第四十八話 高み(3/4)
******視点:柳道風******
春季キャンプ6日目、休養日。
去年の春季キャンプは若手連中に発破をかけるのが主な目的じゃったが、今年は直近のドラフトでも即戦力を中心に獲ったのもあって純粋なチーム力向上が目的。ゆえに、地道な練習が中心で、紅白戦は10日目までお預け。
今回のキャンプの紅白戦で目指していきたいのは特に先発陣の整備、そして昨年の若手の台頭で横並びになりつつある野手陣の見極め……じゃな。先発ローテは余程のことがない限り百々(どど)、三波、氷室の3人は確定。残り3枠を、紅白戦やオープン戦などで候補の連中に実際に投げさせて決めていく。
投手陣の調整も考え、そろそろオーダーを決めていきたいところじゃな。紅組はひとまずのレギュラー候補の洗い出しも兼ねて組んでいきたいから、こんなものかのう?
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2019春季キャンプ 第1回紅白戦
●紅組
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2二 徳田火織[右左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4左 金剛丁一[左左]
5一 天野千尋[右右]
6右 松村桐生[左左]
7遊 相沢涼[右右]
8捕 有川理世[右左]
9三 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右] or 山口恵人[左左]
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内外野はほぼベストメンバー。捕手に関しては、伊達はゆっくりさせてやりたいし、冬島は怪我で出遅れじゃから、残りの捕手陣で一軍枠に残れる可能性が最も高い有川。
先発は逆に先発候補の中で優先度の低い雨田か山口じゃな。紅組野手陣がベストメンバーに近いからこそ、先発有力候補には白組先発をやらせたい。
「ん?」
「監督、よろしいでしょうか?」
「おお、入れ」
ノックされたドアが開くと、旋頭の姿。
「どうしたんじゃ?」
「10日の紅白戦の先発について相談がありまして」
「ほう……具体的には?」
「白組側の先発に推薦したい者がいます」
「……山口かの?」
今回の紅白戦の先発候補は山口以外全員一軍キャンプにおるからのう。
「いえ、別の者です」
「……!ほう……」
「今年の紅白戦の先発選出のコンセプトは当然理解しておりますが、それを加味しても、早い段階で一軍戦力との対戦経験を積ませておく価値があると考えました」
「去年の雷小僧みたいにかの?」
「それ以上になれるかもしれません」
「……面白い。誰じゃそいつは?」
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******視点:夏樹神楽******
春季キャンプ7日目、二軍キャンプ。
「あ、夏樹さん!お疲れっす!」
「お、おう……」
ブルペンで先に投げ終わってベンチで休憩中のあっしの隣に、ルーキーの風刃が座った。
「いやぁ、夏樹さんやっぱ良いカーブ投げますね。低め低めに綺麗に集めるし」
「おう、サンキューな……なぁ風刃」
「はい」
「お前、高校より前ってピッチャーやってたのか?あっしも高校の頃に風刃の名前ちょろっと聞いたことあったんだけど、それより前はなかったからさ」
この数日、コイツの投球は何度か見た。少なくともまっすぐは確実にあっしより速いし、自己紹介の時に言ってた通り変化球も色々持ってる。あっしも高卒ドラ4だけど、同じ立場だからこそ、コイツが今の今まであんまり注目されてなかったのが尚更不思議に思える。
「おれ、本格的にピッチャーになったのって高校に入ってちょっと経ってからなんですよ。中学まではずっと内野ばっかで」
「マジか……」
「本当は高校入ってすぐピッチャーやりたかったんですけど、その頃は120km/h出すのがやっとくらいヒョロッヒョロで……でもまぁ、成せば成るもんですね」
屈託もなく笑う。ほんと割といい男だなちくしょう。佳子もプロ入ってからは外野だけど、中学から野球始めたのにまっすぐだけならあっしより速かったし、やっぱプロの勝負はプロに入ってから、だよなぁ……
「ところで夏樹さん」
「ん?」
「10日目から2日間、紅白戦ありますよね?」
「おう。去年は4日目に1戦目やったんだけどな」
「おれ、投げれますかね?」
「……そうだな。去年だけそういう方針だったのかもだけど、ウチはルーキーでも早いうちに実戦経験積ませるみたいだからな。あっしも去年一軍でも投げさせてもらったりしたし。もしかしたらリリーフで出れるかもな」
「へぇ、そうなんすね「風刃、ちょっとこっちにいらっしゃい」
「あ、はい!」
ブルペンに入ってきた旋頭コーチが風刃を呼び出した。何の用かねぇ?
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******視点:秋崎佳子******
春季キャンプ9日目、二軍キャンプ。
午前中の練習を終えて、昼食を摂りながらタブレットを取り出す。去年と同じで、前日のお昼に紅白戦のオーダーが発表されるからね。
「秋崎さん!」
「あ、風刃くん」
「隣、いいですか?」
「うん、いいよ」
トレーを持った風刃くんがわたしの隣に座る。ほんとグイグイくるねこの子……
「んふふー、秋崎さん。明日の紅白戦のオーダー、見ました?」
「ううん、今からだよ」
「んふふー、そうっすかー」
わたしがタブレットを操作するのを、昼食を頬張りながらチラチラ見てくる。まぁ胸元見られるよりはいいんだけどね……
「……え?」
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2019春季キャンプ 第1回紅白戦
●紅組
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2二 徳田火織[右左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4左 金剛丁一[左左]
5一 天野千尋[右右]
6右 松村桐生[左左]
7遊 相沢涼[右右]
8捕 有川理世[右左]
9三 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右]
[登板予定投手]
百々百合花[右右]
夏樹神楽[左左]
花城綾香[左左]
○白組
監督:旋頭真希
[先発]
1三 相模畔[右左]
2遊 桜井鞠[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 十握三四郎[右左]
5一 財前明[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7中 秋崎佳子[右右]
8二 デーブ・キャロット[右左]
9捕 土生和真[右右]
投 風刃鋭利[右右]
[登板予定投手]
氷室篤斗[右右]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
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逢ちゃんが紅組スタメン、雨田くんが紅組の先発。わたしも白組のスタメン。
いや、それよりも……
「風刃くん、白組の先発……!?」
「んふふー、実は旋頭コーチに一昨日から聞かされてたんですよねー。最長6回までみたいですけど」
「すごい……おめでとう、風刃くん!」
「どうもです!秋崎さんも白組のスタメンセンターですよね?打つのも守るのもめっちゃ期待してますよ!」
「うん!お互い頑張ろうね!あ、でも……」
「?」
「いきなり紅組相手に投げなきゃ、なんだよね……」
「そうですねー。どう見ても一軍のレギュラーの人ばっかですね」
そうは言うけど、風刃くんは特に焦る様子も見せずに箸を進めてる。
「……去年、雨田くんも紅白戦の1戦目に白組の先発で出たんだよね」
「あ、そうなんすか。結果はどうだったんですか?」
「6回まで頑張って投げ切ったんだけどね。二巡目から打ち込まれて、6点……だったかな?そのくらい取られちゃって……」
「あの雨田さんが……簡単にはいかないものなんすね」
「うん。やっぱり一軍は手強いよ……」
「……秋崎さん」
「ん?」
「もし打者二巡パーフェクトで抑えれたら、今度デートしてくれますか?」
「ほぇっ!!?」
な……何言ってるのこの子?
「いやぁ……話聞く限りでもめちゃくちゃ厳しそうだから、それくらいのご褒美は欲しいなーって。ダメですか?」
「……もし出来なかったら?」
「そうっすねー……秋崎さんの言うこと、何か1つ従いますよ」
「……どういうことなら聞いてくれる?」
「流石に『死ね』とか『1億万円よこせ』とかは無理ですけどー、まぁ同じように1日何かに付き合わせるとか?」
「……デートって具体的には?」
「別にそんな大したことしないっすよー。難波で映画観に行ったりとか?」
「……わかった。いいよ」
「よっしゃ!あざっす!!」
うん、流石に無理……だよね?
それに、わたしとしても1つ叶えたいことがあるしね。風刃くん、なかなか男前だからね……フヒヒ。
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