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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
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第四十九話 伝説になんてさせやしない(3/9)

「2回の裏、白組の攻撃。4番レフト、十握(とつか)。背番号34」

「よろしくお願いします」


「お、あれが例のドラ1の奴か」

「ほんとちっこいなぁ。あれで飛ばせるのかねぇ?」

「ええやんええやん。ウチ好きやでああいうの」


 ギャラリーの言う通り、背丈は月出里(すだち)徳田(とくだ)さんと同じくらい。ウチの去年までの4番と言えば金剛(こんごう)さんや天野(あまの)さん、二軍でも財前(ざいぜん)さんと、プロでも大柄な人達ばかりだから、打席に立つ姿が余計に小さく見える。

 ……が、実績は本物。大学時代の活躍ばかりが目立つけど、高校時代でも1年からずっと4番を任されてチームを嚆矢園にも導いた生粋のスラッガー。侮る理由なんてない。


「ストライーク!」

「おおっ、すげぇフルスイング……」

「あれでメガネの速球捉えられるんか?」


 スイング後にヘッドが背中につくほどのフルスイング……天野さんもフルスイングだけど、何と言うか全体的に動きがオーバーな天野さんと比べると、同じような荒々しさを感じさせながらも動きがまとまってる印象。


「ボール!」

「ボール!」


「ナイセンナイセン!」

「ピッチャービビってるよー!」


 別にビビってるわけじゃなく、天野さんみたいに変化球で釣れれば儲け物って気持ちだったけど、どうやら目も良いみたいだ。


(うーん、さすが期待のエース候補。まっすぐももちろん速いけど、スライダーもこれ、コースに入ってくると結構厳しいな……)


 身体を大きくした分、投球の感覚が変わってる部分があるから、変化球の制球は追々調整していく。今日はひとまず……


「ファール!」


「おおっ、当てたぞ!」

「今日まだ150未満のまっすぐ1球もないな……」


 このまっすぐでやれるとこまでやる……!?


「レフト!!!」




「……アウト!」


「ああ、いったと思ったけどなぁ……」

「まぁあれは上がりすぎやろ」

「どっちみち連続奪三振途切れちまったなぁ」


(うん、タイミングは取れるね。後は球筋の調整かな?)


 フィニッシュだし、かなり力を入れて投げたのに捉えられた……


「ストライク!バッターアウト!!」

「ストライク!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」


「えっぐ……」

「2回で奪三振5……」

「今日のメガネ、打てる気せぇへん地元やし」


 去年苦しめられたイースター相手にも、このまっすぐなら通用する。やっぱり今日一番マークすべきは十握(とつか)さんか。




******視点:月出里逢(すだちあい)******


 今日の雨田(あまた)くんはボールを前に飛ばさせることすらあんまりないけど、それでも"守るあたし"から"打つあたし"に切り替えるために、ゆっくりとペットボトルの水を飲む。身体を冷やしてパフォーマンスを落とさないように常温に近い水。だから、冷たいっていう感覚よりも、身体の中に流れていく感覚をクリアに感じ取れる。


「風刃くんカッコイイ!」

「高校の時から追っかけてたよー!」

「この回も頑張ってねー!」

「エースになるんやでー!」


「ありがとー!」


 ファンの女の子の声援に笑顔で手を振って応える風刃(かざと)くん。高卒ルーキーでいきなり先発を任されて、しかもここまで結果も出してるそれなりに綺麗めの子。早速目をつける人がいてもおかしくないよね。


「3回の表、紅組の攻撃。7番ショート、相沢(あいざわ)。背番号3」


 ここまで点もヒット数もエラー数も何もかもゼロ進行。まぁそこそこ以上のレベルの野球をやってれば珍しくない状況ではあるけど、逆に言えば雨田くんだけじゃなく風刃くんにも、このプロ野球の環境である程度やれるだけの力が期待通り備わってるってことでもある。


「ストライク!バッターアウト!!」

「あっちゃあ……最後良いとこいったなぁ……」

「あそこのスライダーはちょっと打てんわ……」


 確かにはたから視てる分にも良い球を投げてる。特にあのスライダーが厄介だと思う。


「8番キャッチャー、有川。背番号0」


 実力があって、それ相応の役割を与えられてるのは結構なこと。

 でもやっぱり悔しい。去年、柳監督(ジジィ)に『実力不足』だの何だの因縁付けられて喧嘩した身としては、こんなにすぐに期待されるのはね。

 それに、あたしよりも佳子(よしこ)ちゃんに先に寄りついたのも。そりゃ佳子ちゃんみたいに愛想良く振る舞ったりはできないけど、初対面で負けるのはね。いくら佳子ちゃんが顔良し・性格良し・乳デカしのお姉さんでも、そこは負けたくない。

 ……こんなのを野球に持ち込んじゃうのって良くないとはわかってるんだけどね。


(いっちょあかりっと♪)

「アウト!」


「おいィ!?ボール球だルォォォ!!?」

「何で高卒ルーキー相手に誰も出られんねん(憤怒)」


 ピッチャーフライをこともなげに、グローブを払うようにしてキャッチしてニヤリと笑う。小憎たらしい。


「でゅふっ、気をつけてくださいねぇ。数字以上に良い球ですよぉ」

「はい。ありがとうございます」


 すれ違いざまに有川さんからの一言。まぁそうでもなきゃ、一巡目とは言え開幕スタメン候補が揃いも揃って塁に出られないなんてことはないよね。


「9番サード、月出里(すだち)。背番号52」


「頼むでちょうちょー!」

「そろそろあの生意気なオスガキをわからせたれー!」

「ファイト、風刃くーん!」

「お高く止まってる無愛想女なんて打ち取っちゃってー!」


(ようやくおでまし、だね)


 でも、それならそれで好都合。あたしが一番最初に風刃くんを打てば良いんだから。すみちゃんが望む"誰よりも強いあたし"になるんだったら、まずはこのチームで一番にならなきゃだよね?

 去年まで散々悔しい思いをした。ごく一部の人以外には誰にも期待されなくて、それを覆すこともできなくて。だけど、ようやく大きなチャンスを掴めた。風刃くんには悪いけど、ここから先はあたしの伝説。風刃くんの伝説になんてさせやしないよ。

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