第七話 吐いた唾を飲むつもりはありませんから(2/8)
******視点:秋崎佳子******
7回の裏のさなか。相変わらず雨田くんは俯いたまま。ベンチに投げつけて落としたグローブを拾う気も起こらないまま。
「あーあ。即戦力やと思ってたけどなぁ」
「まぁあんなストガイ脳筋ピッチングじゃ、ウチの打線レベルでもこんなもんやろ」
「ダベッターでバズったからってイキっ奴wwwwwww」
どうして?観客の人達みんながそうじゃないけど、どうして、あんなに頑張った雨田くんにそんなことが言えるの?
「あ……あの、雨田くん!」
声、かけちゃった。でもやっぱり放っておけないよ。
「グローブ、ここに置いときますね」
グローブを雨田くんの隣に置く。ちょっと見ただけで、また俯き直して、何も答えてはくれない。だけど、それでも構わない。
「雨田くん、さっきのピッチング、すごいまっすぐ投げてましたね!まるで妃房さんみたいでしたよ!」
ようやく、わたしの方を見てくれた。
「……わたしも、ついこの間までピッチャーだったから、雨田くんの気持ちはよくわかってるつもりです。でも、これは紅白戦なんですし、この試合だってまだまだどうなるか「うるさいな」
「……え?」
「『ボクの気持ちがわかる』?ハッ、"ピッチャー失格"で野手になったキミなんかに何が分かるって?」
「え、えっと……」
「おい雨田、今のは流石に聞き流せねぇわ。訂正して佳子に謝れよ」
神楽ちゃんが割って入って庇ってくれた。でも……
「……そうだよね。キミには聞き流せないだろうね。『左で投げられる』ってだけでかろうじてプロ入りできたようなキミだったらね」
「ッ……!テメェ!!」
「ちょっ、2人とも落ち着いて!」
「そ、そうだよ!喧嘩は良くないよ!」
わたしが間に入って、逢ちゃんは雨田くんに詰め寄ろうとしてる神楽ちゃんを止めてくれてる。
どうしよう……わたしのせいで、こんな……
「佳子!お前悔しくないのかよ!?」
「い……いや、でも……わたしが"ピッチャー失格"なのはホントの事だし、雨田くんの気分を悪くさせたのもわたしだし……」
「佳子、おま「雨田、夏樹」
!!?ひッ……!?
「喧嘩するなら外でしなさい。そしてもう帰ってくるな」
振り向くと、旋頭コーチがものすごい顔で睨んでる……
「喧嘩は論外。反省も試合の後。貴方達、この試合が放送されてるって事、忘れてないかしら?」
「「……すみませんでした」」
「わかったなら良い。安いとはいえ、貴方達のプロとしてのプライドに免じて今回だけは大目に見てあげる。でも、次はないわよ」
こ、怖かった……初日から怖いもの知らずな態度だった雨田くんも、いつも大胆な神楽ちゃんも、流石に縮こまってる。
(非科学的なものは嫌いだし、多分心理的なものでしかないとは思うけど、あれがレジェンド級投手のオーラというやつなのか……)
「佳子、逢、わりぃな。ちょっと頭に血が上りすぎた」
「う、ううん!神楽ちゃん、わたしを庇ってくれたんだし、謝ることなんてないよ!そもそもわたしが『放っとけ』って言われてたのに……」
「いや、それは……」
そんな感じで謝り合うわたしと神楽ちゃん。でも逢ちゃんは、何事もなかったようにベンチに座り直して、頬杖をついて観戦に戻った。
「あれしきでビビる程度の奴が、めんどくせぇことしてんじゃねぇよ」
「……え?」
一瞬、逢ちゃんがとんでもないことを言ったような気がするけど……き、気のせいだよね?そういえばさっき、旋頭コーチに睨まれてた時も逢ちゃんだけ平気そうにしてたけど……




