第四十九話 伝説になんてさせやしない(9/9)
「6回の裏、白組の攻撃。1番サード、相模。背番号69」
「そろそろ出塁くらいしろやー!」
「畔くーん!頑張ってー!」
さてと、司記ちゃんにとっても正念場ですねぇ。責任回の最後、打線の格が落ちるとはいえ三巡目で1番から。
「ストライーク!」
このストレートがどこまで通用するか……
(なめんじゃねぇ……!)
まずい……!
「っしゃあ!先頭出たぞ!!」
「ナイバッチ相模!」
「アヘ単キングいいぞ!」
ライト前シングル。相模さんは内野安打も視野に入れた流し打ちを得意とする打者。その分、インコースを苦手としてたのですが、司記ちゃんの150まっすぐを綺麗に引っ張ってきましたね……
(俺だっていつまでもチマチマとやってんじゃねぇぞ……!)
「2番ショート、桜井。背番号39」
2点ビハインド、送りはまずない。ですが……
「ボール!」
「セーフ!」
司記ちゃん、気を遣って牽制を入れてくれてますね。元々ランナーの動きを気にしすぎないように、ああいうセットポジションの投球を身に付けたはずなのに。
(有川……悪いがポイント稼がせてもらうぜ!)
(チッ、あのチャラ男の面倒なんてもう見たくないんだけど、ポイント稼ぎのためだから仕方ない)
「!!走ったぞ!」
「ストライーク!」
当然想定はしてましたが……
「セーフ!」
「ナイスラン相模!」
「うーん、やっぱ理世ちゃんはこれだけはなぁ」
「しゃーない。他は有能なんやし」
二塁を盗られてしまいましたね……ワタクシメなりにモーションを工夫したり色々やってるんですが、それでもなかなか肩をカバーできないんですよねぇ。
(……!外れる……)
「……ストライーク!」
「!!?」
だからせめて、こういうところで取り返していかないとですねぇ。
(フレーミングかよ。キモブスが生意気な真似しやがって……!)
(外のスライダー、外れたと思ったんだが……2-1と1-2じゃ全然違うから助かるな)
一般的にはツーストライクでの打撃期待値というのは浅いカウントと比べて低くなるのが常。打率の絶対的な信頼が揺らいで出塁率がより重視されるようになった現代においても初球打ちや積極打法が悪になり得ない最大の理由ですね。このカウントなら……
「セカンド!」
「アウト!」
「セーフ!」
進塁打にはなりましたが、2点リードしてるのでアウト優先で正解ですね。相模さんは最悪生還覚悟です。
「3番ライト、森本。背番号24」
今日はまだ打ててないですが、森本さんはなるべくランナーを帰す程度で済ませたいですね。
(……まずい!)
なんの!!!
「ボール!」
「あっぶな……」
「今のよう捕ったな」
「線が細いけどその分動けるから壁性能は冬島とどっこいくらいやろうか?」
(助かった……こう言ったら何だけど、真壁さんなら間違いなく逸らしてたな)
今時の投手はスライダーかフォークは投げるものですからねぇ。難しいバウンドの投球を止めるのもまた今時の捕手の嗜みですよ。
「ファール!」
(今日の雨田は変化球の制球が良くない……ならまだ付け入る隙はある!)
「ボール!」
……まずいですねぇ。
「ボール!フォアボール!!」
(くそっ、入らなかったか……!)
「よっしゃあ!ナイセン森本!!」
「相模の上位互換みたいな森本にしちゃ珍しいな」
「白組スタートやからなぁ。尻に火がついたんやろ」
この場面、無失点で済むのならそれが一番良いのですが、下手にランナーを溜められるくらいならいっそ三塁ランナーだけ帰されて一息つける方がまだマシでしたね……
「4番レフト、十握。背番号34」
「遠慮せんでええんやでルーキー!」
「かっ飛ばしたれー!」
さっき長打を打ってる十握さん……それも軸であるストレートを仕留められてるんですから、これは配球が難しいですねぇ……
「ボール!」
「ボール!」
(くっ……せめてスライダーさえ入ってくれれば……!)
ッ……!!!
「ファール!」
「ああっ、惜しい……!」
「もうちょっとで同点打……!!」
やはりストレートに合ってますねぇ。カウント1つ稼げただけでも儲け物ですよ。
(……やむをえないな)
「!!!」
「ストライーク!」
「158!?」
「は、速ぇ!?」
なりふり構わず100%本気、しかないですよねぇ……
(後々の負担を考えてできれば今日は使わないでおきたかったけど、このままズルズル攻撃を続けられるよりはマシだ……!)
「ファール!」
「ッッッ……!!!」
全力ストレート。初球こそ空振ってくれましたが、十握さんにとっては微調整の範囲、ですか……
(変化球でポンポンストライク取られるんならこうもいかないけどね。ストレートだけと割り切れるのならこのくらい……!)
「ボール!」
「ファール!」
当てられてはいますが、まだどうにか力勝ちはしてます。打ち損じの線もあるんですし、このまま続けましょう。
(……まずい!)
「ボール!フォアボール!!」
「満塁満塁!」
「いけるいける!」
「逆転あるで白組!」
最後の最後でふかしてしまいましたね……力でねじ伏せるしかない以上、力みは仕方ないことです。
「5番ファースト、財前。背番号46」
正直、十握さんよりはマシな相手ですが……
「ファール!」
(なめんじゃねぇぞ。流石にそろそろ合わせられるわ)
それでも打力は一軍クラスの財前さん。三巡目にもなれば……
「ボール!」
「よーし見えてる見えてる!」
「そろそろ結果出せや財前!!」
長打力とバットコントロールもさることながら、目も結構良いんですよねぇ。
(十握だの秋崎だのばっかチヤホヤしやがって……しかも可愛い子ちゃん達はあの風刃とかいうポッと出のガキばかり……絶対にこのチャンスで見返してやる!)
スライダーが全く入らないわけではないんですし、できればあとストライク2つ、スライダーで取りたいところですが……
(……しまった!浮いた!!)
(もらった……!!!)
まずい……!!!
「セカン!」
「アウト!!!」
!!!ショートの相沢さんの滑り込み、流石の守備範囲。一瞬で体勢を整えてセカンドへ……
「ファースト!」
(少し低い……)
(このくらいなら……!)
「アウト!!!」
「うおおおおおおお!!!!!」
「カッチカチやぞ!カッチカチやぞ!」
火織さんの送球、少し難しくなりましたけど、流石は千尋さん。今日の内野は本当に頼りになりますねぇ。
(……ッくっそおおおおおッ!!!!!)
「スリーアウトチェンジ!!!」
「何だかんだでメガネ6回無失点か」
「しかも11奪三振や」
「ヒェッ……」
とは言え、ワタクシメにも反省点はアリアリですね。スライダーでカウントまで取ってもらおうとした結果、浮かせてしまった部分はあるはず。せっかく真守ちゃんが来てくれてるんですから、もっと良いとこ見せなきゃですね。でゅふふ。




