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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
302/1154

第四十九話 伝説になんてさせやしない(4/9)

******視点:風刃鋭利(かざとえいり)******


 ようやくこの時が……いや、チャンス自体は思ったよりも早くきたな。

 そりゃもちろん、年頃の男としちゃやっぱり"合法ロリな美女"よりも"顔良し・性格良し・乳デカしのお姉さん"の方が女の子という意味では魅力的だけど、プレーヤーとして一番興味が湧くのはこの人、月出里(すだち)さんなんだよな。

 スイングスピードとか持ち前のパワーとかそんなの以上に、はたから見ててもわかる形容しがたい違和感。おれも内野手の視点で『投手と打者の勝負』ってやつを何度も見届けたけど、こんなよくわからない人は初めてだ。

 そんな傍観者として『おれならこうする』って気持ちでピッチャーになって、気がつけばプロにさえなれた今のおれの力。この人にどのくらい通用するのかな?


「プレイ!」


 まずはこれ……!


「ストライーク!」


 中速のまっすぐ、コースが甘いわけじゃなかったけど、最初から振る気があんまり感じられなかったな。ストライク先行が分かった上で球筋を見るのを優先したのか、それとも……


「ファール!」

「うおっ!?危ねっ!!」


 さっきもうお披露目しちゃったから、せっかくのカットボール。やっぱ1球目は見極めかな?まぁまっすぐはこの打席じゃ多分もう入れないけど。警戒度MAXの相手で6回までだから、一打席目から出し惜しみなしでやっていく。


「ファール!」

「ファール!」


「うーん、さすがちょうちょ……」

「絶対三振しないウーマンすき」


 現状の決め球、外スラを連続カット。やっぱ単純な勝負じゃ無理っぽいな。


「ボール!」


 いったん内側にまっすぐを見せて……


「……ボール!」


 外カーブ、釣られてくれなかったかぁ……

 なら緩い球の後の速球、に見せかけて……

 うっ!?


「ファール!」


「何やそのへっぴり腰……」

「崩されたかねぇ?」


 ……違うな。わざと崩したんだ。まっすぐに見せかけたカットボール。おそらくまっすぐ狙いだったけど、あえてスイングを遅らせて打球をファールゾーンへいくようにした。

 やっぱすげぇなこの人。カットの技術もそうだけど、さっきのスイングの瞬間のあのゾクリとした感覚。まっすぐだったら間違いなくやられてたってのを肌で感じ取れた。マジこえー。




******視点:月出里逢(すだちあい)******


 なるほど、ほんとに高卒すぐなのかってくらい良いピッチャーだね風刃(かざと)くん。

 まっすぐとスライダーの威力は十分。他は並くらい。つまるところ球の質だけ見れば『プロとしては普通に良い』ってくらい。でも一番すごいのは、色んな球をちゃんと意図して投げてる感じがするところ。

 ピッチャーを全然やったことのないあたしだから細かい投球術はよくわからないけど、確かに打ちづらい。常にこっちの想定をほんの少しずらされてる感じ。あたしだって別にセコセコと四球を狙ってるわけじゃなくヒット以上狙いなんだけど、きちんと打たせてくれない。

 でも、ほんの少しのズレが今の拮抗を作ってる以上、向こうにも余裕はないはず。ここまでの打者8人だって多分そう。なのにあの飄々とした態度。単に心臓が強いってだけじゃ説明がつかない。

 そんなんだから、圧倒的な球威ってわけじゃないのに、気分的にはすみちゃんとかあの変態と勝負してる時と同じような気分。やっぱり勝負はこうでなきゃね。


「ファール!」

(えぇ……それも当てる〜……?)


 火織(かおり)さん達左打者に使ってたカーブ。右のあたしにとっては、ぶつかりそうな軌道からストライクゾーンに入ってくる感じ。甘く入ってくれれば絶好球なんだけどね。


「ええでええでちょうちょー!」

「そんな小細工、ちょうちょには通用せんわ!」

「まぁあのルーキーも大概すげぇけどな……」

「マジでできること多すぎやろアイツ……」


 確かに引き出しは多い。だけど、(すばる)さんから教わったやり方だったら、球種が多かろうがこのくらい関係ない。


(マイナス方向でタイミングをすらすのが無理なら……しょうがねぇな)


 外まっすぐ……だけど!


(やば……!)

「!!!ライト!」

「ウオオオオオッ!!!」

「!?セカンド捕っ……」

「てない!!!こぼしたこぼした!」


 ライト前のライナーヒットだと思ったのに、良い反応してるねセカンドの新外国人さん。だけど、逆にチャンス……!


「!?ランナー回ってるぞ!」

「カバー急げ!」

「ッ……!」




「セェェェェェフ!!!」


「うおおおおお!!!」

「よっしゃ!今年初ヒットや!!」

「ナイバッチちょうちょ!」

「やはり筋肉は全てを解決する……」

「今のって記録どうなるんや?」

「エラーやないみたいやし、セカンドへのツーベースってとこか?」


 セカンドベース上で軽くガッツポーズ。まぁ今のでも角度を付けてスタンドまで飛ばせるようになるのがあたしの目指すとこだけど、今はこのくらいでご勘弁をってね。


(捕ッタト思ッタノニ、完全ニ力負ケタ……)

(今日ベストの149まっすぐ……完全に詰まらせたはずだったのに、飛びついたセカンドのグラブを弾くほどの弾丸ライナー……しかもカバーしてる間にちゃっかり二塁まで行かれちゃったか。やられたなぁ)


 あたしの方を見て呆れたように笑う風刃くん。あたしも今年の初っ端から楽しませてもらったよ。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「アウト!スリーアウトチェンジ!!」


 後続の赤猫(あかねこ)さんはファーストゴロ。当たりは良かったけど正面じゃね。


「ナイバッチ月出里!キミならやってくれると信じてたよ!!」

「あ、うん……ありがと」


 攻守交代でベンチに一旦戻ってると、満面の笑みの雨田(あまた)くんからの労い。何でだろ?こんなにご機嫌なメガネ坊や見るの初めてなんだけど……?

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