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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
282/1161

第四十五話 猪鹿蝶と日月星(4/8)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


「……はい。はい、お疲れ様でした」


 通話を切り、吉備(きび)に携帯を渡して、PC画面で今年のドラフトの結果を一通り確認。


「どうやらうまくいったようですな」

「ええ」


 オーナーと言えど、私にドラフトを主導する権限はない。去年みたいに、下位で獲れそうな掘り出し物を紹介したり、狙いの選手を獲りやすくするくらい。


「界隈では『故障が原因で社会人を経由する』という噂で持ちきりだったようで」

「ええ、おかげであの子が獲れたわ」


 嚆矢園(こうしえん)ってのは本当に功罪共に大きいわね。単純に競技レベルを上げるための競争をもたらす存在になってるし、日本野球が国際試合という短期決戦に強い土壌を作ってる反面、逸材をタダ働きで食い潰したり、高卒選手の過小評価と過大評価を引き起こす最大の要因にもなってる。絶妙に『知る人ぞ知る』くらいに留まってくれてたおかげで助かったわ。


「まぁ推してくれたスカウトに感謝ね。私だって存在すら知らなかったわ。中学までは内野の方がメインだったって話だし」


 ターゲットだった子の名前をクリックして、リンク先の詳細ページへ。

 プロ野球選手としては平均よりほんの少し小さめの身長。襟足を刈った明るい色のショートヘア。なぜかいつも寝癖頭で、絆創膏もいつも頬に付けてる。まるで90年代の子供向けアニメの主人公みたいな見た目。

 でも、身体つきはなかなか男前になったわね。ただでさえ童顔なもんだから、高1の頃の映像観て華奢な女の子かと思ったわ。それくらいの線の細さだったから私は貴方を見出せたんだけどね。


「……そう言えば、この子の高校って宮崎じゃない」

「ああ、宮崎と言えば今……」

「向こう、どうも優勝は厳しそうなのよねぇ……」


 バニーズって秋季リーグだけは強いはずだったのに、私がオーナーになってからはまだ優勝できてないのが口惜しいわ。宮崎牛食べたいのに。


「あ、それと吉備。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「どのようなご用件で?」

「来週くらいから契約更改始めていくでしょ?それでね……」


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******視点:????******


小田(おだ)ー」

「はーい」

加賀(かが)ー」

「はい」

風刃(かざと)ー……風刃ー、風刃はおらんのかー?」

「せんせー、風刃くんは『職場体験』?とか言って早退しましたぁ」

「……はぁ、全くあの自由人め。ドラフト指名されたからって調子に乗りおってからに」


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「おー、やってるやってる」


 決して都会とは言えない宮崎だけど、『日照時間の長さ』という特徴のおかげでプロ野球のキャンプ地としては沖縄に並ぶ定番スポット。プロ球団だけでも12球団全てが集まる秋季リーグの試合を全て県内で完結させられるだけの数と質の球場が存在するってわけだ。まさに野球に集中するにはもってこいの環境。

 生まれも育ちも岡山のおれがこっちの高校を選んだのもそれが理由。おかげさまで先週の木曜、無事に指名してもらえた。ついでにビーチに集まる可愛い子ちゃんも堪能させてもらったけど。

 今日は29日月曜日、つまり秋季リーグ最終日。朝っぱらからガッコーサボるのは流石のおれでもちょっと抵抗あったけど、おれの就職先の球団は今日宮崎市で試合。途中抜けするにはちょっと遠いから仕方ない。恨むんなら試合日程を恨んでよってね。金曜は試合休みで、土日はとにかく練習して寝たかったし。


「1回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号52」


 うおっ……めっちゃ可愛いなあの子。いや、プロなんだから少なくともおれよりは年上なんだろうけど。


「センター!」

「ナイバッチ!」

「良いぞちょうちょー!」

「ちょうちょどんだけ打っとるんや……?」

「アウトになってるとこ全然見いひんな……」

「秋季は基本ホームランしかカウントしてへんみたいやけど、多分最高出塁率と盗塁王は確定やろうな」


 スイング速いなぁ……いや、『流石プロ』って言いたいとこだけど、ちょっと速すぎるな。

 珍しい苗字だから、スマホで検索したらすぐに出た。おれの1つ上、今年の高卒ルーキーの人か。だったら尚更気になるな。こんな人が1つ上にいて、今まで全然知らなかったんだから。


「2番ショート、桜井(さくらい)。背番号39」


 この人も可愛いな。いや、でも女の子としては何となく危険な匂いがする。何となく。


「3番センター、秋崎(あきざき)。背番号45」


 おっぱいでっか……うん、やっぱり大きい方が良いよな。可愛いし、何か優しそうだし。この人も要チェック。


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「バニーズ、投手の交代をお知らせします。ピッチャー、■■に代わりまして、夏樹(なつき)。ピッチャー、夏樹。背番号27」


 おおう、和風美人……というか夏樹さんか。この人は有名人だから流石に知ってるわ。まぁそれでもパンサーズの聖地とスティングレイの聖地の板挟みになってるとこで住んでたからバニーズのことなんて『弱い』以外ほとんど知らなかったけど、ほんと顔面偏差値は高いんだなぁ。


「ストライク!バッターアウト!」


 まっすぐ走ってるじゃん。高校では伸び悩んで軟投派になったはずだけど、力勝負もできるようになったんだな。旋頭真希(せどうまき)ってレジェンドの力かねぇ?


「!レフ……」

「!!?」

「アウトオオオオオ!!!」

「しゃあああ!!!よく捕ってくれた(あい)!!!!!」


 すげぇ、今のに反応できるのか。普通にレフト線スレスレのツーベースかと思ったのに、とんでもねぇ反射神経と跳躍力だな。これに加えてあの盗塁。見どころ満載だな。

 ……いや、それでも一番気になるのはやっぱりバッティングだな。何というか、すげぇ違和感がある。バットを振った瞬間に見える一瞬先のイメージと実際の打球が全然噛み合わないというか……最初はただただスイングと打球の速さに驚いてたけど、何打席か観てるとそっちの方が気になった。


「ゲームセット!」

「ナイスセーブ神楽(かぐら)ちゃん!」

「お疲れ、夏樹。ノルマ達成ね」

「はい!来年もこの調子で無調整でもいけるようにします!」


 危なげもなく勝っちまったな。九州じゃ"幻のエース"って呼ばれてた雨田(あまた)さんも見てみたかったんだけど、登板日じゃないんならしょうがない。


 この3年間、とにかく自分のことでいっぱいいっぱいだったから球界の動向があんまり追えてなかったけど、三条(さんじょう)さんがオーナーになってバニーズが色々変わったってのは本当みたいだな。弱いのは別に良いけど、やる気がない人達に囲まれてやるんじゃおれだって投げる気失せる。でも少なくとも可愛い子ちゃん抜きにしても気になる人がいっぱいいるし、やる気は十分感じられる。

 ……うん、気に入ったぜバニーズ。安心しな。このおれ、風刃鋭利(かざとえいり)がエースになって、暗黒時代を終わらせてやる……なーんてな。


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