第五十一話 ハリボテのヒーロー(2/5)
「千代里……」
タイムかけてマウンドに来たのは畔。
「さっきは悪かったな。クロスプレーうまくやってりゃ、もうとっくにお役御免だってのに」
「畔の気にすることじゃねーっつの。打たれたあーしの責任だよ」
「……やっぱ変わんねーな」
「え……?」
「俺さ、正直お前と初めて会った時、劣等感丸出しだったんだぜ?かたやドラフト最下位のミーハー枠、かたやドラ1のエース候補なんだからな。なのにお前、今までそんなこと全然鼻にかけねぇんだもんなぁ。ミスしても全然何も言わねぇし。逆に拍子抜けだったわ」
「そんなん当たり前じゃん。友達なんだから」
「そう言えるお前だから素直に、こういう場面も乗り切ってくれるって信じられるんだぜ?」
「……!」
「去年のリベンジ、やってくれると信じてるぜ、"ヒーロー"」
"ヒーロー"……
「プレイ!」
"ヒーロー"……ねぇ。散々期待されてたのに、今や一軍で生き残るのすらヒィコラしてるようなあーしをそう言ってくれる奴がまだいるなんてねぇ。散々"裏切り者"扱いしてた奴にブザマに負けて、今は"一軍レギュラー様"扱いして情けなく遜ったピッチングしてるあーしにねぇ……
「……!!?」
「ストラーイク!!!」
「154!!?」
「HAEEEEE!!!!!」
やるしかねーじゃん……!
(ぶっちぎりで今日一番速いストレート……本気みたいだね)
あえなく空振り。だけど、これくらいじゃ勝たせてくれねーんだろ?
「ファール!」
「まっすぐ当てた!?」
「さすかお」
ほれ見たことか。
(となると、そろそろ……)
そうだよ。お望みのやつを見せてやるよ。
「ッ……!」
「ファール!!!」
「これも当てた!?」
……ほんと、大した奴だよお前。せっかく温めてきた"フェイク"なのに、ギリギリまで見極めて片手一本でカットかよ。
(確かに見極めづらいけど、曲がってからの軌道自体は元のスライダーとあんまり変わらない。だから、頭の中のイメージとそう食い違いはない。こういうピッチングならまっすぐは必然的にスライダーとかあの球よりも内寄りに来るはずだから、身体で何とか反応できる。変わらず基本はスライダーかあの球に絞る……!)
悪いね畔。ご覧の通り、あーしはまだまだ"ハリボテのヒーロー"。でもな……
「うおおおおおおッ!!!!!」
(来い……!)
"ヒーロー"になろうとするのだけは諦めねー!!!
(!いける……!)
!!!捉えられた……
「!!?レフ……」
「うらあああああッッッ!!!」
え……?
「……アウトオオオオオオオ!!!!!」
「おおおおおおお!!!!!」
「ナイスキャッチ相模!!!」
畔が跳んで捕ってくれた……やった!やってやった!!徳田に勝てた!!!
「スリーアウトチェンジ!!!」
「ギャル子!ナイスリリーフ!!」
「1点差のまま9回裏や!」
「逆転あるで白組!!!」
「ナイピー!」
「サンキュー!」
ベンチに戻る最中に、畔とタッチを交わす。
「ま、カッコいい勝ち方じゃないケド」
「ヘボサードの手の届くところに打たせりゃ上等だろ?」
「……最終回、また打席が回ってくると良いね」
「そしたらお前を勝ち投手にしてやるよ」
「言うねぇ……」
期待してるよ、畔。
******視点:相模畔******
「おい」
「あ、はい!」
ベンチに戻って一旦裏に引っ込んだ千代里を見送った後、秋崎に話しかける。
「……悪かったな。せっかくのファインプレー潰しちまった」
「いえ、そんな……走ってたの逢ちゃんでしたし、難しかったと思いますよ……」
また柄にもないことを言って、お互いに次の言葉が見つからない。
「……もう9回裏ですね」
「おう」
「せっかく1点差できたんですから逆転したいですね」
「そうだな」
思い出したかのようにネクストへ向かう準備をする秋崎。
「秋崎」
「はい」
「猛打賞もやれると良いな」
「あ、ありがとうございます!」
「あと一打席、俺に回せよ?」
「はい!頑張ります!」
ほんと、柄にもねぇ……
「「…………」」
そんな俺達の様子を見てた財前さんと鞠が冷めた顔で黙ってこっちを見てても、もう特に気にならねぇ。
単に寂しがりなだけなのかねぇ、俺って。
「紅組、選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー、夏樹に代わりまして、花城。ピッチャー、花城。背番号13」
しかし問題は、最終回は予定通り花城さんが登板ということ。攻略が難しいって意味でもそうなんだが、今の俺や千代里がこうやって一軍候補としてふんぞり返れてるのも花城さんのおかげだからな……
「9回の裏、白組の攻撃。6番指名打者、イースター。背番号42」
(先頭が左……おあつらえ向きですわね)
「ボール!」
去年は故障だったりあんまり調子が良くなかったりで、結果として千代里の登板機会を増やすことになったんだが、左から繰り出す左右の揺さぶりは健在。
「ストライク!バッターアウト!!」
上手く俺に回ってきたとして、果たして攻略できるか……
「7番センター、秋崎。背番号45」
(今日2安打ですが、基本プルヒッターであることに変わりありませんからねぇ。外のシュート中心でいきましょう)
(よろしくてよ有川さん)
さっきの百々(どど)さんとの勝負を見てる限り、ああいう躱すタイプは苦手だと思うが……
(!!きた……!)
おっ……
「!?ライト!」
「セーフ!」
「よっしゃ!同点のランナー出た!!」
「うーん、おっぱいプルプルヒッターならず……」
「それでも猛打賞や!」
初球のシュートを一振り。完全に狙ってたな。おあつらえ向きに高めに浮いたから、内野の頭の上を越すのも難しくない。
(わたしだって、同じ手に何度も引っかかったりしない!)
……同じ高卒のドラフト下位の外野だからこそ、秋崎を見てると無駄にダラダラしてきた最初の数年を悔やんでしまう。俺ももう少し早く真面目にやってりゃなって……
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「バックサード急げ!」
「セーフ!」
「ええでええで土生!」
「おっぱいもナイスラン!」
「うーん、ちょっとお姉様調子悪いんちゃう?」
「何かボール先行やな……」
「イースター以外は普通に合ってるっぽいよなぁ」
セカンドの新外国人が運悪く真ッ正面のライナーだったが、土生さんがどうにか繋いでくれた。
「1番サード、相模。背番号69」
「こっちも一三塁や!」
「いつも通りアヘ単決めたれやチャラ男!」
「踏ん張れや紅組ー!」
「逆転されたら赤っ恥やぞー!」
こうなっちまった以上、恩返しさせてもらうぜ、花城さん。




