第四十九話 伝説になんてさせやしない(8/9)
「1番センター、赤猫。背番号53」
さっきの逢ちゃんが1-2-3のホームゲッツーだから、今のランナーは三塁に相沢さん、二塁にワタクシメ。つまり、マウンドにいる鋭利ちゃんを後ろから見てる形になりますね。
手前味噌となりますが、ワタクシメも脚には自信があります。ツーアウトのこの状況なら、是非ともシングルを打っていただきたいですねぇ。でゅふふ。
(今日はまだノーヒットだが、ここで赤猫さんか……とりあえずこれで入るか?)
土生さんのサインに迷わず首を横に振る。投球テンポ自体は悪くないのですが、噛み合わないことが多いですね。良くも悪くも捕手のリード信仰の強い日本では高卒まもない子がこんなことしてるとアレコレ言う人も少なくないでしょうが、実際ここまで十分な結果が出てますからねぇ……!?
「ストライーク!」
「は、速ぇ!?」
「150出たぞ!!!」
閑さんの初球スイングが空振り……この局面で今日の最速……!?
「ファール!」
149……ではありますが、高めまっすぐに力負け……
(一発のないバッターだからな。全力の高めまっすぐが遠慮なく使える)
スピード自体は逢ちゃんと勝負してた時とそんなに変わりませんけど、キレが増してますね。高めに投げこんだ方が球が走る、ということですかね?
「……!!?」
「ストライク!バッターアウト!!」
「うおおおおお!!!」
「ここで三球三振かよ……」
「風刃くぅぅぅん!!!」
(やられた……!)
技あり……ですねぇ。もう最速付近で頭打ちだと思われてたまっすぐで追い込み、温存してたチェンジアップで3球勝負。この場面でやっちゃいますか……
「スリーアウトチェンジ!!!」
「あー、ノーアウト満塁だったのになぁ……」
「レギュラー組がもらったチャンスで高卒ルーキー相手に……」
「ええ加減貧打何とかせぇよ……」
まぁ嘆きたくなるのは当然ですけど、ここは鋭利ちゃんが上手かったということで……
・
・
・
・
・
・
「ストライク!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」
「ア全三」
「まぁ白組下位打線やしな」
「おっぱいはようやっとる」
5回裏も司記ちゃんは3奪三振の快投……ですが、佳子ちゃんは第二打席もシングルで出塁。この時期なのによく振れてますねぇ。ストレートの対応だけなら現状チームで一番良いかもしれません。
「6回の表、紅組の攻撃。2番セカンド、徳田。背番号36」
さて、お互い先発の最終回ですね。
「ファール!」
「ねばねば」
「かおりんはこれがあるからなぁ」
(くっ……!)
「ファール!」
決め球だったのであろうバックドアスライダーもカット。流石の鋭利ちゃんもそろそろ手詰まりですかねぇ?
「アウト!」
「ああっ、真ッ正面……」
芯で捉えてましたけど、セカンド正面。火織さんにとってはアンラッキーですねぇ。
(やべぇ……流石に三巡目にもなると簡単に合わせてくるなぁ……)
「3番指名打者、リリィ。背番号54」
鋭利くんはここまで駆け引きと制球で巧く躱してきましたが、やはり球威自体は圧倒的と言うほどではない。それゆえに火織さんや桐生ちゃん、逢ちゃんといった選球眼があって対応力の高い打者に苦戦してましたが……
「あ、これは行ったな(確信)」
「入ったあああああ!!!!!」
「チーム第一号じゃあああああ!!!」
速度・角度ともに文句なし。打った瞬間に確信したリリィさんはゆっくりと走り始め、打球は予想通りライトスタンドへ。やっぱりこの人も合わせてきましたねぇ。
・
・
・
・
・
・
「サード!」
「……アウトオオオオオ!!!」
「おっぱいミサイル決まったあああああ!!!」
「すっげ……」
「良い肩してんなほんま……」
金剛さんがライト前で出て、千尋さんが三振。桐生ちゃんがセンター前を打ったものの、サードを狙った金剛さんを佳子ちゃんがレーザービームで補殺。
「スリーアウトチェンジ!!!」
「うーん、結局おっぱいちゃんに助けられまくったなぁ」
「それでも高卒にしちゃようやっとったやろ」
「少なくとも去年のメガネよりは遥かにマシやな」
確かに春先の打線と、佳子ちゃんの二度のファインプレーで最小失点に抑えられた部分がありますが、結果は6回2失点で6奪三振四球0、ワタクシメの芝居で死球1。先発として十分すぎる仕事ぶり。
「はぁ……」
それでも鋭利ちゃんは不満げ。ほんとに伸び代のありそうな子ですね。いきなり白組先発に抜擢されたのも納得ですよ。




