第五十一話 ハリボテのヒーロー(1/5)
2019春 第一回紅白戦
紅3-2白
9回表2アウト三塁
三塁:月出里
●紅組
1中 赤猫閑[右左]
2二 徳田火織[右左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4左 金剛丁一[左左]
5一 天野千尋[右右]
6右 松村桐生[左左]
7遊 相沢涼[右右]
8捕 有川理世[右左]
9三 月出里逢[右右]
投 夏樹神楽[左左]
○白組
1三 相模畔[右左]
2遊 桜井鞠[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 十握三四郎[右左]
5一 財前明[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7中 秋崎佳子[右右]
8二 デーブ・キャロット[右左]
9捕 土生和真[右右]
投 早乙女千代里[左左]
******視点:早乙女千代里******
やられちまったなぁ……
(すまん……!)
サードにいる畔が本当に申し訳なさげに、あーしに向かって手を合わせてる。まぁしょうがないよ。そもそも打たれたのはあーし。結果としてツーベースがスリーベースに化けた程度。
正直、"フェイク"を完成させた時はホントにテンション爆上げで、高校でブイブイいわせてた頃みたいに自信に溢れてたんだケドねぇ。今年こそは先発だってやれるって。それを去年の今頃、散々バカにしてた奴にあっさり打たれちゃうなんてね。
……あーしの見る目がなかった、そのことくらいは認めてやるよ月出里。
「1番センター、赤猫。背番号53」
「ギャル子ー!踏ん張ってけー!!」
「閑たそー!ダメ押しダメ押し!!」
ケド、投手の仕事はあくまで『できるだけ無傷のまま3つのアウトを積み重ね続けること』。月出里に負けたのはもちろんムカつくケド、もうアウトを2つ積み重ねてホームベースもまだ踏まれたわけじゃない。
上位に回ったとは言え、多分相性は良いはずの赤猫さん。ここらでしっかり締める……!
「ストライーク!」
「うーん、やっぱ今日の閑たそ、真っ直ぐに圧され気味やなぁ」
そこんとこは正直助かる。元々ローボールヒッターだケド、今日はいつにも増して高めまっすぐについていけてない。
「ボール!」
外したけどもう1球……!
「ファール!」
次は当てたか……ならそろそろ"フェイク"!!!
(!?曲がって……)
「……ボール!」
「おおっ!見極めた!!」
「さすが閑たその選球眼!!」
(いや、今のは……)
『見極めた』んじゃなく、『手が出なかった』んだろうね。こういう時に細かいコントロールがないと困る。
でもやっぱ、左には特に効果覿面だね。
(やっぱり厄介ね、この真っスラっぽいの。一部の思考停止の指揮官が実際の相性を見ずに左右だけで選手起用するから、プラトーンシステムは"左右病"とかって馬鹿にされるけど、実際に左右の違いっていうのはボールの見極め時間だったりリリースポイントの見えやすさだったりっていう明確な違いがあるのも事実。さっき月出里ちゃんがすんなり見極められてたのは多分そういうアドバンテージも絡んでたんだろうけど……)
"フェイク"は単体だと単なる真っスラ程度の代物。でもまっすぐと組み合わせることでギリギリでの見極めを強いれる。特に左打者はより短い時間でどっちかを判別しなきゃいけないから、まっすぐに対してもどうしても振り遅れ気味になる。
まぁ追い込むまではヤマ張りに気をつけなきゃだケド、そんなのは他のピッチングでも同じ。
「ファール!」
(何とか当てれた……けど、続けられる自信はないわね)
流石にまっすぐにも慣れてきたかな?
(ボールカウントにはまだ余裕がある。無難に真っスラで決めるか?)
土生さんのサインは"フェイク"。そうっスね。手堅く仕留めますか……!
「ッ……!」
「……ああっ!!?」
空振った……ケド!!!
「土生!右!右!」
「セーフ!」
「す、すまん……!!!」
「……いえ、しゃーないっスよ」
振り逃げ……真壁さんと比べりゃ土生さんの方がまだゴールキーパーとしては信頼できるケド、この球捕るのは今日が初めてだしね。月出里が帰れる程度に弾かなかっただけマシと思うしかない。
「2番セカンド、徳田。背番号36」
「一三塁やぞかおりん!」
「ダメ押しダメ押し!」
コイツに回っちまったか……
「ボール!」
「ボール!」
くそっ、2球続けて……今度こそ!
(きた……!)
やば……!
「ファール!」
「惜っしい……!」
「レフト線あとちょっと……!」
(ま……しょうがない。流し打ちは元々あんまり得意じゃないし)
"フェイク"がストライク入るか微妙な上、まっすぐと同じ軌道から曲げてこそ有効な球だから、ボールが2つも先行するとまっすぐか、それと見分けやすいスライダーしか選択肢がない。外の良いとこにスライダーが決まるはずだったのに、完全に読んでやがった……!
「ボール!」
「よっしゃよっしゃ!よう見えとる!!」
「踏ん張れやギャル子ー!」
ヤバイ……まだ塁に余裕はあるケド、そうなると次は満塁でリリィ。スイッチだから間違いなく右に入るし、アイツの対応力の高さを考えたら今以上にキツい。ケド、3-1のここから徳田を打ち取るのは……
「……タイム!」
え……?




