で捕れるように……早めに送球できるようになれば単純に一塁に間に合いやすくなるのもありますけど、状況を見る余裕もできます。捕ってからどうするかはあらかじめ色々考えておく方が大事ですけどね」
「……そうだな。その辺、昨日は正直ただ守るのにいっぱいいっぱいで考えきれてなかった」
「まぁ練習のついでで見てたから細かいとこは見れてないですけど、とりあえず気になったのはこんなとこです」
「なるほど……ありがとな」
「いえ……」
「この埋め合わせは後で必ずさせてもらう。んじゃな」
あんなに真剣に頼まれたのなら仕方ないね。チャラついてはいるけど見た目はなかなかの男前だし、その辺も込みってことにしとこ。
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