第四十四話 3人用なんだよ(6/8)
******視点:月出里逢******
「「「「「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」」」」
ヒーローインタビューの後、シーズンのホーム最終戦ということで、ベンチメンバー全員とヴォーパルくんがグラウンドに出て、ファンに向かって一礼。
まるで1年間一軍にいたような感じになってるけど、そこまで居心地の悪さは感じない。悔いは残ってるけどね。
最後に、柳監督がマイクを持って締めの挨拶に入る。
「えーファンの皆様、平素より応援を賜り、誠にありがとうございます。監督の柳でございます。今シーズンはリーグ4位と、全国の野球ファンに対して決して胸を張れるような成績とは言えませんが、それでも、長年続いた最下位からの脱出には成功いたしました」
ここで歓声。普通なら盛り上がるとこじゃないけど、まぁただでさえ関西の2球団で冷飯を喰わされてる方で、しかも最下位続きだったんだから、ずっと応援してた人達にとっては色々感慨があるんだろうね。
「もちろん、ここが終着点だとは全く思っておりません。昨日今日のシーズン最終カードで二軍の若手選手を多く起用したのも、新戦力・既存戦力共に成長を促し、さらなる順位向上と、ひいてはリーグ優勝、そして日本一への足がかりにするためでございます。一昨年の新体制樹立よりまだ日が浅く、成長途上の我が軍ではございますが、近い将来に必ず実現してみせますので、その時には本日起用した若手達に対して、『自分達が支えてやった』と誇って頂ければ幸いでございます」
まぁあたしは『誰よりもすみちゃんに支えてもらった』と言い続けるつもりだけど、思う分には好きにどうぞってね。
・
・
・
・
・
・
「よう月出里」
「まだそれ続けてるんですか?」
ミーティング後に呼び出されて向かった監督室には、あたしと柳監督だけ。まぁ呼び出しは今日呼ばれた二軍組全員受けてたから、個人面談形式ってことかな?
「今日の試合はどうじゃったかの?」
「……良い経験にはなったと思います」
「含みがあるのう。やはりバントは不満じゃったか?」
「それは……」
「言わんでもええ。そのつもりでやったんじゃからな」
「え……?」
「一軍はワシの受け持ち、二軍は旋頭の受け持ちじゃが、旋頭を介してお前らのことも色々聞いとる。例えば2月の紅白戦の時に徳田を立ち直らせたこととかの」
「"クソジジィ"呼びの告げ口だけじゃなかった、ってことですか?」
「そういうことじゃ。お前の高校時代の恩師の教え、『失敗を味方につける』と言った話もの。実にその通りじゃとワシも思う……が、1つだけ気をつけねばならんこともある」
「……?」
「失敗を次の糧にするにしても、『失敗した』という事実は必ず残る、ということじゃ」
「……!」
「野球で優れた実績の例としてよく持ち出される『打率3割』というのも、裏を返せば『失敗が6割強』ということ。『成功をより多く重ねた証』というよりは、『失敗をより多く避けられた証』というべきなのかもしれんの。失敗はたとえ次の成功に活かせたとしても、必ず形に残る。次に活かせない、本当に悔いが残るばかりの失敗と平等に。自分の成績にだけではなく、チームの順位といったところにもの」
「…………」
「試合の中で色々試すのもお前の自由じゃし、実際、そういう機会を作るために今日の場を設けた部分もある。じゃが、それでも失敗を示した以上はそれ相応の次を与えられることを覚悟せねばならん。あの場面でのバント、お前の選球眼と向こうが制球を乱してる状況を考えると、本来ならワシはもう一捻り策を弄してたかもしれん……が、誰しもがそうとは限らん。それに、そもそも守備をしてる最中の怪我などで次の打席が絶対にあるという保証もない」
「悔いが残らないように……」
「そうじゃ。二軍ならまだしも、一軍では『失敗しても』という前提に甘えすぎるな、ということじゃ。ワシは単に今日の試合で、『一軍のレベルで野球をすること』だけを望んだわけではない。そんなことは二軍でもできんことはない。『一軍で野球をすること』がどういうことなのかを知って欲しかったのじゃ……ワシみたいにならんようにの」
「そういう経験をされたんですか?」
「高卒投手の小僧が1年目でセカンドのレギュラーになって、まとまったカネをもらって遊び方を知ればそうもなる。積み重ねてきた失敗が多すぎると気付き、真面目に取り組もうとした時にはもうとっくに整理対象一歩手前じゃった。じゃからワシは美男美女を追いかけようが酒に溺れようが、犯罪に手を染めん限り何も責めたりせん。結果が出せるのならな」
「……覚えておきます」
「ならこの後の秋季リーグもオフも、存分に励め。失敗できる時に思う存分失敗しきれ。練習はそのためにある。先週も言ったが、来年も使ってやるという保証はないからの」
「あたしがこの程度のままでいる保証もないですよ?」
「言いよるわ。ならなるべく早くワシに『どうか使わせてください』と言わせられるようになることじゃ……ああ、それと」
「?」
「今日の試合、よく頑張ったの。嵐田相手に四球と盗塁、そして盗塁阻止。良いプレーじゃった。失敗のみならず成功も形に残るし、ワシはお前の今日のプレーを忘れはせんよ」
「……ありがとうございます」
調子が狂うなぁ……
「フォッフォッフォッフォッ……ようやくしかめっ面を解いてくれたのう。せっかく親御さんに綺麗に産んでもらったんじゃから、もうちょっと愛想良くせんとファンも応援のし甲斐がなくなるぞ?」
「口説いてるつもりですか?」
「これでもワシは若い頃プレイボーイだったんじゃ。あと20も若けりゃ、もっと熱烈に迫っとったじゃろうな」
「あたし、めちゃくちゃ面食いですよ?」
「それでも挑むのが男というものじゃ」
「……お気持ちだけはありがたく受け取っておきます」
「うむ。お前に期待してるのはオーナー殿だけではないからの……お疲れさん」
「お疲れ様でした。失礼します」
褒められて悪い気はしないけど、それを教える義務もない。だから淡々と、監督室を出た。
「……ゲホッ!グホッ!ゲッ……」
「?」
扉越しに聞こえる咳き込み……啜ってたお茶が変なとこに入っただけかもしれないけど……
・
・
・
・
・
・
「あの場面でのバント、お前の選球眼と向こうが制球を乱してる状況を考えると、本来ならワシはもう一捻り策を弄してたかもしれん……が、誰しもがそうとは限らん」
「ならなるべく早くワシに『どうか使わせてください』と言わせられるようになることじゃ」
「ワシはお前の今日のプレーを忘れはせんよ」
・
・
・
・
・
・
……まさかね。
******視点:柳道風******
「フッ……ようやくあの小娘とサシで話し合えたのにのう」
全く、ワシの身体もすっかりヤワになったのう。もうすぐでゆっくりできるんじゃから、もうちょっとこらえてほしいもんじゃ。
……ワシも悔いを残したくなかったからの。まだ何とかやれてる内に、旋頭や樹神に並び立てるかもしれぬあの小娘と共に戦える機会が欲しかった。最後の最後まで、選手に憧れられるワシでいたいからの。
・
・
・
・
・
・




