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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第四十五話 猪鹿蝶と日月星(2/8)

******視点:旋頭真希(せどうまき)******


 10月25日。秋季リーグももうすぐ終わりだけど、進行に滞りはなし。

 シーズン中に活躍した子が概ねそのまま今回もって感じではあるけど、強いて言えば山口(やまぐち)が良い方の意味で燃えてるわね。シーズン最終カードでのお試しで結果が出せなかったのが余計に効いたと見える。

 それと、秋崎(あきざき)のバットが湿り気味ではあるけど、まぁ20試合にも満たないリーグだし、元々フリースインガータイプだから波があるのは想定内。守備はむしろ良い感じにこなしてるし、そこまで不安視はしてない。

 そして、ある意味特筆すべきなのは月出里(すだち)。好守に加え、高打率・高出塁率を生かして盗塁を稼いてるものの、ホームランは未だになしってのはシーズン中の通りだけど、昨日の試合までこのリーグで1つも三振をしてなかった。

 それが今日は……


「ストライク!バッターアウト!」

「ちょうちょが二打席連続……!?」

「いや、確か前に対戦した時もそうやったっけ……?」

「何でアレが打てんのや……?」


「良いぞ良いぞ(あおい)ちゃん!」

「マジカルストレート最高だぜ!」

「スラッガー諦めた甲斐があったわ」


(ひうっ!?月出里さん、そんな怖い顔で見ないでよ……ただでさえ岡正(おかまさ)さんいなくて不安なのに)


 アルバトロスの高卒ルーキー・鹿籠葵(こごもりあおい)によって、またもや手玉に取られてる。

 確かに4月頃に対戦した時と比べて球速も変化球の精度も上がってる。けどカタログスペックだけで言えばプロとしてはまだまだ凡ピッチャーのレベル。なのにウチの打線は現状零封されてて、月出里に至っては相変わらず当てることすらままならない状態。ほんとに謎の多い子だわ。


「ま、それでもちょうちょは来年以降やってくれるやろ」

「けど二遊間空いとらんやろ?相沢(あいざわ)かおりんが盤石すぎて」

「長打割り切ってサードかなぁ……?」


 二軍の若手達の将来性には期待してるけど、それでも今年の一軍の成績を見ても長打力不足が課題なのは明らか。クリーンナップ候補の財前(ざいぜん)がイマイチ伸びないし、先発陣も貧打に耐えられるのが現状は百々(どど)と三波(みなみ)氷室(ひむろ)だけ。当たり前だけど、獲れる点を増やすか、失う点を減らすかができないと、我が軍のこれ以上の順位上昇は望めない。

 今夜でどれだけこれらの課題を解消できるかしらね?


 ・

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 ・


******視点:月出里逢(すだちあい)******


 試合が終わって諸々のことを済ませた頃にはもう夕方近く。宮崎の宿泊施設のラウンジで、いつもの高卒メンバーと駄弁り中。


「はぁ……」

「どうしたの(あい)ちゃん?」

「いや、今日の試合勝ちたかったなーって」

「やっぱり鹿籠(こごもり)が相手だったからかい?」

「それもあるんだけど、お肉がね……」

「あ、なるほどな……」


 秋季リーグが始まる直前に知った話だけど、長年"最弱"と謳われ続けてる我がバニーズは実は秋季リーグではなぜか強豪らしくて、実際、過去最も多く優勝してる。そして最も重要なのが、秋季リーグはあくまで育成が目的ではあるけど、一応優勝チームには宮崎牛がプレゼントされるらしい。

 だからあたし自身のアピールも兼ねて、二軍のリーグ戦以上にチームの勝ちを目指して頑張ってきたんだけど、今年に限って猪戸(ししど)くんのせいでペンギンズがぶっちぎり。今日勝てばまだチャンスはあったんだけど、何で今日鹿籠さんと……


「お肉、わたしも欲しかったなぁ……」

「え?佳子(よしこ)もそっち側?」

「?当たり前だろう?宮崎牛だぞ宮崎牛」

雨田(あまた)、お前もか……」


 投手の呼吸と拍子、動作、球を投げる瞬間や球筋なんかを見ればイメージを思い描けるから、どのタイミングでどの辺を振れば良いのかってのは何となく見えてくる。

 でも、鹿籠さんだけはそれが全く噛み合わない。4月に対戦した時と同じ。あたしとしては捉えてるつもりなのに、実際の球は全く見当違いのとこに行って捉えられてない。

 ただ、今日の対戦のおかげで1つだけわかったことがある。鹿籠さんのまっすぐは、あたしが思ってるよりも外の方にいく。

 もちろん、それがわかったからにはあたしだってその辺を織り込んで打とうとした。思ってるよりも気持ち外寄りにミートポイントをずらして振るって感じで。でも、そうすると何故か身体がうまく動かなくなって、結局まともにスイングできなくて捉えられない。


 鹿籠さんは鹿籠さんで、投手として努力してるのはわかる。でもそれは、あたしが望んでもずっと手に入れられなかったスラッガーとしての立場を捨ててやってること。あたしは野球を始めて以来、一度だって投手という立場に浮気なんてしたことないのに。

 そんな人がよりによってあたしの天敵なんて、どうしても認めたくない。負けっぱなしなんて絶対に嫌。


 ……でも、こうなっちゃったんだから仕方ない。宮崎牛のステーキも、鹿籠さんへのリベンジも、今回はお預けだね。秋季リーグ前にすみちゃんに教えてもらったこと、すぐにはできそうもないしね。


「あ、そろそろ時間かな?」


 スマホの時計を見て、ラウンジの大型テレビの方もチラッと見る。

 今日はドラフトの日。去年と比べて今年は戦力外になった人が多いから、多分指名も去年より多くなると思う。どんな人が入ってくるんだろ?

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