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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
299/1162

第四十九話 伝説になんてさせやしない(1/9)

******視点:相模畔(さがみくろ)******


「…………」


 紅白戦で、財前(ざいぜん)さん達と挑戦者側のスタメン。もはや毎年恒例ではあるが、もう馬鹿みたいに調子に乗り合うことはない。

 まぁ当然だな。俺と千代里(ちより)は今年はスタメン出場のために一軍キャンプからこっちへ出向いてきた立場。つまり、チーム内での序列に明確な差があるということ。何せ自分の希望で今までと違うポジションまで任せてもらえるんだからな。


 プロではコンバートは一大決心みたいなとこがあるが、実際に野球をやってりゃコンバートなんてしたことない奴の方が珍しい。プロに入れるような奴は大体アマチュアの頃からレベルの高い環境でポジション争いを経験してるから、1つのポジションにこだわり続ける方がむしろリスキーだと考えるもの。

 そして、肩がある程度なきゃ入る時点で足切りされるのがプロの世界だから、野手は大体投手を経験してるし、逆に投手も小・中までは野手って奴も少なくない。

 プロに入ってからでも投手から野手で成功した奴はそれこそ球史のレジェンドにもいるし、内野から外野なんてのは成功例を挙げたらキリがねぇ。キャッチャーなんかもバッティングを活かすために内野か外野にってのもよくある話。

 ……が、問題は『プロで外野から内野』。ファーストだけは例外だが、それ以外でこのパターンでの成功例は本当に稀。元々内野の奴が一軍で出るためにまず外野で結果を出して内野のレギュラーにってのはあるが、純粋な外野が内野のレギュラーってのはなかなかない。


 幸い、外野からサードは一応前例はある。他ならぬ俺自身もプロ入り前なら内野レギュラーだった時期があるし、二遊間と比べりゃまだ希望はある。

 去年は外野しか出来ねぇせいで出番さえなかなかもらえなくて、今年はドラ1で十握(とつか)まで入って来た。サードにしてもリリィが入る可能性もあるし、今日のオーダーから言っても今売り出し中の月出里(すだち)が有力候補だが、それでももう一軍で結果を出した奴がいる二遊間とファーストと比べりゃまだマシ。やるしかねぇよな。


「ねぇねぇ、あのマウンドの子誰?」

「ルーキーの風刃(かざと)くんよ」

「へぇ、ルーキーくんなんだ。なかなか可愛いじゃん」

「あたしはルーキーなら十握(とつか)くん推しだけどね」


 ……俺も入団したての頃は、嚆矢園で活躍したのもあってあんな感じでチヤホヤされてたんだけどな。去年ようやく一軍でちょろっと活躍して、もう大卒の連中よりも年上になっちまった。

 三塁手前という、見慣れない視点から試合前の投球練習を眺める。実際にプレイボールになってみねぇとわからんところはあるが、特別良いとも悪いとも思わない。よくあるスリークォーターで、まっすぐのスピードもまぁまぁ。去年の今頃なら(ひが)み全開だったかもしれねぇけど、今の俺だったら『何かがあるんだろうな』とは思える。


「1回の表、紅組の攻撃。1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

(しずか)たそー!ニャンニャン頼むでー!」


 赤猫さんは去年、珍しく不調だった。いつもなら3割近くは打つのに2割台前半で、それに比例して盗塁も伸びず。まぁそのおかげで俺もある程度仕事をもらえたわけだが。それでも開幕1番センターが濃厚なのは、やっぱり積み重ねたもんが大きいからだろうな。


「ストライーク!」

「おお、結構ええ球投げるやん」


 初球から144のまっすぐ。しかもインローそこそこいいとこ。


「ストライーク!」

「ファール!」

「ボール!」

「!ショート!!」

「アウト!」


 追い込んでからの最後のは外のシンカー……か?赤猫さんなら内野安打もあるけど、(まり)の真っ正面は流石に無理だわな。


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」

「よっしゃあ!かおりんやんけ!!」

「今年も頼むでWAR芸人!」


 去年ブレイクした中でも一番の徳田。バッティングは去年の段階じゃ俺が勝ってる部分なんてほとんどなかったし、盗塁もチームトップでセカンドの守備でもGG賞候補として注目された。ほんの数年前まで俺らと一緒に腐ってたはずなのに、すっかり住んでる世界が別になっちまった。


「ストライーク!」

(うーん、まぁ良くもないし悪くもない……かな?強いて言えば閑さんに続いてアタシにも構わずストライク先行で入れたってくらい……)

「ボール!」

「ファール!」


 ここまでで感じたのはコントロールの良さだな。単純にストライクにポンポン入れられてるだけじゃなく、ゲロ甘の球とか明らかな抜け球が今のところない。そういうのが強みなのか、そういう度胸があるのかはわからん。

 そもそもこの時期はバッターの方が実戦離れの分不利なとこがあるからな。無駄球を投げずに積極的に勝負するってのは自分の投球スタイル云々以前に合理的な選択と言える。


「……ストライク!バッターアウト!」

(あっちゃあ、入ってきたかー……)


 外から入り込むカーブ。風刃の奴が事前にどれだけ勉強してきたのかは知らんが、確かに徳田を打ち取るならあそこが正解。

 それにしても引き出しの多い奴だな。どの球も正直打てねぇとは思わんが、ここまでだけでもストレート、スライダー、シンカー、カーブ……強いて言えばスライダーが一番良さそうな感じだが、ストライクを取れてる以上、他の球種もお荷物にはなってない印象。


「3番指名打者、オクスプリング。背番号54」

「リリィ!そろそろ新人に洗礼かましたれや!」


 さっきの2人も役者として十分だが、試金石にするのならやっぱりコイツ。去年のウチの最強打者。スイッチなのにどっちの打席でもヒットもホームランも狙えて選球眼も悪くねぇ。しかも走れる。どの数字も大体2位以下だが、全体的な得点力で言えば現状ウチじゃコイツが一番だろうな。


「……ボール!」

(入りは慎重……やけど、ストライクを狙いにはいったっぽい)

(ここまでストライク先行で来たのに見てきたなぁ。流石。なら、これならどうかな?)


 土生(はぶ)さんのサインに何度か首を横に振ってから2球目。


(絶好球……ん!?)

「ストライーク!」


 フォークか……見逃されたら2ボールで余計に苦しくなる場面でも平然と投げ込めるのは良い度胸。


(ッ……!)

「……アウト!」

「おお!速ぇ!!」


 今日最速の148のまっすぐで、ファーストファールフライ。全体的に小細工で凌いできたが、ここに来て力勝負。まぁ器用な奴だな。


「スリーアウトチェンジ!」

「三凡良いゾ〜これ」

「なかなかやるやんあのルーキー」

「まぁ初見有利やろ。ここからやここから」


 とは言え、氷室(ひむろ)みたいなエグい魔球とかは投げてこねぇし、紅組連中なら十分アジャストできるかねぇ?個人的には程よく守備機会が回ってきてほしいもんだが。

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