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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
305/1161

第四十九話 伝説になんてさせやしない(7/9)

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 あっちゃあ……


「よしよし、この回も先頭出たで!」

「ナイバッチや松村(まつむら)!」


 やっぱこの人苦手だなぁ。ただでさえ初球から振ってくるし、しかもちゃんとヒットにしてくるし。今のおれだと、向こうのヤマ全部外すくらいのことはできないとなぁ……


「7番ショート、相沢(あいざわ)。背番号3」


「ノーアウト一塁で1点リード、送りあるやろうか?」

「いや、次は有川(ありかわ)やで?」


 ショートだけど、打力はショートの標準以上。しかも俊足。とはいえ右だし、うまいことゲッツーにしたい。


「ボール!」


 やっぱこんな低め、初球じゃ振らないよな。


(ゲッツーNG、最悪でも進塁打の場面だからな。幸い、当てるのだけならそんなに難しくない。じっくりいかせてもらうぜ)


 ……あ、やべ。


(もらった……!)


 甘く入ったスライダー、サード方向……


「うおおおおおっ!」

「おおっ!やるやんけチャラ()!!」


 ライン際抜けたと思ったけど、こぼしながらもサードの相模(さがみ)さんが止めてくれた。とりあえず最悪は……


「セカン!」


 うぇっ!?


「セーフ!」

「セーフ!」


 オールセーフのフィルダースチョイス……


「おいィ!?何欲張ってんねん!!?」

「それはファースト送球やろ……」

(くそっ、間に合わねぇのかよ……!)


 相模さんって確か元々外野だっけ?それならしょうがないよな。ツーベース喰らって二三塁よりはマシ、ってことで。

 外野だって瞬間的な判断力を要するけど、内野と比べりゃ命取りになりづらい。捕るまででもそうだし、捕ってからも。外野はグラウンド全体を見回しやすい立ち位置だし、カットマンに判断を委ねることもできるけど、内野はそうもいかない。あらかじめ色んな想定をして、瞬時にどの塁へ送球するか判断しなきゃいけない。内野から外野にってのが上手くいっても、その逆がなかなか上手くいかないのはこの辺だよな。

 そもそもの発端は失投したおれ自身。黙って尻拭いするまでさ。


「8番キャッチャー、有川(ありかわ)。背番号0」


「おっ、送る気みたいやな」

「まぁセイバー的にも正しいわな」


 バントの構え。当然だな。次の月出里(すだち)さんが厄介だし。


「ボール!」

「ほわっ!?」

「ストライーク!」


 『こっちはバントが上手いんだし、アウト1つあげるんだから良いでしょ』なんて、そんな虫の良い申し出を素直に受け容れることなんかない。内側厳しめに攻めて、タダでワンナウトもらうぜ。


(でゅふっ、やっぱりそうしますよねぇ……なら)


 あっ、ちょっと内に寄りすぎたか……


「んひっ!!!」


 キャッチャーの土生(はぶ)さんはちゃんと捕ったけど……


「痛たたた……」

「大丈夫か有川!?」

「……ヒット・バイ・ピッチ!」


 倒れて右腕の辺りを抑えてるけど、当たったか今の?かろうじて避けたように見えたけど……


(……いや、あれは……)




******視点:有川理世(ありかわりせ)******


 大袈裟にならないように、程よく右腕をさすりながら一塁へ。


「何にしてもよう繋いだわ!ようやった有川!!」

「これでノーアウト満塁や!」

「ナイスガッツ理世(りせ)ちゃん!!」


 でゅふっ、これで鋭利(えいり)ちゃんに謝られたり、周りから褒められるのは複雑ですねぇ……今のはいわゆるTA■SUKA■Aというやつですから。なので痩せ我慢すらする必要もないんですよねぇ。我ながらとんだ役者ですよ。


「よくやったぞ有川ァ!」


 真守(まもる)ちゃん、一見すると他のファンの方々に同調してるだけに見えますけど、多分別の意味でそう言ってくれてるんでしょうねぇ。高校時代にも同じようなこと何回かやってますし。

 まぁこれはリクエストが実質不可能な今日の試合だからこそできたこと。SNS全盛の今の世の中じゃ、もしかしたら今のプレーが撮られてて後で掲示板でネタにされるかもですが、『これも野球』って、わかる人がわかってくれればそれで良いんです。自分以外の誰かが傷つくようなやり方はワタクシメも流石に嫌ですけどね。


「9番サード、月出里(すだち)。背番号52」


「ちょうちょキター!」

「もう一発弾丸ライナーかましたれ!」

「散歩でもええんやでー!」


 うーん、ここで『ホームラン』が出ないのが何というか……

 まぁやり方はどうあれ、良い形で(あい)ちゃんに繋げられました。遠慮なく決めてくださいねぇ?でゅふふ……


「ストライーク!」

「ボール!」

「ファール!」

(よし、追い詰めた……!今度はこれ……)

「ファール!」


 やっぱり逢ちゃんにはあのフォークは通用しませんよねぇ。落差があまりないのもさることながら、リリースやボールの回転具合などで見極めは十分可能。ストライクゾーンに入ってきてもあの通り。

 ただ、鋭利ちゃんの高校時代までのデータではフォークを投げてなかったっぽいんですよねぇ。このオフの間に身につけてきたのなら、大したものですねぇ。


(ストレートは身体で反応できる。一番厄介な外スラを張っておく……!)

(こうなったら外スラ……ッ!)


 ん?


「ボール!」


「うわぁ、ここで大外しかぁ……」

土生(はぶ)が逸さなかっただけ儲けもんやな」

「ちょうちょー!フルカンフルカン!!」

(どうした風刃!?外スラ勝負じゃなかったのか!!?)

(す、すんません……!)


 ここまであれだけ精度の良い球を放ってきたのに、自信のあるはずのスライダーを外した……というよりも、強引にウエストした?


(……やるわね)

(あっぶね……多分今の、入れてたらやられてたな)


 何にしても、優位に立ってるのは逢ちゃんの方ですね。一塁のワタクシメも帰れるようなやつ、期待してますよぉ?でゅふふ……


(いける!!!)

(まずい……ドンピシャ!)


 逢ちゃんの渾身の一振り、この当たりならセンター前……






「よっと」

「「「「「!!!??」」」」」」

「ホーム!」

「アウト!」

「ファースト!」

「アウト!」


 うっそ……!?


「す、すげぇ!」

「今の捕りやがった!!?」

「風刃くーん!!」


 投げ終わった後の風刃くんのちょうどグラブ直下を潜り抜けていきそうだった超高速のゴロ。それを咄嗟に膝を折ってグラブの位置を落とす形でこともなげにキャッチ。そしてそのままホームゲッツー。


(くぅ……ッ!!!)

(ま、長いこと内野やってたんでね。このくらい軽い軽い♪)


 悔しさで天を仰ぎながら一塁ベースを通過した逢ちゃんと、人差し指と小指を立ててツーアウトを示しながら白い歯を見せる風刃くん。

 いやぁ、本当にすごい子ですねぇ。投球のみならず、フィールディングまで……

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