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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
277/1163

第四十四話 3人用なんだよ(7/8)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


 監督室を出て、ロッカールームへ戻る最中だった。


「あ……あの!」

「……!」


 振り返ると、ピンクの髪で、綺麗な顔をしてて、首に球団スタッフ用のカードを提げてる男の人……会ったのはもう何度目かのラッキースケベさん。うーん、いつ見ても好みのタイプ。いつもとの違いは、首にタオルも提げてるとこかな?

 それに、あたしに気づくといつもはぐれ●タルみたいに一目散に逃げるのに、今回は何故か逆に向こうから近づいてきた。


「その……これ」

「え……?」


 手に持ってたスポドリのペットボトルを差し出された。


「一軍戦初出場、おめでとうございます。今日のプレー、すごくカッコ良かったです」

「あ、どうも……」


 いきなりのことで断れず、素直に受け取った。というか断る理由もないかな?タイプだし。


「……見てたんですか?」

「うぇっ!?い、いや!あの時はそんなつもりじゃなくて……!」

「いや、そっちじゃなくて今日の試合……」

「あ……はい、すぐそばで……」


 すぐそばで?あたしの超高密度の面食いフィルターを潜り抜けられるレベルのこんな人がそばにいたら気づかないわけがないんだけど……


「えっと、球団スタッフの人ですよね?」

「はい」

「男の人ですよね?」

「え……?もちろんそうですけど……」

「お名前は?」

卯花優輝(うのはなゆうき)です」

「お仕事の担当って何ですか?」

「えっと……ごめんなさい。それはちょっと言えない……そういう仕事ですから」


 この前の撮影スタジオの時と言い、ほんとにどこで何をしてるんだろ?すみちゃんと一緒に話してるところも見たし、何よりすみちゃんも振旗(ふりはた)コーチも『知り合い』って言ってたから、スタッフなのは嘘じゃないと思うけど……


「それとオーナーからの伝言……『用事が終わったらメッセージ見て』って」

「あ、はい」

「それじゃ……あ、この前は本当にゴメン!」


 謝りながら、やっぱりすぐに走り去っていった。

 もらったボトルの蓋を開けてみると、手応えからして新品。タイプだから飲みさしでも、とか思っちゃったけど、まぁ当然か。

 というか、どっちかと言うと連絡先の方が欲しかった。すみちゃんか振旗コーチに聞けば教えてもらえるかもしれないけど、やっぱり可愛いあたしとしてはどちらかと言うと追うより追われたいからね。

 まぁ今日ようやく名前がわかってちょっと話せたのだけでも、曲がりなりにも一軍に来れたあたしへのご褒美としてありがたく思うようにしようかなって。


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 ロッカーにしまってあったスマホを見てみると、着信がいっぱい。川越監督(ハゲチャピン)とか高校のチームメイトとか友達とか……あ、綿津見(わだつみ)さんからも来てる。

 でもやっぱり一番最初に開くのは、この人かな。


『貴女のファンより』


 思いの外短いメッセージだったけど、その下には紫のスミレの画像。


「ぷふっ……!」


 思わず吹き出しちゃった。すみちゃんもやっぱり関西人なんだね。


「それをやるなら正体隠しなよ……っと」


 メッセージを送ると、すぐに返信。


『私以上の適役なんていないでしょ?』


 まぁその通りだけどね。


『花言葉は調べた?』


 紫のスミレの人からの追伸。検索エンジンに尋ねてみると、『貞節』と、それと……


「『愛』……」


 罪作りな人。こんなところであたしとすみちゃんの名前の繋がりで運命感じさせちゃって。


「ただの洒落?それとも……」

『そういうふうに捉える貴女がスケベなだけよ』


 ドヤ顔の顔文字付きの返信。鏡がなくても顔が赤くなるのがわかった。さっきまで好みの男の人で浮かれてたから否定できない。そりゃあたしだって木の股から生まれたわけじゃないんだから、人肌だって恋しくもなる。

 でも……


「ありがとう。ずっと待ってくれてたんだね」

『試合中からずっと課題に手をつけられなかったわ』


 すみちゃんのそういうところが一番嬉しい。


「明日すみちゃんの都合の良い時で良いんだけど、相談に乗ってほしいんだけど良いかな?」

『おk。夜くらいになったら連絡するわ』


 スタンプを付けて、すみちゃんとのチャットを閉じる。


 次は家族……まぁいつもはお父さん最優先にしてるんだけど、たまには着信が早い順ってことで、お母さんからにしようかな?こんな時くらいはふざけてないはずだし……


『よっ、ナイス散歩!犠打王さん』


 あんのオバハン……!


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 寮に戻ったら、後はいつも1人で過ごすけど、まぁ今日は特別だしってことで、佳子(よしこ)ちゃんの部屋で神楽(かぐら)ちゃんも一緒に過ごす。と言っても特別何かするってわけでもなく、ほんとにそれぞれ好きなことして、たまに話すくらい。

 バニーズの選手寮だってのに、部屋には堂々とシャークスのグッズが飾られてる。まぁファンの人達にもネタにされてるくらいなんだし、あたしもどうこう言うつもりはないけど。


「!!!……(あい)ちゃん、神楽ちゃん、これ……!」


 ベットでゴロゴロとスマホをいじってた佳子ちゃんが急に身体を起こして、スマホの画面をあたし達に向ける。

 そこから、ニュースの動画が再生された。


「さて、次はプロ野球ニュースです。シャークス、ルーキーがプロ初打席で大仕事を果たしてくれました」


 シャークスのルーキー……それってひょっとして……


「ホーム主催の対パンサーズ戦。5番ライトにスタメンとして名を連ねたのは、高卒1年目のルーキー、頬紅観星(ほおべにみほし)。ドラフト5位入団ながら"将来の4番候補"としてミラー監督に将来を嘱望され、二軍戦で100試合以上の出場。10本塁打と見事に期待に応え、シーズン最終盤の本日、ついに一軍デビューとなりました」

「あの頬紅(ほおべに)が……」


 やっぱり頬紅さん。確かにあの人、最初の方はストレートしか打てなくて、それがシャークス戦のたびにちょっとずつ良くはなってたけど、あの人も一軍昇格してたんだね……


「そして第一打席。ツーアウト一三塁といきなりのチャンス、2球目でこの一発」

「うおっ……!?」


 外低めのストレート。少し流れたのに、バックスクリーンに直撃。やっぱりすごいパワーをしてる。


「ペンギンズの猪戸士道(ししどしどう)に続き、プロ初打席初本塁打の高卒ルーキーはこれで今年2人目。高卒1年目二桁本塁打まであと1本の白雪譲治(しらゆきじょうじ)など、新世代の台頭に大いに期待がかかりますね」

「すごいよね観星(みほし)ちゃん。お祝いのメッセージ送っとかなきゃ」


 ……参ったなぁ、また超えなきゃいけない人が増えた。単なるステーキ大食い仲間で済めば楽だったんだけど。


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