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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
274/1162

第四十四話 3人用なんだよ(4/8)

バニーズ 2-2 エペタムズ

9回表 1アウト

******視点:秋崎佳子(あきざきよしこ)******


「アウト!スリーアウトチェンジ!」

「これでスリーアウト!何と夏樹(なつき)のみならず雨田(あまた)もプロ初登板でパーフェクトリリーフ!!」

「8回の早乙女(さおとめ)もそうなので、一応『カーテンコール』になるんですかね?」

「一般的には『リードしてる状態で3人連続パーフェクトリリーフしたら成立』と見なすようですが……」


 すごいな、雨田くん……ううん、神楽(かぐら)ちゃんと(あい)ちゃんも、だよね。

 先々月くらいから、逢ちゃんは本当に打つようになった。元々守るのも走るのも上手かったから、わたしが勝ってるのはホームランくらい。

 今日の試合も、わたしは本当に無難に守って、打つ方ではとりあえず前には飛ばせてるっていう程度。やっぱり一軍と二軍は全然違う。わたしだって少しくらい役に立ちたいんだけど……


「おい、秋崎(あきざき)

「は、はい!」


 センターからベンチへ戻る最中、今日レフトに入ってる相模(さがみ)さんに声をかけられた。


「俺、今日試合終わったら合コンあるから、延長にすんなよ?」

「え……?」


 そう言うと相模さんは黙ってスコアボードの方に顔を向けた。


「あ……」

「雨田や夏樹のことはどうでも良いけど、千代里(ちより)のピッチングは無駄にしたくねぇんだよ」


 わたしの返事を待たずに、相模さんはすぐにネクストへ向かう準備を始めた。


「9回の裏、バニーズの攻撃。5番ライト、松村。背番号4」


 この回は松村さんからで、相模さんとわたしにも確実に回ってくる。

 つまり、『この回で決めよう』ってことだよね?


「ストラーイク!」


 でもやっぱりこういう場面で出てくるピッチャーなだけあって、球速いなぁ……


「二遊間……いや、ショート捕った!」

「ファースト!」

「アウト!!!」

「ショート黄金丸(こがねまる)、ファインプレー!今日はことごとく守りでチームを助けます!」

「ボクだから当然!」


「さっすがUZRリーグ上位常連……」

「セカンドやらせてもトップクラスやからなぁ……」


 一軍の投手はあんまり球が速くない人でも良いコースに球を集めてくるし、逆にああやって速い球をガンガン投げてくる人もいる。何とか前に飛ばせても、二軍ではセンター前になってるはずの打球を、一軍では内野安打にさえさせてくれない。

 高校からプロの二軍でも全然レベルが違ってて、それだけでもついていくのに何ヶ月もかかったのに、この1試合だけでわたしに結果が出せるのかなぁ……?


「6番レフト、相模。背番号69」

(頼むぜ、(くろ)……!)


 早乙女さんに報いたいって相模さんが言ってたように、早乙女さんもベンチで前のめりになって相模さんを見つめてる。


「ファール!」

「ストラーイク!」

「ええ加減出塁せぇやチャラ男!」

「アヘ単でも意地見せんかい!」

(言われなくてもわかってんだよ……!)


 向こうの外野は……少し前進気味。相模さんは打って出て脚を生かすタイプだから、多分わたしもそうする。

 ……こう考えられるようになっただけでも、わたしも外野手としてちょっとは成長してるはずなんだけどね。


「ファール!」

「ボール!」

「ファール!」

「ファール!」

「食らいつきます相模!」

(くそっ!普段は早打ちフリースインガーのくせに、こんな時に……!)


 相模さんはスタメンで一緒にプレーするのは今日が初めてだけど、ずっと二軍で1番を打ってて今年ようやく一軍の戦力になったって話。今日の試合で相模さんじゃなくわたしがセンターを任されたのも、お試しだから特別にってだけだと思う。


(良い加減空振れや、ベンチウォーマーが!)

(今日の先発は左でフラフラしてる奴だから思うように振らせてくれなかったが……右で速いだけなら!)

「!!?」


 捉えた……!


「センターバック!バック!……落ちました!」


 長打コース!


「!!!バックサード急げ!」


 速い、もう二塁蹴ってる……!


「うおおおおお!!!!!」

「走れ!走れ!」

「突っ込めや相模!!」


「……セーフ!!!!!」

「セェェェェェフ!!!相模、スリーベース!ワンナウトから最高のチャンスメイク!!」

「っしゃあ!!!(くろ)、ナイバッチ!」

(へっ、誰がアヘ単だよ?嚆矢園(こうしえん)で大活躍した5ツールプレイヤー様をなめんじゃねぇよ……!)


 勝ち誇るように拳を掲げる相模さん。やっぱり一軍に1年いた人は違う……


「でゅふふ……絶好のチャンスですねぇ」

「……わっ!?」


 突然後ろから声が聞こえて、振り向いたら理世(りせ)さんの姿。


「ワタクシメじゃ決められる自信がないんで……『去年のドラフト、全部当たり』ってネットに書き込まれるの、楽しみにしてますからねぇ?でゅふふ……」

「……!はい!」


 2月の紅白戦の時もそうだったよね。冬島(ふゆしま)さんもリリィさんも雨田くんも神楽ちゃんも逢ちゃんもみんな活躍してて、わたしだけ取り残されたような気分になって。

 でもあの時と違って、わたしは『ちょっと前までピッチャー』から『半人前でもプロの外野手』になったつもり。


「7番センター、秋崎(あきざき)。背番号45」

佳子(よしこ)ー!ぶちかませー!!」

「佳子ちゃんファイト!」

「秋崎!キミならできる!」


「おっぱいちゃんのおでましじゃあああ!!!」

「プルプルしたれやー!」

「さぁワンナウト三塁、一打サヨナラの場面で打席に入るのは、昨年ドラフト5位の高卒ルーキー秋崎佳子(あきざきよしこ)!高校時代までは投手として活躍、プロ入り後は俊足強肩強打の外野手として二軍で結果を出し、シーズン最終戦の切符を掴みました!!」


 さぁ来い……!


(二軍ではフリースインガーながら一発のある打者……性に合わんだろうが、慎重に行くぞ!)

(仕方ねぇな……)


 ……ッ!


「ストラーイク!」

「初球スライダー空振り!」


 やっぱり素直には来ないよね。あんなに速いまっすぐがあって、こういうスライダーもある。


「内外野は前進守備、バックホームに備えます」

「ボール!」


 前の方で守ってるからって、守備の間が抜きやすいって感覚はない。当然、スクイズとかも狙えそうもない。

 元々わたしは狙ったところに転がすとか、そういう器用なバッティングでヒットを稼ぐのが苦手。ずっと4番か5番、6番辺りだったから、『とにかく飛ばせ』って言われ続けてきた。力任せの結果しか求められてなくて、わたしもそれで良いって思ってた。

 ……確かに今のわたしには、一軍で思ったようなヒットやホームランを狙えるような実力はない。

 だけど……


「な……!?」

「打って、これは高く上がって……レフト下がって……」

「アウト!」


 思ったようなアウトなら狙える……!


(上出来だ、太眉巨乳!)

「三塁ランナー相模、スタートを切る!」


(まずい……!)

「バックホーム急げ!」


「行け!突っ込め!相模!」

「間に合えええええ!!!!!」




「セーーーーーフ!!!!!」

「ホームイン!ホームイン!相模生還、3-2!!バニーズ、サヨナラ!!!今シーズンホーム最終戦で勝利をもたらしたのは、高卒ルーキー、秋崎佳子ッ!!!!!」

「よっしゃあああああああ!!!!!!!」

「おっぱいプルプルヒッター最高や!!!」


 今日一番の歓声。手が震えてるのはきっと、ちょっと詰まらされたからじゃない。


「俺の脚だから初打点だ。泣いて感謝しろよ?」

「ありがとうございます!」


 ホームインしてから手荒い歓迎をひとしきり受けた相模さんとタッチを交わす。初めてお互いに笑い合えた。


「やったじゃねーか佳子!」

「おめでとう!」


 そして、神楽ちゃんと逢ちゃんとも。


「秋崎」

「雨田くん……?」

「ボクは『勝ち投手』とか『負け投手』とかには興味がなかったんだけど、今日で少し考え方が変わったよ」

「……あ!」


「そして、ドラフト1位ルーキー雨田司記(あまたしき)、プロ初登板で初勝利となります!」


「そっか、そうなんだよね。おめでとう!」

「ありがとう、キミのおかげだ」


 もちろん、雨田くんとも。


「おっぱいちゃーん!最高の最低限やったで!!」

「惚れてまうやろー!!!」

「来年絶対レギュラー掴めよ!」


 今は笑顔を意識して作るまでもなく、ファンの人達の声に手を振って応えられる。


 野球を始めるきっかけになったシャークスに入れなかったこと、ピッチャーを続けられなかったこと、前のビリオンズ戦で怖い思いをしたこと。そういうことで少し思い悩む時もあった。

 でも、今は胸を張って言える。プロになれて、バニーズに入れて、本当に良かったって。


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