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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第四十六話(第一章最終話) 予兆(4/4)

 テレビの画面と、タブレットでスレの流れを交互に観続けてると、いつの間にかコーナーが終わってた。結局、あたしの名前と姿が全国に流れたのはアレだけ。


「お、お姉ちゃん……」

「ん?」

「良かった……んだよね?」

「……そうだね」


 ネットサーフィンのついでにエゴサは結構してるつもりだったけど、九十九(つくも)くんよりあたしの方が上って言ってくれる物好きがすみちゃん達以外にいるとは知らなかった。去年、同年代のスターへの劣等感丸出しでドラフトを見てたあたし。高校野球か、そうでなくてもアマチュアの頃から有名な人達の名前が縦に並ぶ中で、その上の方にあたしの名前があるのは、やっぱりまだ戸惑いの方が大きい。

 この1年、確かに成長はしたけど、肝心のホームランを打つことに関してだけはサッパリだった。なのに、さっきの番組ではまるでその逆のよう。今年ももうすぐ終わるっていうこの時期に、思いがけない形で、あたしの一番望む答えが返ってくることになった。


「あ……」


 ずっとほったらかしにしてたスマホにはメッセージがいっぱい。すみちゃんからはもちろん、佳子(よしこ)ちゃんや神楽(かぐら)ちゃん、それに雨田(あまた)くんまで……

 でも、今回に関してはやっぱりあの人と一番最初に話しておきたい。


「……もしもし?」

「おう、(あい)!久しぶりだな!」


 CODEで通話発信すると、待ち構えてたかのようにすぐに応答。あたしに清き一票を入れてくれた綿津見昴(わだつみすばる)さん。


「あの、綿津見さん。どうしてあたしに……?」

「んー?迷惑だったか?」

「いえ、そんなことないです。ありがとうございます」

「……言っとくけど、ウケ狙いとかじゃねーからな?今年から光忠(みつただ)いねーじゃん?だから誰にしようかってその時になって考えたんだけど、一番最初に出てきたのがいつも意識してる友枝(ともえだ)さんとかじゃなく、なぜかお前だったんだよ」

「…………」

「不思議だよな。オレだって口に出した時に『何で逢なんだよ』って思って……テレビの兄ちゃん達が上手いこと編集してくれたけどさ、理由も実際にあったことを色々言うのが精一杯だったんだよな。オレだってお前のプレーしてるとこ毎回律儀に見てるわけじゃねーんだし」

「要は『何となく』、ってことですか?」

「そういうこったな。でも安心しろ。何たってオレは周りから"感覚派メスゴリラ"なんて言われてるんだからな。野生の勘には自信があるんだぜ?ガハハハハハ!!」


 ……『何となく』、か。でも、あたしも今まで大体『何となく』でプレーしてきてるから、アレコレ言えないね。

 それに……


「綿津見さん」

「ん?」

「あたし、プロになったら会いたいって思ってた選手が何人かいたんですよ」

「へぇ、誰だ?」

「綿津見さんもその1人だったんですよ」

「ガハハハハハ!言ってくれるねぇ!!でも何で今なんだ?」

「前に言い損ねてましたからね」

「そっか。ありがとな」

「こちらこそ。あたしを選んでくれて……」

「……そういやさ、オフはどんな感じで過ごしてんだ?」

「今は埼玉の実家に戻って、母校のグラウンド借りたりして自主練してます」

「埼玉か。どの辺だ?」

「深谷です、北の方ですね」

「まぁ東京とも行き来出来っかな?今度さ、一緒に練習しね?」

「……!良いんですか?」

「おうよ!……あ、(わり)ィ。ちょっとこのあと用事あるから細かいことは後でいいか?」

「大丈夫ですよ。どんな用事ですか?」

「そらもうデートよ」

「あ、そう言えば彼氏さんいるんでしたね」

「こういう楽しみがねーと、こんな難儀な仕事やってらんねーからな。逢はそういう奴いねーのか?」

「全く。野球で野球の息抜きができてる内は別にいいかなって」

「光忠と同じようなこと言うなーお前。アイツもオレみたいな美女相手でも全くなびかねーし、そもそも女に興味があるのかすらも怪しいんだよな……」


 本当は弟にセクハラして発散してる……とは言えないよね。


「あたしは普通に結婚願望ありますよ」

「ま、それならぼちぼち良い相手見つけるこったな。いざって時に話し相手がいるだけでも違うもんだぜ?オレはそんなんじゃ足んねーから、今日はガッツリ搾り取るつもりだけどな!ガハハハハハ!!」

「何を搾り取るんですか……?」

「んふふ……未成年(ガキンチョ)には言えねーなー。んじゃ、また後でな!」

「はい。それじゃ、失礼します」


 通話を切って、他の人達のメッセージをチェック。返信でしばらく文章をいっぱい打つことになりそうだから、無線キーボードを荷物から出さなきゃね。


「はい、お姉ちゃん」

「ん?」


 (ゆい)が机の上にお煎餅とお茶とおしぼりを用意してくれた。


「またちょっと忙しくなるんでしょ?お夕飯前だからこれだけだけど、後でお祝いしようね」

「……結」

「ん?」

「あたし、結婚相手探してるんだけど……お嫁さんに来ない?」

「うぇっ!?」


 こういう気遣いのできる人は良いよね。男女問わず。


 すみちゃんもそうだし、今日の綿津見さんもそう。あたしって、見つけてもらってばかり。ネット上でもどうやらあたしって"データサーの姫"みたいだし。そしていざ見つけてもらってチャンスをもらっても、こうやって周りに支えてもらってばかり。

 打席は常に定員1名だけど、実際はそこに至るまでに何人もの人が力を貸してくれて、打席に立ってる間も、何人もの人が応援してくれる。それがよく理解できる立場だから、何と言うか、あたしは『あたしがすごい』っていうよりは、『すごいかもしれないあたしの管理を任されてる』っていう感覚なんだと思う。上手く説明できないけど。

 だけど、今のままで良いとは思ってない。そんな受け身で、無責任にも見えるあたしのままなんて、すみちゃんの望むあたしじゃない。"史上最強のスラッガー"っていう本当のすごいあたしになって、誰かに見つけてもらうまでもなく誰もが知る月出里逢(あたし)になってこそだと思う。


 ……来年はもっと頑張らなきゃね。周りの流れがどうとかじゃなく他ならぬあたし自身の力で、綿津見さんの『何となく』を、あたしの伝説の『予兆』にするためにも。

次回、第二章 背番号25……の前に、番外編挟みます。

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