第五十話 ぼんやりとした正解(6/7)
「ボール!」
っと、外れちまった。気を取り直して……
「ストライーク!」
(148……まっすぐの感じは去年とあんまり変わってないかな?)
スイングの気配なし。様子見か、それとも前の打者2人に"フェイク"を多めに投げたから、あえてそれを狙ってるのか……
上等。それならお望み通りッ!
(……まっすぐじゃない。けど……)
「ストライーク!」
「おいおい振れよちょうちょー!」
「まぁ振っても今のは低めいっぱいやしなぁ」
「あのスライダーっぽい謎変化球ええなぁ」
これも振らなかった……けど、上手い具合に良いコースに行ってくれた。狙って出し入れできてこそ真の一流……って大体の奴が言うんだろうケド、そんなのはどうだって良い。結果を出せば一緒。身の丈に合ったピッチングをするまで。
荒れ球投手で大いに結構……!!!
「ファール!」
当てた……!?なら、次はこっち!
「!!ライト!」
!!?
「ファール!」
「おおっ!まっすぐも当てたぞ!!」
「ほんま空振らんなぁ……」
もう1回"フェイク"!
「ボール!」
……グリップが全然動かなかった。投げてるあーし自身もいよいよになるまで入るかどうかわからない球なのに、見破られてる……!?
******視点:月出里逢******
確かにこのよくわからないスライダーっぽいの、ストレートとよく似せてる。そのために色々練習したんだろうけど、あたしには視える。ストレートとあの謎球を投げる瞬間の、呼吸と拍子の違いが。
ネクストで視てた段階で何となく違和感があったけど、実際に打席に立てばその違いがより鮮明に視える。そういうのが前もって見破れるから、変化し始めるポイントでの最終確認がすぐに終わってスイングに移れる。
……何球かでここまで見破れるようになったのも、あの"メスゴリラ師匠"……昴さんのおかげなんだろうね。
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オフシーズン、あたしの可愛い姿が全国のお茶の間で露わになった後、約束通り昴さんと何度か一緒に練習をした。
「うーん……」
あたしの実戦形式の打撃練習を眺めながら、昴さんは唸ってた。
「どうしたんですか?」
「逢のバッティングってやっぱ不思議だよなぁって。素振りの時は特に不自然なとこもなく振れてるんだけど、いざ実戦になるとどこかしらが何かおかしいんだよなぁ」
「これでもだいぶマシになったんですよ?」
「知ってる。5月くらいに見た時よりだいぶ良くなってる。特にカウントが進んだり、同じピッチャーと何打席か勝負してると違和感がなくなっていくんだよな。前は逆に振れば振るほどおかしくなってたのに。その辺何か工夫するようにしたのか?」
「はい。ちょっと説明するのが難しいですけど、あたしって打ちにいく瞬間に対戦相手の投手をうまく打てたイメージが視えるんです。でも実際のスイングはイメージと全然違ってて。だからちょっとずつイメージに寄せていく感じで、スイングを修正するようにしたんです」
「なるほどなぁ。だから尻上がりに良くなってるのか。逆に最初の方ってスイングする時に何か気をつけてるのか?」
「一応、コーチに教えられた基本的なスイングのやり方を再現するようにしてます」
「うーん……ちぃともったいないなぁ」
「もったいない……?」
「逢のやり方だと、逆に言えばカウントが浅い内だったり、その試合で初めて勝負する相手だったりの時は、ある程度勝負を捨てなきゃならんってことだろ?」
「……まぁ、そうですね」
「そんで来年は一軍のレギュラー目指したいんだろ?」
「はい」
「だったら早い段階から結果を出せるようにしないとな。プロは結果が全てだけど、その結果を出せる機会ってのはタダじゃもらえないし、元々結果を出したことがない奴に与えられる機会なんてたかが知れてる」
「……そう、ですね」
「現実の野球ってのは、ゲームの野球と違って才能とかステータスとか、そんなんは具体的に見えないからな。お前の『尻上がりに良くなる』ってのも尚更。そういうお前の良さがわかる機会ってのを作るためには、他の奴の機会を減らすしかない。そこまでの信頼を得られるかどうかってのも、結局は結果次第だ」
そこは確かにあたしも気にしてた。元々期待株じゃなかったあたしは、これから先レギュラーを狙っていくなら、代打とか守備固めとか、1試合の中の限られた機会で結果を出していく必要があるはず。
「それに、先発完投が当たり前だった昔と違って、今のプロ野球はピッチャーなんてコロコロ代えるのが当たり前だからな。せっかく良くなったバッティングがリセットされるタイミングが1試合の中で何回もあるんじゃ世話ねぇ」
そうなんだよね。終盤はスイングの型だけならそれまでに修正した分である程度軸が固まってるけど、やっぱりピッチャーが代わると視えるイメージも変わってくる。だから綺麗に型通りに振ったって打てるとは限らない。




