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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
308/1155

第五十話 ぼんやりとした正解(1/7)

******視点:風刃鋭利(かざとえいり)******


「はぁ……」


 登板を終え、アイシングしながらベンチでゲームの経過を眺める。すっげぇな雨田(あまた)さん。おれもあんなまっすぐが投げれりゃ楽だったんだけどなぁ。

 ぶっちゃけ今のおれでもそれなりに自信はあった。そうでもなきゃ、秋崎(あきざき)さんとあんな約束もしない。プロで成功することしか考えてなかったから、ドラフトで変な大人の事情が絡んで4位指名になって契約金が少なくなったのだって、実力で取り返していくってモチベーションにできりゃそれでいいって気持ちだった。

 でも結果はその秋崎さんに散々助けられてこれ。はー、秋崎さんの胸の中で泣きたい……


「お疲れ様」

「あ、ちっす旋頭(せどう)コーチ」

「初めてにしては上出来だったわ」

「そっすかねぇ?」


『ストレートの球威アップ』、『スライダー以外に信頼できる変化球を何か』、『フォークの精度向上』、『左打者の粘り回避』。今思いつく限りでも課題は山積み。さて、どう片付けていくか……


「今日の内容なら、おそらくまた近々登板機会があるはず。私もできるだけそうなるように上と掛け合うから、その時は今日の反省点を生かせるようにね」

「……それだけ、っすか?」

「?」

「いや、反省点とかそのための練習メニューとか色々言われるかと思ったんですけど……」

「その辺は貴方の裁量に任せるわ。もちろん相談事があれば乗るけど、基本的に私から細かい指示は出さないつもりよ。私のことはコーチというかマネージャーくらいに思ってもらっても結構」

「意外と放任なんすね」

「別に誰が相手でもそうなわけじゃないわよ。貴方ならそうすべきだと思っただけ。土生(はぶ)相手に堂々と首を横に振れる貴方ならね」

「……随分買ってくれてますねぇ。今日の登板にしても」

「迷惑だったかしら?」

「いえ、むしろありがたいっすよ」


 正直、『メジャーのレジェンドだから』ってでかい顔されるのも覚悟してたけど、寛容でいてくれるなら大いに結構。




******視点:雨田司記(あまたしき)******


「よう、お疲れさん」

「あ、相沢(あいざわ)さん。先程はどうも」

「あれが俺らの仕事だ。良いピッチングだったぜ」


 登板を終えて一息ついてるところを労ってくれる。ありがたいけど、情けなくもある。

 攻守の戦力差を考えれば明らかに有利な側だったんだから、より良い結果を残せるのは当然。最後の6回なんて完全に周りに助けられた結果になってしまった。

 ……結論としては、風刃(かざと)は少なくとも去年の今頃のボクよりは明らかに格上。そこは素直に認めざるを得ないだろうね……

 まぁ他人がどうとかはこの際良い。気にしなきゃいけないのはボク自身。

 ストレートに関しては球威を高水準でキープできて、去年までと違って低めでも安定してストライクを取れた。この点だけは自分でも満足してる。問題はやっぱり投球感覚の違いからくる変化球の制球の不安定さ。いくらストレートが良くなっても、スライダーすらごまかし程度にしかならなかったせいで向こうの不慣れに頼らざるを得なかった。

 古臭いから好きじゃないけど、やっぱり多少投げ込みを増やして身体に馴染ませるしかないだろうな……


「白組、選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー、風刃に代わりまして、氷室(ひむろ)。ピッチャー、氷室。背番号16」


「氷室くぅぅぅん!!!」

「今日はリリーフで出るのね!」

「今年こそエースになってねー!」

「パンダリリーフなんか」

「まぁ調整やろ」


 紅白戦の投手起用は偉い人達的に色んな意図があるみたいだけど、今日の途中登板予定のメンバーを見る限りでは、とりあえず先発ローテほぼ確定の3人の調整と、中間くらいの序列の中継ぎ陣のテスト……ってとこか。そこに夏樹(なつき)の名前も並んでるってことは、夏樹(アイツ)にも開幕一軍のチャンスはあるってことかな?

 ……ま、秋崎と月出里(すだち)のついでに祈っておいてやるさ。




******視点:氷室篤斗(ひむろあつと)******


 ブルペンから試合を眺めるのは久々だったな。雨田はまっすぐが磨かれてたが、あの風刃って奴も大したピッチングをする。


「7回の表、紅組の攻撃。7番ショート、相沢(あいざわ)。背番号3」


 俺も負けてられねぇな……!?


「ライト!」

「よしよし!ナイバッチ相沢!!」

「やっぱファインプレーの直後でノってるなぁ」


 初球、いきなり狙われたか……


(追い込まれりゃあのスプリットがあるのはわかってるからな。こっちリードなんだし、慎重になりすぎることもねぇ)

「8番キャッチャー、有川(ありかわ)。背番号0」


 さて、有川だったらシーズン中ならバントが鉄板だろうが……


「ボール!」


 やっぱ気配がねぇな。(やなぎ)監督も一応何かのサインは出してたが……


(有川が小技に富んでるのはもうわかりきってること。元々俊足で併殺が少ないのじゃから、純粋な打つ方の成長も見てやらんとのう)


 勝負なら勝負で、それは結構……!


「ストライク!バッターアウト!!」


「さすパン」

「やっぱ安心して見てられるわ」

「流石にまっすぐはあんまりスピード出てへんけどな」


 俺は少なくともオープン戦までは長いイニングを投げない方針みたいだからな。ぶっちゃけまだ身体は仕上がりきってない。ほとんどの奴もそうだと思うがな。

 だが……


「9番サード、月出里(すだち)。背番号52」


 お前とはまた勝負したいと思ってたぜ。

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